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Season企画小説
今日も宵闇の空の下・9
 ケーキを食べ終わった後は、また手を繋いで街の散策に戻った。
 特に目的もねぇから、あちこちの店を冷かしつつ、噴水のある中央広場を目指す。
 卓上ランプを始め、カーテンとかクッションとか、こまごまと買った物は後で屋敷に届けて貰うよう依頼した。
 オレの空間ポケットに入れられねぇこともねぇんだけど、秘蔵のレングッズでいっぱいだし、表向き財布くらいしか入らねぇことになってるから、余計な申し出はしなかった。
 こんな風にゆっくりと過ごせんのは嬉しい。レン自身が魔法騎士だから、邪魔な護衛がぞろぞろついて来ることもねーし。侍従も執事も誰もいねぇ、2人だけのデートが楽しめる。
 王都よりも治安がいい気がすんのは、人口が少ねぇからだろうか? それとも、騎士や兵士が頻繁に巡回してるからだろうか?

 といっても、今は大猿のあれこれがあるせいか、普段より街中の巡回は減らしてるみてぇだ。
「オレ、も、最近は、外壁の詰め所にいるん、だ」
 そんなレンの説明に、歩きながら「へえ」とうなずく。
 まあ日頃からレンの様子を盗み見てたオレは、当然それを知ってた訳だけど、敢えて言う程のことでもねぇだろう。
「大変なんだな、えらいぞ」
 ニカッと笑って誉めながら、柔らかな髪を撫でてやる。レンは照れくさそうに笑いながら、可愛く「うん」とうなずいた。
「もうちょっと家にいてくれりゃ、文句ねーんだけどな」
「そ、それ、は……」
 オレの真面目な要望に、言葉を濁してキョドるレン。
 挙動不審な様子も、「いいよ」なんて平気な顔して嘘ついたりしねぇとこも可愛くはあるんだけど、やっぱあくまでもオレより仕事の方が優先らしい。

 まあ、そんなのは今更だ。
 だから――。
「騎士団長閣下!」
 噴水広場に差し掛かった時に、騎乗したまま駆け寄って来た騎士に声を掛けられても、「またか」と思っただけだった。
 束の間のデートだったな。けど、半日もゆったり過ごせたなんてのは初めてだった訳だし、まあ及第点だろう。
「何、だ?」
 ほにゃっとしてた頬をキリリと引き締め、レンが騎士の顔になる。この瞬間が可愛くて格好良くて、癪だけど仕方ねぇ。
 繋いだ手が自然と離れ、レンが騎士に向き直る。

 馬を降りた騎士と話すレンをやれやれと眺めてると、2人の会話がオレの耳にも届いてきた。
「北の街道……」
「商隊が襲われ……」
 漏れ聞こえる単語がどんどん不穏なものになって来て、「おい」と2人に声を掛ける。
 そりゃあ王都の中央広場に比べりゃ、人通りなんかねぇに等しいけど、それでもこんな場所で、物騒な会話するモンじゃねぇだろう。
「込み入った話なら、詰め所で話せ」
 公園の外をアゴで指し、レンの肩を叩いて移動を勧める。こんなとこで話すなって言いたかっただけで、オレは別に、話を聞きたかった訳じゃなかったんだけど。

「襲撃したのは10匹前後の大猿の群れだったようです。商人の子供2人が行方不明。群れの向かった方向もまだ、特定できておりません」

 早口で告げられた報告をしっかり聞いてしまったら、知らねぇフリはできそうになかった。

(続く)

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