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Season企画小説
今日も宵闇の空の下・3
 レンが炎と氷と雷の3つの魔法を使えるのに対し、オレの魔法は一種類だけだ。種類としては空間魔法で、これは結構珍しい。
 空間把握能力に優れてて、自分だけが干渉できる空間の中に小さな物を入れておくこともできる。
 他人に見られちゃヤバイ書類とか、ヤバイ帳簿とか、財布とかヘソクリとか、秘蔵の酒とか秘蔵のコレクションとか、まあ、ほんのささやかな物ばっかだ。
 実際は、一軍の遠征に必要な兵站とか余裕で収納できねーこともねぇけど、それを知ってんのは両家の親と、レンのじーさんくらいだった。
 まあその辺の事情が、政略結婚の理由ではある。
 ただ表向きは、ほんの小さな物しか入らねぇってことになってる。それを印象付けるため、普段は「空間ポケット」って呼ぶことも多い。ポケットサイズくらいだぞ、ってな。

 そのポケットに常時入れてる物の中で、どれが1番大事かっつーと、黒い魔石板だろう。帳簿を広げたサイズくらいの大きさで、魔石を板状に加工した魔道具だ。
 これは結構高価な品で、レンと婚約してから結婚するまでの間に、頑張って金を溜めて作らせた。

 オレの使える魔法には空間収納の他に、周囲に魔力の波を広げて遠くのものを見るってのがある。
 探知魔法とか探索魔法、遠見の魔法とも呼ばれるけど、結構便利だ。
 レンが領内のどこにいるのか探知することもできるし、居場所が分かればレンの姿を見ることもできる。
 勿論、それはオレの頭の中だけに見える映像な訳だけど、それを誰にでも見せられるようにできるのが、この板状に加工した魔石板だった。
 これのアイデアを出したのは、レンだ。
「タカヤ君が見てる景色、オレも見たい、な」
 って。
 照れくさそうにレンに言われちゃ、見えるようにしなきゃいけねーだろう。マジ天才かと思った。可愛い上に天才。最高の伴侶だ。
 まあ、その当時はまだ婚約者で、手ぇ出してもいなかった訳だけど。絶対この結婚を成立させようと心に誓ったきっかけだった。

 レンとの結婚は政略的なもので、状況の変化によっては婚約だって円満解消して次を探すなんて可能性も十分にあった。
 オレらだけじゃなくて貴族社会ではみんな一緒で、王都なんかでは特によくあることだと知られてた。
 オレの空間収納力を、もし大いに公言してたら、引く手あまただっただろうと思う。けど、輸送屋になるつもりはなかったし、戦場を荷物持ちとして転々とさせられんのも嫌だったんだから、今くらいの状況の方が平和でイイ。
 勿論レンが望むなら、アイツの側に張り付いて騎士団の、っつーかレン専用の兵站係にだってなるつもりだ。

 一方で、オレが結婚相手に望むのは、可愛くてあんま金遣い荒くなくて物静かで、何かに頑張れるヤツだといいなってことくらいだった。
 その点レンは100%ドンピシャで、こんなウブで可愛くて天才なのが存在したのかって驚いたモンだ。
 王都にはいねぇタイプ。まあ、つまりこのド田舎の領だからってことも大きいんだろう。
 ドモり癖があって、時々挙動不審で、言葉の選び方とか説明の仕方なんかがヘッタクソだなと思うときもあるけど、側にいりゃ慣れてくるし、下手なりに一生懸命オレに説明しようとしてくれるのが、身悶えするくらい可愛いと思う。
 仕事も魔法も剣術も、どれも頑張ってんの知ってる。手のひらの固さがその証明だ。

 誤算だったのは、レンが思った以上に仕事熱心だったってことだろうか。
 最低限の社交として、パーティに一緒に行くことはあるけど、それだってこの半年の間に数える程だ。
 まあオレだって家政っつーか、屋敷の中の采配とか領地の経営とか納税とか事務処理とか、諸々引き受けてっから暇な訳じゃねーんだけど。
 でも、だからこそ夫婦の営みを大事にしてぇっつーか、つまりはもうちょっとイチャイチャしてぇ。
 レンが足りねぇ。
 政略結婚だし、愛とか恋とかとやかく言うのは意味がねぇのかも知れねぇけど、オレとしてはレンのこと好きだし。
『こっ、この線、からは入らない、でっ』
 って、この間ベッドにマジで線を引かれちまったけど、それはそれでイジメ過ぎたかなって反省してなくもねぇし、心に線は引かれてねぇハズだ。多分な。

 はあ、とため息をつきながら、目を閉じてレンの居場所を探る。深呼吸を繰り返し、意識を鎮め、波紋を静かに広げるように、魔力の波を広げていく。
 この魔法は、範囲によって使う魔力がかなり違う。屋敷の中だけなら1日に何度か使えるけど、領内にまで広げると、1日1回程度までしか使えねぇ。
 日中は、もしものためにと思って温存してる力だけど、もう寝るだけだし、今日の分の魔力を使っちまったっていいだろう。
 「もしもの時」っつーのはまあ、例えばレンが行方不明になったりとか、山で遭難したりとか、そういう緊急事態の時だ。そんな事件が起きる可能性は低いって分かってるけど、絶対100%あり得ねぇって訳でもねぇ。
 今だって、大猿の群れと戦って、大ケガしてるかも知れねぇ。
 騎士団長ってのはそういう危険をはらむ職業で、でもそれを誇りにしてるレンだから、オレも支えていきたいとは思ってる。

 しばらく探知に集中してると、すぐにレンの居場所が分かった。
 アイツの気配は暖かく優しく輝く琥珀色。
 その琥珀色の輝きのある場所は東の森の手前、騎士団の詰め所のある街門辺りで、まだそこにいるのかよ、って心配になる。てっきり騎士団本部に戻ってると思ったんだけど。まだ大猿について、心配事があるんだろうか?
 察知したレンの姿を見るべく、今度は集中してレンの居場所に視点を向ける。
 レンは、騎士団の連中ら数人と、街壁の上にあぐらをかいて座ってて。美味そうにサンドイッチを頬張ってたから、ちょっと和んだ。録画した。

(続く)

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