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Season企画小説
ダブルデート・後編 (にょた)
 明るいうちに電車に乗ったけど、乗ってるうちに暗くなった。
「こいつ、家まで送ってくから」
 阿部がそう言って、三橋の背中を押しながら、先に電車を降りてった。

 うわー、ナチュラルだな。
 2人だけ、ここで先に降りるのは知ってるんだからさ、送ってくとか、堂々と報告しなくてもいいよ〜。つか、もうそのまま付き合っちゃえば?
 オレも篠岡を送りたい! 送らせて!
 どうせ、「えー、いいよ、ここで」とか言われるんだろうけど、今日は食い下がって強気に出たい。
 先んじて努力!!

 次にオレの最寄駅に着いたけど、降りなかった。扉が閉まってから、勇気を出して篠岡に言う。
「送ってくから」
 篠岡が、驚いたみたいにオレを見た。
 えー、いいよ。そう言われるのを覚悟する、けど。
「ごめんね、ありがとう」
 そう言って、篠岡は、ちょっと赤い顔でにこっと笑った。

 えっ、それって、送ってっていいって事!?
 マジ?
 家まで送って行っちゃうよ? 玄関入るまで見送っちゃうけど、ホントにいいの?
 はっ、それとも「No,Thank you」の意味?
 一瞬考えちゃったけど、人生ポジティブシンキングだと思って、篠岡の最寄駅で一緒に降りた。
 そこで「じゃあね」とか言われたらダメージ大きかったけど、オレが乗り越し精算を済ませるまで、篠岡は待ってくれてた。
 これって、やっぱり送ってってOKって意味だよね?

 今更だけど、阿部、グッジョブ! 阿部のあの一言が無かったら、送ろうって勇気も出なかったよ。
 篠岡は駅の自転車置き場で自転車を取って来て、でも、それをカラカラ押しながら一緒に歩いてくれた。
 両手で自転車のハンドル握ってるから、手なんて勿論繋げないけど、でもこうやってわざわざ歩いて帰ってくれるって、ちょっとちょっと! いい感じって思っていい!?
 駅から篠岡の家まで、歩いて30分。
 いろんな話をしたよー。今日の映画の話とか、冬休みの宿題の話とか、始業式終わってすぐの、課題試験の話とか。

 けどその内、ふっと会話が途切れて。そしたら篠岡が、何か思い出したみたいに「ふふふっ」と笑った。
「廉ちゃん、いい感じだったよね? 阿部君も絶対、悪い気してなかったよね?」
「してなかったねぇ〜。むしろ、楽しんでた気がするね」
 オレがしみじみ言うと、篠岡はくすくす笑ってる。

 あれー、何だろう、この感じ?
 何か、篠岡って……三橋と阿部のコト、応援してるっぽい?
 それとも、オレの願望?
 三橋を応援してる、つまり、阿部のことは諦めてる……つまり、阿部のコト、もう好きじゃない!?

 チャンスなの!?

 と、そうしてる内に、いつの間にか篠岡の家まで着いていた。
 はー、楽しい時間はすぐに終わっちゃうよね。
 でもチャンス到来。
 いやいや、チャンスだからって焦らないよ。先んじて努力! 

「じゃー、今日は誘ってくれて、ありがとねー」
 そう言って、オレは潔く手を振った。
 篠岡が玄関に入るまで見届けたいし。
 けど――何でか篠岡は、自転車を門の前にガッシャンととめた。それから、ショルダーバッグの中をゴソゴソ探して、小さな包みを取り出した。
 そして、赤い顔で言ったんだ。
「水谷君、お誕生日、おめでとう!」

 オレもつられて、顔真っ赤になっちゃった。
 ていうか、感激した。だって、てっきり朝一に言って貰えるんだって思ってたのに、完全スルーだったからさ。こっそりガッカリしてたんだよー?
 それなのに、2人っきりで言って貰えるなんて! しかもプレゼント付き!!
 なに、この幸運!?

