Season企画小説
初恋キャッチャー・2
キラキラの金貨は眺めてるだけでも嬉しくて、なかなか全部食べ切る気にはなれなかったから、同じくあの少年のことも、なかなか忘れることはできなかった。
ゲーセンの前を通りかかるたびに、彼はいないかなって、ついつい周りを見てしまう。
あの例のUFOキャッチャーの中身は、金貨の山からミニガムの山に変わっちゃって、なんだかイマイチ惹かれない。
黄金のガムならどうだろう? ちらっとそう思ったけど、あれはチョコだからいいんであって、ガムや飴ならガッカリなのは間違いなかった。
あの時、わさーっと倒れた金貨の山のことを思い出し、ため息をつきながらUFOキャッチャーの中を覗く。
「レン、またやんのか?」
「リベンジすんの?」
ゆう君とコースケ君に揃ってそう言われ、ぶんぶんと首を横に振る。
別にガムは欲しくないし、金貨でもないから、興味はないし惹かれない。それに、オレがやったってちっとも取れないに違いない。
「が、ガムは、いらない」
オレの正直な答えに、「ゲンキンだなぁ」って笑う友達2人。
「そ、それに、いっぱい取れても、困る、かも」
「だよな」
「まあ、取れねーけどな」
UFOキャッチャーを覗きつつ、そうして笑い合ってると、ふとあの少年の話になった。
「そういやアイツ、上手かったよな」
って。
「プロだな」
もっともらしい顔をして、コースケ君がうなずく。
2人とも彼のこと、スゴイって思ってたみたい。オレも、「スゴ、かった」って色々思い出して、こくこくとうなずいた。
「またやってんの?」
って、声を掛けられたのは、その時だ。
振り向くとこの前の少年がいて、微笑まし気にオレらの方を眺めてる。
「今日はこれ? もうやった?」
そう言いながら歩み寄り、まっすぐオレを見つめる少年。オレだけに言うってことは、オレだけがやるって思われてるから?
「きょっ、きょっ……」
今日は別に。そう言おうとしたんだけど、とっさにはうまく言えなくて、慌てて首を横に振る。
少年はオレの否定を聞いてUFOキャッチャーを覗き込み、「ふーん」と納得したようにうなずいた。
あの時は金貨に惹かれただけだし、チョコだったし、ガムはいらないし、別に取れなくてもいいんだけど。でも、「教えるから見て」って手招きされて、それを拒むなんてできなかった。
自分の財布を取り出した少年に、慌てて自分の100円玉を「これっ」って渡す。
ちょっとビックリしたように、涼やかな目を見開いた彼は、素直にそれを受け取って、それからニヤッと笑ってくれた。
「責任重大だな」
って、UFOキャッチャーに向かう様子が格好いい。
やることはゲームなんだけど、オレにはできない技を持ってるし、やっぱスゴイって尊敬する。
少年はオレを手招きしてゲーム機の操作板の前に立たせ、それからオレの斜め後ろに立った。
「100円入れるな」
コロンと硬貨が投入されると同時に、前と同じ軽快な音楽が鳴り響く。
「シャベル見てて」
そんな言葉と共に、軽く手を握られてドキッとした。点滅する矢印ボタンに目を向ける余裕もない。
オレの右手に右手を重ね、少年がオレにボタンを押させる。ウィーンと前に動き出す銀のシャベル。「ここ」って声と共に押された手が軽くなり、手を離すとピタッと止まった。
「次はちょっと手前な」
耳の後ろから響きのいい声がして、鼓膜がじんじん震える気がした。
斜め後ろの彼の気配に緊張して、シャベルの行方にも集中できない。「見てて」って言われても、前を見れない。
今、振り向きたくてしかたない。
重ねられた手が軽くなり、つられてボタンから手を離すと、シャベルが止まって下に降りる。
金貨の山に突っ込むこともできなかったシャベルは、ガムの壁を押し出して……次の瞬間、見事な雪崩を引き起こした。
「おおーっ」ってゆう君たちの歓声が上がって、ドキッとする。
気が付くと、オレの斜め後ろから少年は離れてて、もう息遣いも気配もない。
「コツ、分かった?」
取り出し口の前にしゃがみつつ、オレを不敵に見上げる少年。ちっとも集中してなくて、コツを理解する余裕もなくて、ただ彼がスゴくて、じわじわ赤面しながら首を横に振る。
オレの否定に少年は苦笑して、「まあ、すぐには無理か」って小声でぼやいた。
ホントは集中してなかったからなんだけど、説明をちゃんと聞いたって理解できたとは思えないし、まるっきり間違いって訳でもない。
お礼を、って思ったけど、少年はまたしても塾の時間があったみたいで、「別にいいよ」って去ってった。
格好いい顔がほんのり照れてたのは分かったから、嫌がられてた訳じゃないのはよかった。
「アイツ、いいヤツだな」
コースケ君の言葉に、うんうんと同意する。
今日はちゃんと、名前も聞けた。阿部君っていうんだって。連絡先までは訊く余裕なかったけど、もし今度会えたら、UFOキャッチャーするよりも、連絡先を訊きたいと思う。
ゲーセンで出会った彼だけど、できたらゲーセン以外でも会いたい。
UFOキャッチャー以外のことも、できたら一緒にしてみたい。
「アイツのこと、随分気に入ったみてーだなぁ」
ゆう君に呆れたような眼を向けられたけど、気に入るとかどうとかっていうより気になって仕方ない感じだし、否定のしようがなかった。
同い年くらいだと思うけど、どこの学校だろう?
塾通いしてるってことは、進学校なの、かな?
うちの学校も一応進学校ではあるんだけど、オレらはまだ高1だし、今は野球の方で精一杯だから、塾通いまではしてなかった。
阿部君、頭よさそう。
野球、好きだといいな。
そういう話も、また会えた時にできるかな?
前の時と同様、ちゅうちょなく「はい」って渡されたビニール袋を抱き抱え、大量に取れたガムを見つめる。
金貨とは違って惹かれないし、そんなに食べたいとは思えなかったけど、阿部君が一緒に取ってくれたっていうだけで、キラキラの宝の山に思えた。
(続く)
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