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Season企画小説
ダブルデート・中編 (にょた)
 電車は混んでたけど、阿部は三橋が痴漢にあわないよう、かつ人に押されないよう、壁際に三橋を立たせて、その壁に両手を突いて、ちゃんと守ってあげてた。
 ナチュラルに偉い。まあ、オレも勿論、その隣で篠岡に同じコトしてあげたけどね。
 映画館も混み混みだった。
 着いたのが、結構ぎりぎりの時間だったから、4人並んだ席は取れなくて。仕方なく、2−2で別れることになっちゃった。

「えーと、どうする?」
 オレは、3人の顔をぐるっと見回した。
 まあ、無難なのは女女−男男だけど、それって華がないし、ってか阿部と並んで映画とか楽しめないし、できれば避けたいんだよね。
 うん、やっぱり、男女−男女で別れたい。
 三橋がイヤだって訳じゃないけど、篠岡と組みたいな。篠岡が阿部のコト好きなの知ってるけど、篠岡と組みたいな。
 篠岡と組みたい、篠岡と組みたい、篠岡と組みたい! 今日オレ、誕生日だし! 我がまま言ってみてもバチは当たらない? よね?
 先んじて努力!

「あのさー」
 オレは気合い入れて、3人に言った。
 篠岡と、篠岡と。心の中で繰り返す。でも……3人に注目されて、口が勝手に。
「え、えーと。ぐーぱーで決めようか?」
 あああ、オレのバカ! それじゃ阿部と組んじゃう可能性1/3じゃん。

「はあ? うぜー」
 阿部が、呆れたように言った。
「んなの、誰と見たって一緒だろーが、おー、行くぞ」
 そうして三橋の手を引っ張って、阿部はさっさと売店に並びに行った。
「何だろうね、あのマイペース」
 思わずぽつっと呟くと、横で篠岡が「あははー」と乾いた笑い声を立てた。
 そして、小さくため息をついた。

 ドキッとした。

「あ、ご、ごめんね、オレ、何か買ってくる! 篠岡はここで待ってて」
 オレは早口でそう言って、売店に並んだ。
 阿部達はちょうど品物を受け取ったみたいで、ホットドッグとかドリンクLとか、色々盛られたトレーを阿部が持って、こっちに来た。三橋はポップコーンの大きなバケツを抱えて、もう美味しそうに頬張ってる。
「うわー、廉ちゃん、美味しそうだね」
 篠岡が、いつの間にかオレのすぐ後ろに来てて、そう言った。
 三橋は「食べる?」って言って、バケツを篠岡に差し出した。

「ありがとう、あ、これ美味しいね!」
 篠岡が弾んだ声を出した。
 うんうん、ポップコーンは美味しいよね……ってうなずいてたら、今度はオレの前に、そのバケツが差し出された。
「水谷君、も、どうです、か?」
「お、ありがとう〜」
 オレが礼を言って1粒つまむと、それを見張ってたみたいに、阿部が三橋を呼んだ。
「おい! もう時間ねーから、行っとこうぜ」
 って。

 ホント、何だろね、あのマイペース。
 あ、阿部が三橋に何か言った。ポップコーンかな? オレも欲しいとか言ったのかな、阿部があーんと口を開けて……三橋が、うわー、顔真っ赤。
 もう、完璧意識してんの確定だよね。矢印出まくってんね。
 前からあんなだったかな? 分かんないなぁ。
 阿部は……分かってるんだろうなぁ。てか、分からなくってどうするって感じかな。
 篠岡は……。

「篠岡は何食べる? ポップコーン? ウーロン茶?」
 フォローのつもりで、そう訊きながら顔を覗き込もうとしたら、あれ、今ここにいた篠岡がいない!? あれ? って思ったら、いつの間にかカウンターの前に!
「キャラメルポップコーンセット、Lサイズ、で、ウーロン茶と……」
 はきはき注文してる背中に駆け寄ると、篠岡がくるっと振り向いて、にこっと笑ってオレに言った。
「水谷君は、何飲む? コーラ?」
「こ、コーラ!」
 声がちょっと上擦っちゃったよ。だって、可愛い!

 奢るよって言ったけど、篠岡は笑顔で遠慮した。
 はー、奢らせてくれればいいのに。そういうとこ、律儀だよねぇ。
 まあ、そんなきっちりしてそうなとこも好きなんだけどね。

 でも、いいとこ見せたかったし。せめてトレーだけはって思って「オレが持つよ〜」って取り上げたら、オレを見上げて、また、にこっと笑って、「水谷君、いつもありがとう」って!!
 オレだけの笑顔!!
 「いつもありがとう」ウェルカム!!
 はー、篠岡って、ホント笑顔の子だよね。
 あ、でも、いいのかな? オレは篠岡の笑顔がにっこりにっこり見れて、幸せだけど――篠岡は。

 そう思って、ちらっと篠岡の顔を見たら、一瞬目が合って、そしてふいっと逸らされた。
 き、傷つくなぁ。
 実は、こうやって目を逸らされんの、多いんだよね、最近。
 まあ、そんだけオレが、篠岡のコト見てるって証拠でもあるけどね!



 映画は、前評判通り面白かった。
 野球って言うよりマネジメントの映画って感じだったけど、うん、見てよかった。
 篠岡と三橋は、2人できゃっきゃ笑いながら歩いてる。
 オレの方は……阿部と話すことなんて、何もないけどね!

 その後は、女の子が服とか小物見てたりするのに付き合って、ぷらぷらして。そんで疲れたし腹減ったから、マック行った。
 それから、でかいゲーセン見かけたんで入ってみた。
 ストラックアウト見付けて、三橋が駆け寄って、すっごいやりたそうにしてたんだけど、阿部が「バカかっ!?」って怒鳴ってやめさせた。
 うん、ミニスカではちょっとね。オレも思ったよ。オレなら怒鳴りはしないけどね。

 三橋は涙目になってたけど、阿部が「今度また、パンツの時にな」って……えー? さらっと言ったよね、阿部ェ。三橋は単純に機嫌直してるけど、ちょっとそれ、問題発言じゃない?
 篠岡は? と思ったら、機嫌よく「あはは」って笑って、それから感心したように言った。
「廉ちゃんて、ホント投げるの好きだねぇ」

 三橋は、マネージャーだけどそれだけじゃなくて、バッティングピッチャーだ。篠岡がアクエリ用意してる間に、練習着着てスパイク履いて、オレ達に交じってボールを投げる。
 「カーブをもうちょい高めにくれ」とかの要求に応え、オレ達が試合に勝てるよう、ダイレクトに練習の手伝いをする。
 それは、篠岡にはできない。
 でも……でもね。

「篠岡も、頑張ってるよ」
 思わずそう言ったら、篠岡はパッとオレの顔を振り仰いで……カッと赤くなった。
 そんで、小さな声で、「ありがとう」って言った。
 ガラじゃないけど、なんか照れた。

(続く)

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