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Season企画小説
初恋キャッチャー・7 (終)
 阿部君に好きだって言って貰えたって報告したら、ゆう君やコースケ君はなんて言うだろう? 野球部のみんなは? 監督は?
 恋愛禁止とは決まってるけど、それは主に男女交際をってことだし、オレらには関係ないのかな? 入部する前に付き合ってた場合って、どうなるの?
 ぐるぐる考えながらもじもじ突っ立ってると、阿部君がふっと笑った。
 さっきのビックリ顔はほんのり幼くて、中学生だなって感じだったけど、今はまた雰囲気がガラリと変わって、オレよりむしろ大人っぽい。
「恋愛禁止? じゃあ、やっぱ西浦やめよーかな」
 ぼそりと囁かれ、ドキッとした。
「やっ、やだ!」
 とっさに顔を上げて縋り付くと、くくっと楽しそうに笑われる。
「でもなー」
 にやにやしながらの言葉に、半分からかわれてるってわかったけど、でもイヤなものはイヤだし、西浦やめるなんて言わないで欲しい。
「お、オレ、阿部君と野球、やりたい」
 彼のコートをぎゅっと掴み、上目遣いで訴えると、「ふーん」って笑いながら背中に腕を回された。

 いきなり近付いた距離に、またドキッとした。
 顔が近い。先にコートを掴んだのはオレだけど、耳元に顔を寄せられると反射的にビクッとしてしまう。
 阿部君のかすかな息遣い。微笑まし気にオレを眺める様子。こんなに間近なのに阿部君は余裕で、ちょっと悔しい。オレの方が年上だし、センパイになるハズなのに。
「オレと野球やりてーの?」
 囁かれ、こくこくうなずく。
「やりてーのは野球だけ?」
 野球だけって訳じゃないから、それにはぶんぶん首を振る。そりゃ野球が1番だけど、一緒に遊びたいし、ゲームもしたい。同じ学校にいれば、お昼だって一緒に食べれるかも知れないし。放課後だって、もっと……。
「も、もっと、一緒にいたい」
 こそりと呟いてから、自分の言葉にカーッと照れる。
 面白そうに顔を覗き込まれたけど、とても見せられる状態じゃない。キョドって顔を背けると、ふふっと再び笑われた。

「それって、付き合ってるってことじゃねーの?」
 間近で見詰められ、そんなことを言われても、オレには答えようがなかった。そうかも、と思う反面、違うような気もしてよくわかんない。
 結局阿部君は、うちの学校を受けてくれるんだろうか? それとももっと他の、強豪校に行くんだろうか?
 阿部君が他のチームに、って想像するだけで胸がズキンと痛くなる。
 恋愛禁止だよって、さっきはああ言ったけど、余計な事言わなきゃよかったって、じわじわと後悔が募った。
 これってやっぱ、「好き」ってことなのかな?
 阿部君も同じ気持ち、かな?
 照れていいのか落ち込んでいいのか、自分でもよく分かんないぐるぐるの気持ちで、さっき彼に渡されたビニール袋に目を落とす。
 阿部君が倒した黒いチョコの大箱の柱は、目ざとい店員さんに見つかって、てきぱきと元の柱に戻されてた。

 オレが100円投入したって、到底崩れそうにない柱。あれを的確に崩してしまえる阿部君は、やっぱスゴイ。
 きっと野球もスゴイんじゃないかって思う。
 敵の打撃陣の壁を攻略して、的確な指示で一気にどかっと崩してくれそう。そんで、オレらを勝利に導いてくれそう。
 阿部君が試合してるとこなんて、まだ1度も見ていない。だからこれはオレの勝手な予想と希望なんだけど……だからこそ、間近で一緒に見たかった。
「オレ、やっぱり阿部君と、野球したい」
 言ってから、さっきと同じだってふと思い出して、慌てて言葉を追加する。
「野球だけじゃなくて色んなこと一緒にしたい。UFOキャッチャーで景品がドカッと取れるより、もっと気持ちイイこと味わいたい」
 思い出すのは、試合に勝った時のあの言いようのない爽快感。
 中学の時は勝ち知らずだったから、野球は1人でやるんじゃないって知った今、みんなで得る勝利の快感は、尚更尊くて最高なものに思えた。

「ら、来年はオレも、もっとスゴイチョコ、用意する、ので。お、オレと一緒に甲子園来てくだ、さい」

 口に出してから、何を言ってんだろうって自分でもよく分かんなくなったけど、告白っぽいのになっちゃったのは自覚あった。
 今更のようにカッカとなってくる顔をうつむけ、阿部君からの返事を待つ。
 阿部君はしばらく黙ってたけど、オレの間近から離れることはないままで、やがてふはっと笑うように息を吐いた。
「そこはまず、ホワイトデーだろ」
 そんなツッコミを入れられて、そうだったって「ふおっ」となる。
 今までイトコからの義理チョコ以外貰ったことないし、ホワイトデーに縁すらなかったから、まったく頭に浮かばなかった。
「そ、そうか」
 恥ずかしさと照れとでくらくらになりながら、なんとか阿部君に相槌を返すと、阿部君はぽんとオレの頭に手のひらを乗せた。

 オレの方が年上なんだけど。でもこうして撫でられるのはちっとも嫌じゃなくて、胸の奥がカッとなる。
「まあ、恋愛禁止っつーのは虫がつかねぇって意味でもいいかもな」
 なんて、呟くような言葉が聞こえて、ドキッとする。
 それは、阿部君にも余計な虫がつかないってことで、そう考えれば悪いことでもないの、かも?
 ぼうっとしながら考えてたら、ふとアゴに手を添えられて上を向かされた。
 目線がすぐそばにあって、顔が近くて、再びぼんっと赤面する。けど、アゴに添えられた手は放して貰えず、逃げられない。逆にますます顔を寄せられて、びくっと肩を竦めてしまう。
「じゃあ、恋愛禁止がなくなるまで、予約な」
 予約、の意味を問うことはできなかった。
 ちゅっとキスされて頭が真っ白になって、手から力が抜けてしまう。ストンと持ってたビニル袋が下に落ちて、ようやく我に返ったくらいだ。

 阿部君がしゃがみ込み、落としたチョコの袋を拾った。再びそれをオレに差し出し、「西浦受けるから」って笑顔で告げる。
「受かったら、一緒に気持ちイイことしよーな」
 そんな宣言に「うんっ」とうなずき、阿部君の進学先を喜ぶ。阿部君がこれからも一緒にいてくれるなら、こんなに嬉しいことはない。
 ……気持ちイイことって、試合に勝つってことだよね? ふとそんな疑問が浮かんだけど、それよりも阿部君の受験の成功の方が気になったから、確かめることはできなかった。

   (終)

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