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Season企画小説
初恋キャッチャー・3
 その後も何度か、阿部君とはゲーセンで会った。
 阿部君は1つ年下の中3で、だから塾通いしてるんだって。同い年くらいとは思ったけど、年下だとは思ってなかったからビックリした。
 UFOキャッチャーのコツを端的に語って、実践してくれる様子はすごく頼もしくて、年下って感じしなかった。
「あんたも年上には見えねーな」
 ふふっと笑われて、じわっと照れる。
 誉められてないハズなのに、ほかっと胸の奥が暖かくなるのはなんでだろう?
 秋が過ぎ冬になって練習試合がなくなり、駅前の通りをうろつく機会はなくなったけど、いつものあの時間帯になると、ふらっと彼に会いたくなった。
 連絡先を交換できてよかったって思うのは、こんな時だ。
――今日も塾?――
――冬休みまでは時間割一緒――
 そんな短いメッセージをやり取りできるだけで、ドキドキした。

 電話を掛ける勇気まではさすがにないけど、オレ、電話じゃなくても喋るの苦手だ、し。緊張して何喋ってるか分かんなくなるの恥ずかしいから、メッセージだけで十分だ。
 それに、阿部君の受験勉強の邪魔するのも申し訳ない。
 阿部君の成績がどうなのとか、どこを受験するつもりなのかとか、何も聞いてないし知らないけど、きっと頭いいんだろうなって思う。
 ここは年上っぽく「勉強教えてあげる」なんて言えたら格好いいんだけど、残念ながら受験勉強は記憶のかなた、だ。
 それよりオレ自身、2学期の期末試験が間近だったし、ひとの心配どころじゃない。
 互いの勉強に集中するためにも、短いメッセージのやりとりだけで丁度よかったのかも知れなかった。

 期末試験が終わった後、学校は一気に冬休みモードになった。
 授業も午前中だけになり、午後からはたっぷりと部活ができる。といっても冬だから、どうしても筋トレメニュー中心にはなるんだけど、それでも嬉しい。
 成長期とはいえ、オレ、まだまだ小柄だし。1つ年下の阿部君に背も負けてて、ちょっと悔しい。もっと大きく男らしくなって、格好いい阿部君に「格好いいな」って言われたい。
 それがどういう思いなのか、オレにはまだよく分かんなかったけど、地道にロードや筋トレをこなしながら、阿部君に会いたいなぁって思った。
 またUFOキャッチャーのこと、話したい。一緒に遊んで、景品がどかっと取れる爽快感を味わいたい。
 勿論、野球の試合に勝つみたいな爽快感には負けるけど、阿部君と一緒にってのがいいんだから、問題ない。
 ホントは阿部君と一緒に野球できたら嬉しいんだけど、彼が野球やってるかどうかなんて聞いてないし、進学先だって聞けてないし。何よりうちは公立の弱小チームだから、自信満々には言い出せかった。

 その頃丁度野球部の方でも、監督やキャプテンと一緒にスカウト回りに行こうって話が上がった。チームのみんなの出身校や出身チームを回って、後輩に声を掛けよう、って。
 もう受験シーズンだし、中3の生徒は引退しちゃっていきなり訪問しても会えないから、色々調整が必要だったみたい。
 他の有力校はもっと早くから動くもんだって聞いて、ほええ、と感心した。オレ、スカウトとか縁がなかったから、まったく知らなかった。
 しかもオレ1人だけ県外出身で、スカウト回りにみんなと出かけることもない。
 後輩と久々に会ったとかでわいわい盛り上がるみんなを横目に、ちょっと疎外感を感じてると……それを何となく察してくれたみたい。監督が、「三橋君も一緒に行く?」って誘ってくれた。
 訪問先は、誰もOBのいないボーイズチームとシニアチーム。
 オレは特に喋ることはなくて、監督の説明を横で一緒に聞いてるだけに近かったけど、「エースの三橋君だよ」って紹介されることもあって、なんかすごく緊張した。
 監督やキャプテンが一緒だっていっても、緊張するし真っ赤にもなる。
 そうして2つ3つ訪問するうちに、戸田北っていうシニアチームにも行くことになった。

 ボーイズチームや中学の部活なんかは軟式ボールを使うんだけど、シニアチームは硬球を使ってプレイするんだって。そのせいか金属バットの打撃音も、高校と同じくキンと高くて、なんだかすごくソワソワした。
 しばらく1、2年生の練習を見てから、わざわざ集まってくれた3年生の紹介を受ける。
 引退後の受験シーズン、オレたちのために顔を出してくれた人は多くない。けどその中に、見知った顔があるのを見つけて、ドキッと心臓が跳ね上がった。
「阿部隆也。捕手です」
 響きのいい声が名乗りを上げて、オレの顔をまっすぐ見つめる。
 得意げにニヤッと笑う顔を見て、びりびりと全身が震えた。阿部君と、こんな場所でこんな形で会えるとは思ってなかった。
「こちらはうちのエースの三橋君よ」
 監督に紹介され、「どっ、どう、も」ってあわあわ頭を下げる。ふふっと笑う声に顔を上げると、阿部君はちょっと目尻の垂れた目で、オレを微笑まし気に眺めてた。

(続く)

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