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Season企画小説
初恋キャッチャー・6
 結局、「友達」とも言えない程度の関係なのに、いくら友チョコとしても仰々しいのはどうかと思って、コンビニでチョコ菓子を1個買った。
 コンビニにもラッピングされたチョコが並んでるコーナーあったけど、それを横目にしつつ、定番のお菓子をレジに持って行く。
 買ったチョコ菓子のパッケージには絵馬がついてて、受験祈願できるみたい。
 バレンタインより受験、そうチョコにも言われた気がして、なんだか阿部君に渡すにはふさわしいように思えた。

 白いレジ袋にチョコを入れたまま、てくてく歩いてゲーセンに向かう。
 ゆう君もコースケ君もいない、オレだけの時間。何度も歩いたことのある道なのに、今から阿部君に会うんだと思うと、なんだかちょっとドキドキした。
 ゲーセンに近付き、UFOキャッチャーが見えて来た時には、そのドキドキも大きくなった。
 阿部君はもう来てるかな?
 鼓動の激しい胸をそっと抑えつつ、いつものゲーセンをぐるりと見回す。阿部君はUFOキャッチャーの前に立ち、難しい顔で山積みの景品を眺めてた。
 整った横顔の格好良さに、ドキッと心臓が跳ね上がる。
「お、……お待たせ」
 ごにょりと言いながら近付くと、阿部君はふと表情を緩めてオレを「おー」と振り向いた。
 年下なのに、オレよりちょっと上にある目線。
 ブルペンではまっすぐ向かい合えた視線を、今はまっすぐ受け取るのが照れ臭くて、赤面しつつ目線を下げる。

 沈黙に耐え切れず、「あ、の」と声を掛けつつコンビニのビニール袋を掲げると、阿部君は「何?」って言いながら受け取ってくれた。
「バレンタイン?」
 ふふっと笑いながらズバッと訊かれて、ぼんっと顔が赤くなる。
「ち、違っ……」
 あわあわと首を振り、「受、験のっ」って言い訳すると、「なんだ」って軽い調子で言われた。
「期待したのに」
 って、そう言われると、嘘かホントか分かんないけど、胸の奥がじりっと焦げる。
 受験じゃないって、否定したい。けど、バレンタインだよって言っていいのか分かんない。オレなんかに「好き」とか言われても迷惑かも?
 それにオレだって、一緒に野球やりたいとは思ってるけど、そっから先、どうこうとかは考えてもなかった。

「う、え、と……」
 もじもじと視線をうつむけてると、「じゃあオレからも」って、すっと手を差し出された。
 けど阿部君の手に握られてるのはチョコじゃなくて、100円玉だ。
「どれが欲しい?」
 自信たっぷりにニヤリと笑われて、「どれ、でも」って小声で返す。
 オレ、別にUFOキャッチャーの景品、欲しい訳じゃない。けど、くれるっていうなら嬉しいし、阿部君が取ってくれるならもっと嬉しい。
「じゃあ、これな」
 そう言って、阿部君がさっき眺めてた機体の前にスッと立つ。そのUFOキャッチャーの中には、黒いパッケージの有名なチョコ菓子が大箱で大量に積まれてて、真っ黒な柱を築いてた。
 山積みじゃなくて柱積みのチョコ菓子。ちょっと押したくらいじゃ倒れそうにないように見えて、難しそうだなってすぐ分かる。
 オレには無理だっていうのも分かる。
 けど、阿部君は自信あるみたい。

「オレ、西浦受けるから」
 ぽつりと言って、100円玉を投入する阿部君。途端に鳴り響く軽快なメロディを聞きながら、「ふえ?」と阿部君の方に振り向く。
 阿部君は真剣な顔でチョコの黒い柱を見つめ、それから矢印ボタンをぽちっと押した。
 ウィーンと動き出すのは、シャベルじゃなくて銀のアーム。ぴたりと止まったアームは、もう1個のボタンを押されて再びウィーンと動き出す。
 ぴたりと止まった場所で、今度は下に降りるアーム。チョコから外れてギリギリのとこに降りたアームは、降りたところでウィーンと開き、黒い柱を押し崩した。
 堅牢に見えたチョコの柱が、ぐらりと傾いて一気に崩れる。
 ぼとぼとと大箱が取り出し口の中に落ち、アームがウィーンと元に戻る。
 チョコの柱は崩れたけど、取り出し口に落ちてくれたのはそんなに多くない。けど、チョコが欲しかった訳でも景品目当てだった訳でもないから、問題ない。
「に、西浦……?」
 聞き間違いじゃないかと思いつつ、おずおずと聞き返すと、阿部君は取り出し口から戦利品を取り出しながら、「ああ」と返事してうなずいた。

 ゲーセンのビニール袋には、黒いチョコの大箱が3個。それをいつものように差し出しながら、いつもとは違う表情で阿部君が言う。
「だからさ、受かったら付き合ってくれねぇ?」
「つ……」
 付き合う、って。
 反射的にチョコを受け取ってから、阿部君の言葉を頭の中で咀嚼する。
 顔が熱い。心臓がドッキンドッキンいい過ぎてて、どうにかなりそう。顔どころか耳や首まで真っ赤になってそうな自覚、ある。
 バレンタイン。チョコ。付き合う。これって、その、告白されたって思っていい、の、かな? 自意識過剰?
「つ、つ、……」
 付き合うの意味を聞きたくて、でも簡単には口にできなくて、どうしようと思った。
 追い打ちをかけるように「好きだ」って言われて、聞き間違いじゃないって分かったけど、だからこそ余計に恥ずかしい。顔、今、上げられない。

「う、うちの部活、恋愛禁止、だ」
 「はい」って返事するのが恥ずかしくて、建前上の決まり事をごにょごにょ告げると、阿部君は「はあ?」と涼やかな目を見開いて、ビックリ顔でオレを見た。

(続く)

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