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Season企画小説
帰って来た花粉の子・中編
 レンレンは、分身体である挿し木苗がまだちっこいから、ちっこいままなんだそうだ。
 おっきい姿――あの、去年別れ際に見た少年の姿にもなれねーことはねーんだけど、今んとこデカくなっても、一瞬で力尽きるらしい。
 つまり、この先の成長に期待ってことだ。
「そろ、そろ、いいかなって、思って、来た」
 うちの家族に囲まれて、てへっと可愛く笑うレンレンにもうみんなメロメロだ。
 レンレンのいう「おっきい姿」ってのを知ってんのは今んとこオレだけだってことに、優越感が湧き上がる。
「その内ね、オレ、おっきくなるから、ねっ。こーんな、こおーんな」
 全身を使って「おっきく」を表現するレンレンはすげー可愛い。母親なんかは目も口もハートにして「きゃあ可愛い」って叫んでる。
「こんなの欲しかった」
 って、切実な声で言われると、可愛げがなくて悪かったなってビミョーな気持ちになって来る。

 だが、残念なお知らせだ。
「盆栽じゃ何年経ってもデカくなんねーから」
 ぼそっと真実を告げると、レンレンはガーンとショックを受けた顔してたけど、庭に直植えする気はねーんだし仕方ねぇ。
 群馬の三橋神社にある、本体の3本杉は確かに「こーんな」にデカかったんだから、そんだけで満足して貰うしかなさそうだ。
「バカ、兄ちゃん。ちびっこの夢壊すなよ」
 弟にはたしなめられたけど、無駄な期待はさせねー方がいいだろう。
 それに、ガーンとなってるレンレンも、カワイソーではあるけど可愛いし大丈夫だ。
「まあ、オレが厳選に厳選を重ねてイイ植木鉢用意してやったんだし、それでいーじゃん。植わり心地はどーよ?」
 オレの問いに、「いい、です」ってもじもじと答えるレンレン。色白の顔がほんのり染まってて、杉のくせに桜みてーで可愛い。
「可愛いー!」
 甲高い声で叫ぶ母親に、あっという間に連れ去られちまったけど、気に入ってくれたのは確かみてーだし、奮発した甲斐があってよかった。

 レンレンの方も、うちの家族全員のことを慕いつつ、オレが1番ではあるみてーだ。まあ、日頃から愛情込めて水やりしてやってんだし、当然ではあるけどな。
 オレの頭上にぺたんと貼り付き、よその花粉を払ってくれるのも相変わらずで有難ぇ。
「よその花粉、ダメッ」
 って、ぷりぷりしながらパタパタ両手を動かすレンレン。
 自分じゃあんま実感なかったけど、オレに近寄る花粉は、去年より圧倒的に少なかったみてーだ。それもこれも、去年別れ際に、少年姿のレンがオレに浴びせた花粉ボールのせいだったとか。
 オレを花粉症にしようとしてた訳じゃなかったんだって、1年経ってようやく分かった。
「かっ、かっ、花粉よけ、効いてる、ねっ」
 満足そうに言いつつ、レンレンがオレにちっこい花粉ボールをえいえいと押し付ける。
「どーせくれるんなら、食えるモンがいーな」
 ニヤッと笑いながらそう言うと、レンレンはぴゃあっと飛び上がって、「食べない、でっ」って逃げてって、そんなやり取りも懐かしかった。

 去年初めて会ったときは、レンレンのこと新種のイキモノだって思ってたっけ。
 結局、頭にへばりつけて電車に乗っても他人には姿が見えてなかったし、学界に発表つっても多分無理だっただろう。
 まあ、今はそんな大勢に見せてやるつもりなんてなくなってるけど、懐かしいものは懐かしい。
 あん時は、レンレンを本体に戻してやんねーとってなって、色々調べたりしてたっけ。
 あっさりバイバイしてた、そのドライさを寂しく思ったモンだったけど、こうしてまたうちに来てくれたことを思うと、レンレンも満更じゃなかったんじゃねーかと思う。
「レン君、お水飲む?」
「水上のおいしい水だぞ」
 おちょこに天然水を入れ、両親や弟にちやほやされて、レンレンも嬉しそうに笑ってる。

「水なんかより、こっちの方が好きだろ?」
 みんなに対抗して、園芸用の液体肥料をおちょこに1滴入れてやると――レンレンは「おい、しいっ」ってぐぎゅぐぎゅと飲み干してから、真っ赤になってぱたんと倒れた。
 杉は盆栽の中でも特に肥料を好む種だっていうけど、苗木にはちっとばかし濃かったらしい。
 きゅうっと目を回したレンレンの様子に、母親にはガミガミ言われたけど、一気に飲み干したのはレンレン本人だし。オレのせいばっかでもねぇだろう。
「とにかく、今夜はこっちで一緒に寝かせるから!」
 母親にキッパリと告げられて、目を回したままのレンレンを取り上げられる。
「ねっ、ママの方がいいわよねー?」
 弟にも見せねぇような顔で話しかけてる一方で、有無を言わせねぇ迫力でオレをキッと睨む母親。それ、自分が一緒に寝たかっただけなんじゃねーかと思ったけど、さすがに反論はできなかった。
 仕方なくレンレンをオヤに任せ、本体の植わった植木鉢だけを抱えて2階に戻る。

「別に、水道水でもいーよな?」
 つーか、雨水でもいいくらいじゃねーかと思う。
 けど、杉花粉の妖精はここにはなくて。「いい、よー」っていう呑気な返事も、当然聞こえては来なかった。

(続く)

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