「開けていい?」
 訊いたら、「うん」ってうなずいてくれて。可愛いよなー、篠岡。
 リボンも何も付いてない、紙袋だけのエコ包装。テープをはがして中を見たら、見覚えのあるキーホルダー。
「これ……」
 今日、映画の後、三橋ときゃいきゃい言いながら熱心に選んでたヤツだよね。
 阿部君はどれが好き、とか、水谷君ならどれ選ぶ、とか、参考までにって色々訊かれたよね。
 うわ、もしかしてあの時から仕込んでた?
 そんで、別れ際に渡そうとしてた?

「ありがとう! すごく嬉しい!」
 オレ、頑張って勇気を出して、篠岡をぎゅっと抱き締めた。
 篠岡は小さく「きゃ」って言ったけど、嫌がらずにオレの腕に収まった。
 小さい! 細い! いい匂い!!

 もし、オレが「送るよ」って言わなかったら、篠岡はどうしてたのかな? オレが電車を降りる時に、「はい」って手渡してくれたのかな?
 それとも、オレに渡せないまま、机の引き出しに押し込んじゃうのかな?
 どっちにしろ、このハグはなかったよね。
 そう思うとなんか、奇跡みたいな気がして。好きだなーって思って。
 ふわふわの頭のてっぺんに、ちゅっと軽くキスをした。


 「ずっと前から好きだった」って言ったら、「うん」って小さく応えてくれた。「付き合って下さい」って言ったら、「こちらこそよろしく」って言われた。
 奇跡じゃない!?
 昨日まで、篠岡の気持ちはずーっと阿部に向いてるんだと思ってたのに。
 最近、やたらと目が合うと思ったら、篠岡もオレを見てたんだって! その後、ぷいって逸らすのは、恥ずかしかったからだって!
 そんで、ホントは最初から二人で出掛けたかったけど、急に恥ずかしくなって、三橋と阿部も誘おうって思い付いたんだって!!

 可愛いなぁ。
 さっきまでのやり取りを考えると、駅までの30分の道のりも軽い。
 腕の中の温もりとか、感触とか、髪の柔らかさとか、匂いとか……もう、脳みそに刻み付けて、一生忘れなくさせたい!!
 毎日ずーっと考えてたら、忘れないかな?
 でもさ、頭のてっぺんとはいえキスとかしちゃうってさ、オレって、送りオオカミ!?
 送りオオカミってこと!?

 この興奮を誰かに今すぐ伝えたい。つか、自慢させて!
 阿部! 取り敢えず、阿部!!

 オレは迷わず阿部に電話をかけた。
 けど……何でか、出なかった。
 あれ? マナーのままで気付かない? それとも出ないの? 電車の中……な訳ないか。バス? って、「通話はご遠慮ください」だった?
 念のため、もっかい電話をかけてみると、これにもやっぱり出なかった。
 最後、って思って3回目に電話をかけると、ようやく繋がった。
 でも、なんかスゴイ不機嫌。

『くそ谷! てめー、ぶっ殺すぞ!!』

 怒鳴った後、はあはあと息してる。あれ? 何してるの、運動中?
 三橋を家まで送った後、走って帰ってる途中とか?
「ごめんごめん、走ってた?」
 そう言うと、阿部がはあはあ荒い息を吐きながら、『はー?』って言った。機嫌悪そうだ。何かやってんの邪魔するとすぐに怒るよね、阿部って。
『要件は? 20字で答えろ』
 20字って、短いよ、ちょっと! でも、自慢しちゃうけどね!!

「篠岡とオレ、付き合うことになりましたー!」

 言われた通り、簡潔に説明したってのに、阿部の返事は『あっそー』って。そんだけ?
「あのねー……」
 もっと感動してよ、送りオオカミだよ……って、言おうとしたけど……言えなかった。
 だって、電話の向こうで会話してんの、聞こえちゃったんだ。

『あいつら、くっついた、ってよっ』

 あー、三橋が一緒にいるんだなってのは、分かった。
 でも、その返事がなんで『んぁっ』なのか、掠れてるのか、分からなかった。
 なんで阿部の息が荒いのかとか、何の運動してるのかとか、そんなことも分からなかった。

 ただ分かったのは。
 送りオオカミは、オレじゃないって事だけだった。

(終)

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