Season企画小説
カボチャとニンニク (原作沿い高1・2022ハロウィン)
今日はハロウィンだと田島が騒ぐので、野球部の数人で練習後、田島家を訪れた。
「じゃーん! ハッピーハロウィーン!」
はしゃいだ声を上げて、田島が広い庭に山のように飾ったたくさんのカボチャを自慢する。
普通の深緑のがほとんどだけど、ちらほらとハロウィンらしいオレンジ色のも混じってる。
頑張って、中をくり抜いたカボチャもあるみてーだ。5つ程のデカいヤツにはロウソクの火が灯されて、見事なジャック・オー・ランタンになっていた。
「すっげーな、手作りか?」
「すごい、すごい」
泉や三橋に素直にランタンを誉められて、田島も「だろー?」って自慢げだ。きっと見せたかったのは、コレなんだろう。
主に作ったのは、大学生の兄貴とその友達だったらしいけど、田島もちょっとは手伝ったらしい。
丸ごと軽くレンチンしてやるとくり抜きやすい、とか。
頑張って実を削って、皮ギリギリまで薄くしてやると、きれいな発色になるんだとか。
しっかり乾燥させると日持ちするけど、水気の残ってる方がロウソクには安心だよな、とか。そんなウンチクを聞きながら、カボチャの山の写真をケータイに保存する。
表面にデコボコのついた虫食いカボチャは、売り物になりそうにねぇけど、ハロウィンのオブジェにはピッタリだ。
三橋や泉、水谷らもオレと同様、「すげー」とはしゃぎつつ写真を何枚か撮り合った。
写真撮影の後は、ランタンに照らされた庭の様子を眺めながら、カボチャ料理をご馳走になった。
「今年はカボチャが豊作でねぇ」
田島のオバサンが、笑いながら幾つもの皿を並べてくれる。
カボチャのシチューにカボチャのおやき、カボチャのピザまで出て来たのには驚いたけど、田島家なら何でもアリだなと思えてしまうのが不思議だ。
「ピザ窯あんの?」
「本格的なんじゃねぇけどな」
そんな会話を聞きながら、熱々のピザを一切れつまむ。
イチョウ切りのカボチャとウィンナーとチーズだけのピザだったけど、焼き立てだからかシンプルに美味い。
「うまっ」
思わず呟くと、テーブルの向かいに座ってた三橋が、オレを見てにへっと笑った。
「お、お焼きも美味い、よっ」
田島らに囲まれてお焼きを食ってる、三橋に「へえ」と笑みを向ける。
「これっ、チーズ!」
「ツナも入ってねぇ?」
「こっち、ひき肉だ」
わいわいとお焼きの中身を語ってる様子は、すげぇ楽しそうで微笑ましい。ほのぼの眺めてると、オレにもお焼きを1個、三橋が「どーぞ」と手渡してくれた。
オレとしてはしょっぱい系のピザの方が好きだけど、もちもちで甘いカボチャのお焼きも悪くねぇ。
1人で食うよりもみんなで食う方が、そりゃあ何倍も美味いよな。
もしかすると田島は、三橋のためにこのカボチャパーティにオレらを呼んだのか? そんなことをつい考えてしまうのは、三橋んちの両親の帰りが遅いのを知ってるからだ。
思春期の恋人同士としては、親の帰りの遅さは喜ばしい面もあるんだけど、それがしょっちゅうってなると、やっぱ寂しいよなぁとも思う。
その寂しさに、田島家の方がオレより敏感で、ちょっと悔しい。
田島よりも泉よりも、浜田よりも。三橋に寄り添える存在でありてぇなんて思うのは、青臭い感情なんだろうか。
田島家でのカボチャパーティを終えた帰り道も、三橋はずっと機嫌よかった。
これがハロウィンか、っつったら正直ビミョーではあったけど、それなりに思い出にはなったかも。
カボチャでハロウィンってのはアメリカ発祥で、元々のランタンは白カブで作られてたらしい。くり抜く手間を考えると、柔らかいカブの方が納得な話だ。
けど、そんな違いはどうでもいい。大事なのは、楽しめたかどうかだ。
「ランタン、すごかったな」
オレの短い感想に、自転車を漕ぎながら三橋がうなずく。
「か、カカシも、すごかったね」
「カカシなんかあったか?」
「あ、あった、よ。カボチャの頭、してた」
カカシには別に興味ねぇけど、見逃したと思うと、地味に残念。
「カボチャの頭って、どんなんだよ」
ジャック・オー・ランタンが頭部についてるんだろうか? 頭もランタンか? 光るのか? 想像すると、ちょっとおかしい。
くくっと笑ってると、「写真、撮った」って言われた。
「み、見に、来る?」
2人きりになってからの、ささやかな誘い。
夜道で、自転車で、だからどんな顔して言ってんのかは見えねぇけど、可愛いと思う。「おお」とうなずくオレの、笑みに崩れた顔だって、三橋には多分見えてねぇ。
みんなと一緒の賑やかさも悪くねぇけど、恋人との2人の時間も重要だ。
ケータイで撮った写真なんか、今ここでも見れるだろ……なんて、無粋な指摘をする気にはなれなかった。
10月最後の夜を、自転車で走る風は冷たい。
三橋んちに向かう、通い慣れた住宅街の夜道にはハロウィンらしさのカケラもなくて、それが当然だけど少し寂しい。
虫の声もいつの間にかほぼほぼ聞こえなくなってて、秋も深まったなぁと思う。
三橋んちにはいつも通り、灯りの1つも点いてなくて、思わずその肩に腕を回した。
月明かりに照らされた玄関先には、なぜかニンニクのリースが飾られてた。
黒とオレンジのリボンで可愛く結ばれてはいるけど、まさにニンニクって感じで香ばしい。っつーか臭い。
「何コレ、ニンニク?」
思わず訊くと、「ハロ、ウィン」ってたどたどしくうなずかれた。
「お、父さん、反対してた、のに。結局飾った、んだ、な」
困ったようにぼやく様子に、悪いけどちょっと笑えた。ってことは、コレを飾ったのは三橋のオバサンなのか。大学准教授、ヤバくねぇか。
「ヨーロッパでは、普通だ、って」
「ホントかよ?」
ホントなのかウソなのか、それとも間違った情報なのか、すげー怪しい。
「ドラキュラ除け?」
「魔除、け?」
って、首をかしげてるとこが、既に怪しい。けど、こんなハロウィンも楽しいならそれでいい。
「残念ながら、虫除けにはならねーみてーだな」
無防備な白い首筋にちゅうっと吸い付くと、「もおっ」って三橋が可愛くはにかむ。
「あ、阿部君、虫なの、か?」
「そう。悪い虫」
親の不在を見計らい、勝手知ったる感じで上がり込んで堂々と居座る、悪い虫だ。
「じゃあ、オレは、虫食いのカボチャ、か」
真実に気付いた、みてーな顔で、納得したようにうなずく三橋。
「何言ってんだ」ってツッコミを入れつつ、不覚にも笑えた。悪い虫のオレと、虫に食われたカボチャの三橋と。その関係性を否定できなくて、くくっと笑いながらカボチャの肩を抱き寄せる。
どちらからともなく重なった唇には、お焼きのカボチャの素朴な甘みが残ってて、美味い。
これがハロウィンかっつーと、やっぱりビミョーだと思うけど。白カブよりもニンニクよりも、甘いカボチャの方が三橋には似合ってるよなと思った。
(終)
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