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Season企画小説
クリスマスに川で泣け・4
 何か手伝うことはねぇのかって食い下がると、最初は遠慮してた三橋も「じゃあ、ゴミ捨て一緒に」って誘ってくれた。
「バットは浸け置き、しておこう」
「バット?」
 なんで唐突にバットが出てくんのかと思ったら、肉や団子が盛られてた金属容器のことらしい。
「振り回せねぇバットだな」
 思わずぼそっと呟くと、三橋がうひっと変顔で笑った。
「きゃ、客席用の、水入れるの、ピッチャーっていう」
「マジか。じゃあキャッチャーも何かありそうだな」
 オレの言葉に、「ねっ」ってにこにこ同意する三橋。高校ん時よりも気安い雰囲気で、話しやすくて、成長したなぁって感じする。

 成長の理由は、やっぱ飲食店でのバイトなんだろうか? バイトっつーと高校ん時に一緒にやった郵便局のことを思い出す。
 あん時もそういや、他高のヤツとかベテランのオバサンとかと、それなりに交流してたっけ。
「バイトで接客とかすんの?」
「する、よー」
「できんの?」
 オレの率直な問いに、三橋が自慢げに「うんっ」とうなずいた。青いゴム手を洗い場のふちに脱ぎ置いて、脇に置いてたゴミ袋の方に移動する。
 30人分のバーベキューのゴミは、燃えるゴミと燃えねぇゴミとで、デカいゴミ袋に2つ分あった。
 ちゃんと分別してあるのは、紙皿や割り箸を回収すんのを吉川先輩が仕切ってたからだ。何だかんだ、面倒見がいいんだよなと思うのはこんな時だ。

「タレのビンも、浸け置きだ」
 三橋が呟きながら、燃えねぇゴミの袋をガシャガシャかき回して、タレの空きビンを次々取り出す。それを、水を張ったバットの中に沈めりゃ、後は酒のアルミ缶ばっかだ。
「結構飲んだなぁ」
 オレの飲んだ発泡酒の缶も入ってんだろうけど、その数は30どころじゃなさそうで、ちょっと呆れる。
 まあ、4年の先輩は特に何本も飲んでたっぽいから、そりゃそうか。
 発泡酒って段ボール1箱に何本入りだっけ? 発泡酒の箱とチューハイの箱があったから、そりゃあ空き缶も多いよな。アルミだから軽いし特に負担でもねぇけど、用意すんのは大変だっただろうなと思う。

 三橋と一緒に集積所までゴミを運んで戻って来ると、洗い場の横になぜか吉川先輩らが待っていた。
 カラオケ行ったんじゃなかったのか? 忘れ物か? 不思議に思いつつ近寄ると、「おーい」と声を掛けられた。
「三橋ぃ、お疲れー」
 明らかに酔った顔で、大きく手を振って来る吉川先輩。手を振った拍子にバランス崩してよろめいてて、足取りがマジでヤバイ。一緒にいるゼミの4年の先輩は、さっき見た発泡酒の段ボールを抱えてる。
 段ボールを捨てに来たんだろうか? まあ、あれ抱えたままカラオケには行けねーよな。っつーか、まさか「捨てて来い」とか言わねーよな?
「どうしたんスか?」
 不審に思いつつ尋ねると、答えの代わりに「ほらよ」と段ボールを差し出された。中にはまだ数本、酒の缶が入ってて、ちょっと重い。

「悪ぃけど処分してくれねぇ? 余った酒、全部持ってっていーから」
「はあ? まあ、いいっスけど」
 空箱だけ渡されてたらふざけんなって感じだけど、酒ごと貰えるんなら文句はねぇ。箱をちらっと見ると24本入りって書いてるから、発泡酒とチューハイとで合計48本。
 オレも三橋も1本しか飲んでねーし、多分ゼミの同期らもそうだったから、余るのは当然か。
「ふおおっ、いいんです、かっ?」
 三橋は素直に喜んでるけど、これ絶対、余りモンを押し付けられただけだろう。たとえ持ち込み可のトコだとしても、これ持ってカラオケには入り辛ぇし。
 くれるっつーなら貰うけど、「いい人、だっ」って目ぇキラキラさせて感動すんのは大袈裟だろと思った。

 先輩らが去った後、段ボールを覗くと酒の缶は6本あった。
「オレ、袋、ある」
 三橋がとつとつと言って、上着のポケットからビニールのレジ袋を2枚取り出す。
 上着っつっても、三橋が着てんのはスポーツマンらしいウィンドブレーカーの上下だ。高校時代はこういうの着てランニングしてたモンだったけど、今この河川敷でじっと立ってるのにはひどく寒そう。
 オレなんか厚手のウールのロングコート着てても寒ぃのに。
「お前、それ寒くねーの?」
 率直に訊くと、三橋は酒の缶を3本ずつレジ袋に移しながら、きょとんとオレを見返した。
「さ、寒くないよ。カイロ、お腹と背中、貼ってる、し」
「ふーん、一応ちゃんと考えてんだな」
 感心したようにうなずくオレに、三橋がうへっ、と照れ顔で笑う。
 そんな話をしてる間に、酒の缶を移し終えたらしい。三橋はべりべりと音を立てて、酒の段ボールを解体して畳んだ。

 その畳んだ段ボールを小脇に抱え、三橋が軽快な足取りで駆け出す。
「オレ、これ、捨てて来る、ねっ」
「あ、おい……」
 とっさに呼び止めたけど、それで足を止める三橋じゃねぇ。たたっと去ってく背中を見送り、やれやれとため息をつくしかなかった。
 まあ、集積所まではそんな遠くもねぇし。段ボール1つを持ってくのに、一緒についてく必要もねぇ。
 じゃあ、代わりに洗い物の続きでもしといてやるか。
 三橋の残してったゴム手袋に触れると、確かに分厚くてしっかりした感じだった。試しにはめると、ホントに水が冷たくねぇ。
「おお、すげぇ」
 こんなゴム手、あるんだな。業務用か? 材質は何だろう? ただのラテックスじゃねーよな?

 コートの袖口をまくり上げ、水の張られたバットに手を突っ込んで、タレの空きビンを掴み上げる。ビンを掴んでる感触はしっかりあんのに、やっぱ冷たさは感じなくて、興味深い。
 ビンをひっくり返して水を捨てると、タレの汚れはまあまあ落ちてる。
 どうせこれも後でゴミ捨て場に持ってくんだし、ざっくり洗うだけでいいだろう。じゃあじゃあと冷水を出し、じゃぶじゃぶと次のビンを洗う。
 そうしてる内に三橋が駆け足で戻って来て、オレを見て「あっ」と言った。
「オレ、の」
「借りてるぜ。このゴム手、ホントに冷たくねーな」
 ビンを洗いながらニヤリと笑ってると、まくったハズのコートの袖口が落ちて来た。

 とっさに腕をぐっと上げてから、ビンを置いてからにしろよと気付く。けど、もう遅くて――ビンに入ってた冷水が、腕を伝うように落ちて来た。

(続く)

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