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Season企画小説
クリスマスに川で泣け・2
 三橋は予想通り、吉川先輩とはバイト先が一緒らしい。年上だから敬語で話すけど、先輩後輩の間柄かっていうと、ちょっと違うみてーだ。
 何のバイトか訊くと、焼肉グリルの店だって。道理で肉を焼く様子がサマになってる。
 今日の肉も、その店から割引価格で仕入れたらしい。だから会費も安かったのか。つーか、だからバーベキューだったのか、と思った。
「そこは、まかないが、肉」
 嬉しそうに口元を緩めて笑う姿は、高校ん時の食いしん坊と何も変わってねぇように見える。
「阿部君、は?」
「オレはゼミの後輩。後期試験の過去問とノートのコピーが欲しくて参加かな」
 オレの言葉に、「へ、え?」と三橋が曖昧にうなずく。まあ、同じ大学じゃねぇんなら、定期試験の過去問もノートも意味がねぇか。
 じゃあ何のために来たのかっつーと、手伝いに呼ばれたんだそうだ。

「オレ、は、吉川さんが、肉食わしてやるから、手伝って、って」
 肉をじゅうじゅうと焼きながら、三橋がにへっと頬を緩める。
 肉につられて手伝いに来たのか。物好きだなと思う反面、自分だってこんな会に参加してる訳で、あんま他人のことは笑えねぇ。
 何が楽しくてクリスマスに河川敷でバーベキューなんかしなきゃいけねーんだと思ってたけど、思いがけない再会のお陰で、ほんの少しマシな気分だ。
 腹に溜まってく肉と酒のせいかも知れねぇ。
 さっきまでみてーに「さっむ」と猫背になることもねぇのは、コンロの間近で喋ってるからか。足元は確かに寒いのに、それすらもあんま気にならねぇ。

「そんで1人で肉焼いてんのかよ? 淋しいクリスマスだな」
「そっ、そっちだっ、て」
 短く言い返され、顔を見合わせてにやりと笑い合う。高1の時にはできなかったこういう気安いやり取りも、そういえば久し振りだ。
 緩んだ笑みを見せる三橋の頬が赤いのは、火の近くにいるからだろうか。
 みんながコンロ前に来ては肉や野菜を取ってって、そのたびにオレらの会話も途切れる。
 そしたらオレは肉を食い、発泡酒を飲んで、皿を空にしてはコンロに近寄った。三橋も合間に肉を自分の皿に取り分け、遠慮なく頬張ってる。
「これ、焦げそう」
 とか言いながら、焦げる前に食う気満々だ。

 吉川先輩も、みんなの周りをフラフラしつつ、時々こっちにもやって来た。足取りも怪しいけど、緩みっぱなしの顔も怪しい。
「よう阿部、楽しんでるかー?」
 ガシッと肩に腕を回され、「まあ、そうっスね」と適当にうなずく。
「な、楽しいよな、来てよかったよな! 雪降らなくて残念なくらいだろ。クリスマスに寂しい男たちが集まって、みんなで川で泣くの、いいよな!」
「まあ、寒くて泣きそうではあるっスね」
 ぼそっとツッコミを入れながら、発泡酒の残りをあおる。
「みんな泣けよ、地団駄踏めよぉ」
 先輩はじたじたと足踏みしながら、コンロ前で喚いてる。地団太じゃなくて足踏みって言って欲しいとこだけど、先輩がやってるとホントに地団太に見えて来てスゲェ。勿論、誉めてねぇ。
 この人、絡み酒だったのか。ウゼェなぁ、と口には出さずにぼやいてると、そこにまた、空気を読まねぇ声が「あの」って会話に入って来た。

「吉川さん、そろそろ肉、終わりです」

 三橋の報告に、「マジ、もう?」って目を見開く吉川先輩。ふらーっとして足取りも怪しいけど、不思議と頭は働いてるみてーだ。
「1トンなくなったか」
「10kg、です」
 酔っ払いの冗談に、三橋が真顔で訂正を入れる。
 1トンはさすがにねぇけど、10kgだって十分すげぇ。確かにオレも食ったし三橋も食った。先輩らや他の参加者もヤケクソのように食ってたから、キレイになくなるのもうなずける。
 「食わなきゃやってらんねぇ」って、オレも確かにぼやいてた。
 それに、男ばっかだもんな。
「野菜も、これで最後、です」
 そう言いながら、三橋がざく切りのキャベツをコンロに乗せた。タマネギスライスも芋やカボチャも、もう残ってねぇようだ。
 肉の入ってた四角い容器も残り1つが半分以下になってて、改めて、食ったなぁと自覚した。

「おーい、もう肉終わりだぞー!」
 先輩の大声が、寒風の中に遠く響く。寒さに耐えるように数人ずつで固まってた連中が、「うーい」と返事してコンロ前に寄って来る。
 寒さに震えながら紙皿を持ってるヤツもいれば、「もう肉はいいや」と皿を放棄して、猫背で震えてるヤツもいる。その一方で、「満腹満腹」と赤い顔して笑ってるヤツらもいて、それは多分酒を飲んでた連中だろう。
 オレも発泡酒を1本飲んだけど、じわっと腹が熱くなっただけで、顔までは赤くなってねぇ。
 三橋も甘い系の缶チューハイをちびちびと飲んでたけど、同じく酔ってるようには見えなかった。
 三橋って何となく、酔ったら真っ赤になりそうだよな。何でか? 色が白いからだろうか? 二十歳になってもまだ頬の辺りがぷるんとしてて、ウブなイメージあるからか?
 取り留めもねぇことを考えながら、肉がなくなってくのを眺めてると、吉川先輩が「よっしゃー」と突然大声を上げた。
「締めの団子だー!」

「団子……?」
 団子って何だ? バーベキューの締めに団子?
 疑問に思ったのはオレだけじゃねぇようで、コンロ周りに集まってるみんな、不思議そうに首をかしげてる。
 そんなオレらの前に、6肉と同じ金属の容器に山盛りの白い団子がドーンと置かれた。
 置いたのは、勿論三橋だ。
「団子、焼いて行き、ます。タレは、焼き肉のとみたらしのと、お好きなのどーぞ」
 慣れた口調でそう言って、三橋が団子を焼き始める。近寄ってよく見ると、団子は4つずつ串に刺されてて、タレのついてねぇ状態のだと分かった。
 コンロの網もいつの間にか取り換えられてて、肉の匂いはもうしねぇ。風が強いせいで、団子の匂いもしねぇけど、くるくると焼かれてく団子はすげぇ美味そうに見える。
 これも、バイト先から仕入れたんだろうか? 団子を焼く手つきに迷いがなかった。

「阿部君も、どーぞ」
 焼きたての串団子を三橋に差し出され、紙皿に受け取る。
 バーベキューコンロで団子を焼いて食うなんて、オレは初めて知ったけど。三橋の焼いてくれた団子は、焼き肉のタレでもみたらしのタレでも、どっちも熱々で美味かった。

(続く)

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