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Season企画小説
花散る春の庭の夢・後編
 なんで布団? ってビビりながら思った。えっ、ここで誰が寝るの? まさかオレ?
「結婚式なんだから当たり前じゃーん」
 弾んだ声で言いながら、ゆう君がガシッとオレの肩に腕を回す。
「う、え、でも……」
 戸惑うオレの横に来たのは、今度はコースケ君だ。
「まぁまぁ、レンはお子様だからな。結婚に夢があったんだよな」
「お子様っ!?」
 冗談だって分かってるけど、同い年のトモダチから言われると地味にショックだ。
 でも確かにオレ、初恋もまだだし、毛だってつるつるだし、難しい話も分かんないし、子供って言われればそうなの、かも。
 そんなオレがなんで結婚なんかって思うけど、なんかもう後戻りできない感じだし、今更中止にはできなそう。
 後戻りできない、って考えると、早まっちゃダメなんじゃ、って気もする。
 やめるなら今が最後のチャンスかも? だって、相手の子の顔もよく分かんないし、実感もないのに、こんな風に流されるまま結婚とかなんておかし過ぎる。
 なんでみんな、不思議に思ってないんだろう?

 ちらっと、夢だからかなー、って考えが浮かんだけど、「ほら」って背中を押されてすぐに頭の中からぷちんと消えた。
「そろそろ始まるぞ、主役は座ってねーと」
「そーだぜ、そわそわすんのは分かるけどさ」
 ぐいぐいとオレの背中を押して、上座に押しやって来るゆう君とコースケ君。
「ちょっ、オレ、やっぱり」
 やっぱりやめる、って言いたかったけど、「ダメダメ」ってバッサリ斬られて座布団の上に座らされる。
「でもお、お、お、オレ、かっ、顔も知らない人と、結婚なん、か……っ」
 焦りながら立ち上がろうとしたけど、肩を上からぎゅうっと押さえつけられて立ち上がれない。
 トモダチのハズなのに、逃がしてくれないのヒドイ。
 相手のお姫様にも悪いんじゃないかな? っていうか、どんな子だっけ? 必死に思い出そうとしたけど、やっぱりさっぱり見当もつかなくて、ぶんぶんと首を振る。
 けど、2人は「何言ってんだ」ってケラケラと笑った。
「お前のよーく知ってる相手に決まってんじゃん」

 よーく知ってる人、って言われてビックリした。
 知ってる人? って、誰だろう? 肩を押さえつける力は弱まったけど、立ち上がれないまま呆然とする。身に覚えがまったくない。
 緋色の布が敷かれた板の間、積み上げられた贈り物、続々並び始めるお膳。お膳を運ぶ女官にぼうっと目を向けると、それはしのーかさんで、にこっと可愛く笑われた。
 知ってる人って、しのーかさん? それともルリ? まさかモモカンじゃない、よね?
 この場には3人ともがいて、テキパキと結婚式の準備を始めてて忙しそう。
 オレが主役っていうんなら、お嫁さんも主役のハズ。だったら、そんなに忙しそうにしてないハズだし、やっぱ3人は違うかも?
 準備って……。
 今着せつけられてる立派な着物を見下ろし、ごくりと生唾を飲み込む。
 お嫁さんも、今、着替えしてるのかな? 白無垢? じゃなくて、えーと、やっぱり十二単なんだろうか?
 じわっと赤面しながらも、落ち着いてらんなくてそわそわした。
 結婚相手が誰なのか、ホントによーく知ってる人なのか、確かめたいような気もする。けど、確かめたら後戻りできない気もする。
 どうしよう? どうしたらいい? ドキドキソワソワしながらも、逃げらんなくて座ってると――板の間にいたみんながざわりと騒いで、一斉に庭の方を見た。

 板の間が暗いから、庭は明るい。その明るい庭の方から誰かが中に入って来て、ざわめきが一層強くなる。
 逆光で誰かは分かんないけど、オレらと同じ格好した男の人だっていうのは分かった。着物姿で、頭には冠。なんでか弓矢を背負ってて、ものものしいけど格好いい。
 なんで弓矢、って思ったけど、そういえば弓を鳴らして魔除けにするとか聞いたことあるような気もする。
 ルリに手伝わされた雛飾りにも、弓矢を持ってる人がいたかも。1人はおじいさんで、もう1人は……。
「ほら、来たぞ」
 くくっと笑いながら、ゆう君がオレの肩をぽんと叩いた。
「だっ、誰、が?」
「お前の結婚相手に決まってんじゃん」
 上ずった声での問いに、あっさり返される回答。
「えええっ!?」
 驚く間もなく、弓矢を担いだ人がこっちにのっしのっしと近付いてくる。

「ビビんなくていいって、レン。恋とは落ちるもの」
 コースケ君がもっともらしい声で言った。
「いいや、恋とは射抜くモンだ」
 張りのある声が響き、声の主がオレの前に弓をかざす。矢は番えてないけど、キリッと向けられると怖い。
「お前のハート、狙い撃ち」
 って、そんなセリフを言うとこも怖い。
 よく見るとそれは阿部君で、見知らぬ人じゃないのはいいけど、迫力にビビる。視線で射抜かれて、身動きもできない。そんなオレにニヤリと笑い、阿部君が堂々とこっちに上がって来る。
 当たり前のように隣に座られて、ええっ、って思った。
「そ、こ……」
 そこは、お嫁さんの席じゃないのかな? 十二単を着た人と、結婚するんじゃなかったっけ? いや、結婚はちょっと待って欲しかったし、いいんだけど、でもよくない。
「今日はオレらの祭りだな」
 阿部君がにやりと笑い、赤い大きな杯を掲げる。
 いつの間にか目の前にルリがいて、阿部君の盃にお酒を静かに注ぎ入れた。

「よかったね、レンレン。お似合いだよ」
 笑顔と共にお酒を差し出されたけど、杯を取ろうとは思えなかった。レンレンって呼ぶなって、言い返す気力も何もない。お似合いってなんだ、って、言葉も出ない。
 ぶんぶん首を振ってると、「どーしたレン?」って阿部君がオレの顔を覗き込んだ。
「酔ったのか? ちょっと早いけど、寝るか?」
 金屏風の裏に視線をちらりと向けられて、ニヤリと笑われ、ヒィッとビビる。
 寝るって、何?
 なんで布団?
 なんで阿部君? 男同士なのに?
 そう思った瞬間、頭にちらっと浮かんだのは、男だけの雛飾り。あれを見たのって、どこだったっけ?
 一瞬、そんな思いが頭をよぎり、夢から覚めそうになったけど――「さあ」って阿部君に腕を掴まれ、救いのチャンスはぷちんと消えた。

   (終)

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