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Season企画小説
今日も宵闇の空の下・4
 王都では3日に1回くらい、どっかでパーティーが開かれてたけど、さすがにこの片田舎の領都だと、そんなに頻繁にパーティーはねぇ。
 貴族の数だって少ねぇし、パーティ行きたきゃ王都まで出てくだろう。婚活するのにも、商売相手の物色すんのにも、王都のパーティの方がいい。
 っつーか、オレがレンと初めて顔を合わせたのだって、王都でのパーティだった。
 ただ、パーティがなくても社交はある。
 貴族同士の横の繋がりを固めるのにも、派閥との付き合いも、上流階級の平民との交流を図るのにも、社交ってのはまあ大事だ。
 その社交のために、パーティじゃなくて何をやるかっつーと、食事会やお茶会だ。
 紳士同士が集まる会合なんかもあるんだけど、そっちは地元のオッサンやじーさんらが集まる会だから、新参者なオレはちょっと肩身が狭い。
 まあ、つまりは説教とかご高説なんかは聞きたくねぇから、「旦那様」であるレンに丸投げだ。

 かといって、奥様・お嬢様らが集まるお茶会っつーのも、あまり気乗りはしなかった。一応オレも「奥方様」だけど、どこからどう見ても男だし。女の集まりに参加すんのは楽しくねぇ。
 けど、向こうはそう思ってねぇようで、しょっちゅう招待状が来る。
 桜を見る会とか、若葉を見る会とか、お茶会の開催理由は色々だけど、もう一生分の桜を見たような気がする。
 オレだって屋敷内の采配とか領地の経営とか、諸々の書類仕事を抱えてて忙しいんだっつの。のんびりお茶飲んでる暇ねぇの。なのに週1程度でお茶会に参加してんのは、これも社交になるからだ。

 実際、女性陣の情報網っつーのはバカにできねぇ。どこの家に借金があるとか、どこの誰が浮気してるようだとか、誰にどういう縁談が来てるとか。
「最近、西の街道は物騒なこともないそうですわ」
 とか。
「大通りの某とかいうカフェ、最近メニューが減りましたの。砂糖が高騰しているようで」
 とか。
 色とりどりの菓子を食べ、紅茶やコーヒーを飲みつつ交わされる世間話なんだけど、案外そこから重要な情報を拾うこともできてる。
 まあ、そういうのばっかじゃなくて、くだらねぇ話もするんだけどな。
 例えば、紳士だけの集まりについてとか。性風俗についてとか。

 オレだって好きで行ってる訳じゃねぇんだけど、こういう「男」を含んでのお茶会ってのは、よそから見ると浮気してんじぇねぇか、みたいに見えるらしい。
 女性陣の中にオレ1人男で参加すんのはいかがなものか、って。
「またタカヤ様も呼ぶのかと訊かれましたわ」
「まあ、私もですわ」
 奥様方が楽しそうにきゃっきゃと笑うのを聞かされんのはげんなりするけど、これだって各家庭の夫婦仲を推察するための情報ではある。
 小さな嫉妬の種を植え付けるっつーのも、夫婦円満の秘訣かも知れねぇ。男は安心させちゃダメなんだとか。
 それをオレに聞かせていいのかって思うけど、確かに、レンにも効果はあるようだ。
「た、タカヤ君、またお茶会、か」
 レンに不満そうに言われた時は、「嫉妬か?」って思わずニヤニヤしちまった。
 けど浮気なんか勿論しねぇし、女性陣からそういう話を持ち掛けられたこともねぇ。

 浮気を疑ってんのは、むしろ女性陣の方で。
「今、うちの主人がどこにいるか、視ていただけませんか?」
 って、お茶会の際にこそりとお願いされることが、実は案外多かった。

 そういう依頼を回してくれる奥様方は、オレの味方だ。
 お茶会自体が派閥の関係者でやってるから、大体顔触れも似た感じになってくる。領主夫人、つまりレンのばーさんの派閥ってことだ。
 女性陣の派閥についてはあんま詳しくねーんだけど、領内の有力者の顔ぶれと照らし合わせて考えてみると、いろいろと人間関係も見えて来る。
 オレの呼ばれねぇお茶会では、オレの悪口を言って回ってるヤツらもいるって。
 単純に、よそ者のオレが気に食わねぇってのもあるだろうけど、別に思惑もあるのかも知れねぇ。そう考えると、興味深い。
 騎士団の仲間同士、男たちは仲が良くても、奥方同士の仲も良いとは限らなかったり。或いは、その逆のパターンもあったり。
 親同士の仲が悪いって場合もあるようで、その場合はこういうお茶会に呼んだり呼ばれたりするのも難しいみてーだ。

 そんな知識をオレに教えてくれるのも、派閥の女性陣がオレの味方だからなんだろう。
 お茶会だ何だってしょっちゅう呼び付けんのは勘弁して欲しいけど、週に1回程度なら、まあ顔を合わせに行くのも仕方のねぇことだった。

(続く)

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あきゅろす。
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