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Season企画小説
クリスマスに川で泣け・3
 団子を全部たいらげた後は、そこで一旦解散になった。肉もねぇし団子もねぇし、酒もねぇ。コンロの火を落とせば、温もりもねぇ。
「寂しいお前らぁ、クリスマスを川で過ごして、存分に泣いたかー?」
 吉川先輩がこぶしを振り上げて、クリスマスの河川敷に吠える。ろれつはしっかりしてるけど、足元が怪しい。目つきも怪しい。
 ここで解散して帰宅した方がいいんじゃねーかと思ったけど、先輩らはまだまだ二次会に行くらしい。まあ、肉も団子も美味かったから、余韻に浸りてえ気持ちは分かる。まだ3時だし。
「オレは泣きたりねぇぞ、歌いながら泣こう! オレの陰鬱な歌を聴けーい!」
 そう言ってるところを見ると、カラオケかどっかに行くようだ。
 クリスマスに男だけの河川敷バーベキューもどうかと思ったが、クリスマスに陰鬱なカラオケ大会も最悪じゃねーかと思う。
 まあ、このバーベキュー会場は3時までだって話だし、それでなくてもクソ寒いから、移動すんのは賛成だ。

「お前らカラオケどーすんの?」
 ゼミの同期らに訊くと、「どっちでもいい」って猫背気味に言われた。
「陰鬱なカラオケでも何でもいい、暖かいトコ行きてぇ」
「寒い。凍死する。寒さがコートを貫通する」
 そんな呟きを聞くと同時に、びゅうっと冷たい風に吹かれ、ツッコミ入れる気力も吹き飛ぶ。厚手のウールのコートは風こそ貫通しねぇけど、じんわりと寒い。
 さっきより寒くなったと感じるのは、バーベキューコンロの火が消されたからか。それとも発泡酒の酔いが醒めて来たからか。
 もう夕暮れが近いからかも知れねぇ。
 体の芯からって訳じゃねーけど、表面が寒い。顔が寒い、手が寒い、風が寒い。昨日まではなかった寒さだ。今更雪なんて降らねーよな?
「さっむ」
 同期のことを笑えねぇ。オレも猫背になって寒さに耐える。
 みんなの言う通り、ここじゃねぇどこか暖かいトコに行きてぇ。けどその前に、トイレに行きてぇ。

 トイレはどこだっけ? 管理棟の方か? 身を屈めつつ速足で建物の方に向かうと、その手前の石造りの洗い場んとこに、三橋の後姿が見えた。
「三橋?」
 近付くとざぁざぁと水音が聞こえ、何やってんだろうと覗き込む。そしたら、さっき使ってた金網やトングを洗ってて、後片付けしてんだと分かった。
「お前、何やってんだ?」
 ビックリして訊くと、三橋は「ふおっ、ふあっ」と奇声を上げてオレの方を振り向いた。
「うお、阿部君、か。あ、洗い物、してる」
「んなの見りゃ分かるっつの。そうじゃなくて」
 以前と同じとつとつとした喋り。きょとんと首をかしげる様子は、相変わらず何も分かってなさそう。
「なんでお前が1人で洗ってんだ、っつー話だよ。大勢いるんだし、声掛けろよな」

 ムッとしつつも手を伸ばし、水にさらされてる金網に触れる。そしたらそれが無茶苦茶冷たくて、思わずひっと息を呑んだ。
「水じゃん!?」
 見れば、蛇口のハンドルが水の分しかついてねぇ。湯気も何も出てねぇし、そりゃそうかと思うけど、真冬に冷水って何だそれ。
 でも、三橋は何の疑問もなさそうだ。
「さ、触ると冷たい、から、いいよ」
「お前は冷たくねーのかよ!?」
「ん? うん。割とヘーキ。ゴム手あるし」
 平気な訳ねぇだろうと思うけど、実際三橋は顔色も変えずにじゃぶじゃぶやってて、見てるオレの方が寒くなった。
 ゴム手袋してりゃ、ホントに水でも冷たくねーんだろうか? 直接肌に触れねぇからか? けど、三橋は結構ウソつくの下手だし、やせ我慢してる感じでもなさそう。
「あ、オレ、洗い物してるの、お手伝いだから、だ」
 と、思い出したように理由を話してくれる様子も自然な感じで、ギョッとした分、拍子抜けした。タダ飯とタダ酒のお礼なんだと言われりゃ、納得もする。

「阿部君は、トイレ?」
「ああ」
「そこ、あるよ」
 じゃぶじゃぶと金網を洗いながら目線で示され、「おー」と向かう。先輩らも次々撤収して来たみてーで、トイレには知ってる顔が何人もいた。

 トイレも寒かった。単に換気のためなのか、それとも溜まり場にならねぇようになのか? 窓が全開になってて地味に風が吹き込んで来る。
 水道だって水しか出ねぇ。けど、三橋のいる水場だってそうだったし、あっちの方が寒いだろうと思った。
「阿部もカラオケで泣くだろ?」
「いや、泣けねぇっス」
 改めてビミョーな誘い方されたけど、カラオケは辞退して「お疲れっした」と頭を下げる。
 ゼミの同期は、寒ぃ寒ぃとぼやきつつ、先輩らの集団についてくらしい。陰鬱な歌を歌う会でもいいんだろうか? 寒すぎて頭働いてねーんじゃねーかとも思ったけど、単に予定がねぇだけかも知んねぇ。
 オレだって、三橋がいなけりゃそのままついて行ったかも。
 クリスマスだからって、特別に一緒に過ごしてぇ誰かがいる訳でもねーし、暇だし、みんないるから。
 けど、三橋に気付いた以上は放っとけねぇ。陰鬱なカラオケになんとなく行くより、ドモリがちな旧友の方を手伝いてぇ。

「何か手伝うことあるか?」
 三橋の側に寄って訊くと、「なんで!?」って驚かれたけど、コイツの言葉が足りねぇのは今に始まったことじゃねーし。イヤな気分にはならなかった。
「えっ、に、二次会、は?」
「行かねぇ」
 キッパリ答えたオレに、三橋はやっぱり目を見開いてビックリ顔になった。
 デカい目と一緒にデカい口もぱかんと開いてて、その間抜け面も相変わらずだなぁと、なんだか懐かしくて笑えた。

(続く)

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