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Season企画小説
今日も宵闇の空の下・7
 誕生日当日は絶対に休みにするんだっつって、レンはその前の日、つまりパーティーの翌日は、律儀に仕事に出かけてった。
 デートの申し出に気を良くして、ちょっと手加減し過ぎただろうか?
 日頃手加減できねぇのは、まあ、レンが可愛いからっつーのもあるんだけど、不満とストレスをぶつけてるせいもある。
 素直にオレの望む通りにしてくれてりゃ、起きれなくなるまで苛んだりしねーっつの。その辺りはレンも、いい加減学習して貰いてぇところだ。

 レンが言うには、ここんところの騒ぎの元になってる大猿の群れの行動に、どうも異変が出てるらしい。
 東の森の奥の方に見つけてたデカい巣が、いつの間にか空っぽになってたんだそうだ。
 ここんとこ、1匹2匹の小単位であっちこっちに散発的に出没してて、そのせいで騎士団もあっちこっち駆け回ってたんだとか。
 猿どもに振り回されてどうすんだ、って思わねぇでもねぇけど、大猿は家畜だけじゃなくて人も襲うから、見かけるたびに騎士団が撃退しなきゃいけねぇのは仕方ねぇ。
 騎士と兵士の違いっつったら、やっぱ馬による機動力の差だろうし、大猿を追いかけたり、現場に駆け付けたりするのには、馬を駆れる方が適してる。
 被害らしい被害は出てねぇっていうけど、出てからじゃ遅いし、騎士らが大急ぎで駆けつけてっから、未然に防げてるって面もあるんだろう。

 そう、オレだって、騎士団が出動することに反対してるって訳じゃねぇ。
 ただ騎士団長だからって、いちいち非番のレンを呼びに来なくたっていいだろって話だ。
 1匹2匹でうろついてる猿を追い回すのに、騎士団総出で行く訳じゃねぇだろう。
 その辺のことを、レンが分かってんのか分かってねぇのか、オレにはよく分かんなかった。分かった上で、仕事を優先してんのか。
 それとも案外、レンが断らねぇのをいいことに、都合よく使われてたりするんじゃねーのか?
 あれこれ考えると、どうしてもムカつく。
 オレより猿を優先するレンにもムカつくが、猿にもムカつく。どうにか根絶できりゃいいのに。

 巣が空っぽになったのを考えると、引っ越し作業でウロウロしてた可能性もあるんだろうか? 東の森から北の森へ? いっそ、もっと北の辺境の方まで引っ越してってくれりゃいいんだけど、そう簡単にはいかねぇだろう。
 いっそ大猿ごと森を焼き払えば……なんてことが、できねぇからこそ難しい。
 まあ、オレが本気出して調べりゃ、猿どもの行方を追うことは不可能じゃねぇけど、1日に1度しか使えねぇ魔法を、猿のために使ってやる気にはなれなかった。
 そもそも、騎士団の連中のオレに対する態度だって気に入らねぇ。
 わざわざ休日にレンを呼びに来るのって、新婚家庭に水を差す、そういう遊びの延長なんじゃねぇだろうか。
 レンの不在のせいで、騎士じゃねぇオレが恥をかいたっていいってか。
 そういう嫌がらせに腹を立て、協力を申し出てやらねぇのは我ながら心が狭いと思わなくもねぇけど、先にオレに協力的にしねぇのはアイツらの方なんだから、仕方ねぇ。
 レンも多分、オレの気持ちは分かってるんだろう。
 猿の巣を探すのを手伝ってくれとは、オレに言って来なかった。


 レンの「お願い」が効いたのか、誕生日当日は平穏に始まった。
 デートに行けるよう、前夜の夫婦生活も控えめにしてやったし。朝日の中の無防備なレンに欲情しても、朝から盛ったりはしなかった。
 相変わらずベッドに線は引かれたままだけど、ずっとスルーして領土侵犯を続けてやってたら、その内レンも、何も言わなくなった。
 忘れたのか諦めたのかは分かんねーけど、無駄な抵抗は時間の無駄なだけだから、今のところは問題ねぇ。
 以前注文してた、特注のミスリルの腕輪も、起きた時にプレゼント済みだ。
「オレの許可なく外すなよ?」
 鍵がねぇと外せねぇような造りにしたのは、勿論わざとだ。
 右手首にきっちりとはめ、鍵をかける。レンは「うひぃ」と悲鳴を上げて喜んでたけど、そんなに喜ぶんなら、首輪にしとけばよかったと思った。
 まあ、それは来年への課題だな。

「誕生日おめでとう、レン」
 腕輪をはめた右手を捧げ持ち、その手の甲にキスをする。
 魔力を溜めておける水晶だって説明すると、レンはデカい目を見開いて、「あり、がとう」って破顔した。
 知ってたけど、すげー可愛い。
 この黄水晶の効果で、魔法剣の威力も魔法球の威力ももうちょっと上がるだろう。持久力もきっと上がるだろう。
 レンの仕事の助けになる、レンのための腕輪だ。
 まあ、そこに添えられた黒水晶の効果で、よりオレの魔力の影響を受けやすくはなるんだけど。レンの居場所を特定し、その身の安全を見守るのは妻であるオレの役目だし。
 覗き見して保存した映像は、オレしか見ねぇんだから、何の問題もなかった。

(続く)

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あきゅろす。
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