Season企画小説
今日も宵闇の空の下・8
デートっつっても、王都ならともかくこの田舎の街で出かけるところは多くねぇ。
博物館もねぇし美術館もねぇ。1日過ごせるようなデカい施設もねぇし、小さい店ばっかだから、売ってる物も限られる。
けど、レンと一緒にゆっくり散歩する時間さえ、結婚してからほとんどなかったから、街歩きだけでも楽しめそうだ。
屋敷から馬車に2人で並んで座り、ゆっくりと街を目指す。
レンの腕にはオレの買った腕輪がきらりと輝いてて、それにもまた満足する。
人目のねぇ密室だからだろうか、オレが肩を抱くと、甘えるようにもたれてくるレンがすげぇ可愛い。
照れは隠せねぇようで、耳まで真っ赤になってるけど、それもまた可愛い。っつーか、照れを我慢して、オレを喜ばせようとしてくれてんのが可愛くて嬉しい。
今日は自分の誕生日だっつーのに。オレを優先してくれる、その優しさが愛おしかった。
抱き寄せて、赤くなってる頬にちゅっとキスをする。
「も、お」
照れながら身じろぎする様子に、オレの頬も緩んでくる。
じきに街中に近付いて来て、レンにじりじり逃げられちまったけど、ぎゅっと握った手までは振り払われなかった。
「こんくらいならいーだろ?」
握ったままの手を口元に寄せ、指先にもキスを落とす。レンには「も、お」ってまた言われたけど、ちっとも嫌がってねぇし。久々のらぶらぶな雰囲気で、オレの気分も高まった。
今日は1日ゆっくり街歩きの予定だから、馬車は屋敷に帰って貰った。帰りは辻馬車に乗せて貰えばいいし、レンの知り合いんちで馬車を借りてもいい。
そんな遠くもねぇし、ゆっくり歩いて帰ってもいい。
ともかく、「馬車を待たせてるから」なんて、早く帰る言い訳をレンにされたくなかった。
まあ、馬車を返しちまうと、あまりデカい買い物できなくなるけど、なんか重い物買ったとしても、後日届けて貰えばいいだろう。
普段、騎士団長として領内を巡回してるせいか、レンは街の平民たちにすげぇ人気があるようだった。
「騎士団長様!」
「あら、ホント。騎士団長様」
「今日はお休みですか?」
次々と声を掛けられ、「うへ」ってレンが照れたようにうなずく。
オレのこともまあまあ知られてるみてぇで、「そちらは噂の……?」とか訊かれたりもする。
どういう噂になってんのか気にならねぇ訳じゃねーけど、他人の評価なんか結局どうでもいいから、「どうも、妻です」って、どうっと威圧しておく。
みんながビビッてくのが、ちょっとおかしい。
さすがに面と向かってケンカ売ってくるヤツはいねーから、レンの手だって繋いだままだ。
オレらが堂々と歩いてるからか、好意的な目もそれなりに増えて来て、手を振って貰えたりするのがちょっと嬉しい。
ほらやっぱ、こういうイチャイチャアピールが日頃から足りねぇんだっつの。
本屋に寄ったり、小物屋を覗いたり、家具屋でベッドサイドに置くランプを選んだりして楽しんだ後、適当なケーキ屋に入って休憩する。
店員も客も女が多くて、ちょっと場違いな気はしたけど、「きゃあ」って歓声とともに笑顔を向けられたから、まあ歓迎はされてるようだ。
これも、騎士団長様の人気のお陰だろうか?
レンの肩を抱いて「オレのだ」ってたっぷりアピールしつつ、うやうやしくイスを引いてやる。
まあ、こういうエスコートは普通は旦那様の役目なんだけど、レンは「本日の主役」だから、たまにはオレがサービスしてやってもいいだろう。
オレはコーヒーとレモンケーキ、レンはミルクティとチョコケーキを頼んで、ケーキを半分ずつシェアし合う。
「ほら、あーん」
フォークに刺したケーキを口元に持ってくと、レンは「う、え……」ってうろたえて、でも素直に口を開けてくれた。
(続く)
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