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Season企画小説
狂おしくキミを恋う(Side A) 3
 野球部の合宿に行ったり遠征に行ったりで、三橋が長期間留守にするときは、今までにもあった。明かりの消えた部屋や、溜められてねぇ風呂だって、慣れていると言えば、慣れている。
 けど、今までのそれと決定的に違うのは、オレへの気遣いの無さ、だった。

 牛乳の買い置きが無い。お茶の作り置きも無い。カップめんや食パンのストックも。今まで、当たり前に思ってた。いつもの場所に、いつもそれらがある事を。


 三橋が出てった日、2月14日の夜。オレは三橋のケータイに電話した。けど、電源が入れられてなかった。次に田島に電話した。こっちはすぐ、留守電になった。
「阿部だけど。三橋と話したい。また連絡する」
 メッセージを入れる。
 けど、もう寝てんだろうとは分かってた。あいつらどうせ、12時過ぎて起きてねえ。アスリートは朝、早ぇーもんな。
 三橋にも一応、メールを送った。
「話したい。なるべく早く帰るから」

 まあ、早くと言っても、10時は絶対に越えっけど。だってカテキョーが9時半までだし、そっから電車乗るんだぜ。バイトの後に、研究室に寄ってくのをやめるぐれーしか、調整できねーもん。
 国立の前期試験日が月末だから、2月いっぱいまでバイトは続けなきゃ。教え子、放り出せねーし。
 ってか、三橋だってそろそろキャンプや遠征が始まる頃だ。3月からオープン戦だし、忙しくなんのはあっちだって同じじゃねーか。
 


 結局、三橋からは何の連絡もないまま、日曜になった。田島からは何度か着信来てたが、すれ違いばっかりで話せなかった。一回貰ったメールには、「説得しておく」とだけ書かれてた。
 約束通り、昼過ぎに花井が来た。巣山もいっしょだった。二人とも難しい顔で、にこりともしねー。機嫌が悪ぃのはオレの方だっつの。まだ三橋と連絡取れてねーし。
「何の荷物だって?」
 オレの問いに、花井が言った。


「三橋の、引越しの荷物だよ」


 一瞬、意味が分からなかった。
「はあ? 引越しって、何それ? 聞いてねーぞ!」
 花井に食って掛かると、巣山が冷たい声で応えた。
「もうお前とは、やってけねーんだと」
「おい、そんな……」
 花井が巣山をたしなめる。そして、気遣わしげに笑って言った。
「あんなぁ、とにかくオレ達、三橋に頼まれただけだから。荷物、貰ってくな」
 そんな事言われたって、はいそうですか、って訳にゃいかねーだろう。
「待てよ!」
 オレは巣山と花井の肩を掴んで、振り向かせた。巣山がオレの手を振り払った。そして言った。
「お前、浮気したんだって?」

 はあ? 浮気? 

「する訳ねーだろ! んな暇あったら、三橋とすれ違ってねーっつの」

 なんでそんな話になるんだ?

「三橋が見たって言ってたぞ」
「いつだよ? 誤解だって。いつのどんな話だよ?」
 すると巣山が舌打ちをした。
 むっとする。なんでそんな態度、取られなきゃなんねーんだよ?
「月曜。お前、ここに女連れて来たんだろ? 三橋と鉢合わせしたらしーじゃねーか」
「月曜?」

 鉢合わせ? 女連れて……って、安久津か!

「あ、あいつはただの同級生だぞ。しかも三橋のファンだ! 三橋目当てにここ来てたっつーの! ほら、三橋宛のチョコだって、預かってる!」
 オレはダイニングテーブルからチョコを取り上げ、巣山に差し出した。赤い包装紙には安久津が書いた、ハートと「好きです」の文字がある。
「お前宛だろ?」
「違うって!」
 くそ、安久津。宛名書いとけよ。

「三橋と直接話す。あいつ、どこだ?」

 すると、花井がため息をついた。
「九州だろ」
「はあ? 何で九州……」
「キャンプ行ったんだよ、もう。お前、そんな日程も頭に入ってねーのか?」
 キャンプ……。
 真っ白なカレンダーを見る。
 もちろん、そろそろだとは思ってた。遠征だって。オープン戦だって。そろそろ始まって、三橋は忙しくなって、また……。


 また、あいつの姿を、テレビで。


「もうここには帰って来たくねーんだって」
 花井が言った。
「……なんで、だよ?」
 巣山が言った。
「お前の顔、見たくねーんだって」
「何でだよっ?」
 ガンッ! 腹立ち紛れに壁を蹴る。すると花井が、ため息をついた。
「あー、これかー。そりゃ三橋も参るわ」
「はあ? さっきから何なんだ!」
 バンッ! 左のこぶしで壁を叩く。イライラして、怒りのやり場がどこにも無くて。と、巣山に突然、胸倉を掴まれた。そのままくるっと反転して、壁に背中を打ち付けられる。
 痛ぇ、このっ。
 怒鳴りつけようと、巣山の顔を見上げる。オレが口を開くより先に、巣山が言った。
「そういうの、DVっつーんだよ!」

 はあ? DV?

「あのさ。直接暴力振るうんじゃなくてもさ。そうやって壁を蹴ったり、怒鳴ったり、物を投げたり。その、無理矢理……」
 花井が口ごもったのを、巣山が続けた。
「レイプしたり」
「うーん、まあ、二人の問題かも知んねーけどさ。でもお前、分かってたハズだろ? 三橋はメンドクセー性格なんだよ。過去にイジメも受けてる。お前にその気が無くても、やっぱDVになると思うぜ」
「D……V………」

 そんなつもりは無かった。
 暴力とか。
 DVとか。
 けど、この前三橋が泣いたのは……。
 あの時、どんなやり取りがあった? オレはあいつに何て言った?
 三橋………。


 呆然と壁にもたれるオレを放って、花井と巣山は三橋の部屋に入って行った。一つ、また一つと運び出されるダンボールに、ギョッとする。
 荷造りなんて、あいつ、いつの間に?


 この1週間。三橋がいない間に、何で部屋に入ってみなかったのか。何で放りっぱなしにしちまったのか。
 後悔しても、遅かった。



 

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あきゅろす。
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