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Season企画小説
初恋キャッチャー・1 (2020バレンタイン・中3阿部×高1三橋)
【アベミハ語り】UFOキャッチャーで欲しい商品があった場合の2人について語りましょう。
#shindanmaker https://shindanmaker.com/169048より。



 練習試合の帰りにふと通りかかったゲーセンで、金貨が山積みになってるUFOキャッチャーを見かけた。
 子供じゃないし、本物じゃないのは勿論分かる。けど、山積みの黄金の輝きは、中身がチョコでも魅惑的だ。おもちゃの金貨はビミョーだけど、チョコなら嬉しい。
 幸い、その金貨はチョコみたいだ。
 ふらふらと近寄ってUFOキャッチャーにぺたりと貼り付くと、チョコの匂いはしなかったけど、ますますキラキラで魅了された。
 一緒にいたゆう君やコースケ君も、オレが魅了されてるのに気付いたみたい。
「なんだ、レン。欲しいのか?」
「UFOキャッチャー、やんの?」
 オレに合わせてゲーセンの前で足を止め、ゲーム機の中を覗き込んで来た。
「おおー、お宝の山だな」
 そう言って、一緒に目をキラキラさせてくれる友達はありがたい。金貨、いいよね。

「う、ん」
 2人に返事しながら財布を取り出し、100円玉を投入する。
 同時に鳴り響く軽快な音楽。矢印のついた丸いボタンが手元でピンクに点滅し、ぽちっと押すとウィーンと動いた。
 狙うのは、やっぱり山積みの金貨のてっぺん。がさっとシャベルですくって、わさっと取りたい。
「お、いいんじゃね?」
 コースケ君の呟きに気をよくしながら、2つ目の矢印ボタンをぽちっとする。
 今度は左側にウィーンと動いてくシャベル。ボタンから手を離すと、ちょうど狙った山のてっぺんに向かって、銀のシャベルが降りていく。
 けど、「おおっ」って喜んだのは、そこまでだった。
 金貨の山にぐさっと突っ込むかに見えたシャベルは、中途半端に山の斜面に突き刺さり、ほんの少しだけ山を崩して、空しくウィーンと戻ってきた。
 シャベルが取ったのは、チョコの金貨たった2個。
 せめて3個なら、1個ずつ分けられたのに、2個。
「ああー……」
 ゆう君とコースケ君が残念そうな声を上げる中、ゲーム機の前にしゃがみこんで、戦利品の金貨を取り出す。

 かすかに香るチョコの匂いにも、もう元気は貰えない。
「まあ、ゼロじゃなくてよかったじゃん」
「な!」
 2人が元気づけてくれたけど、金貨に魅了されてただけに、ガッカリ感はどうしようもなかった。
「うう……」
 2個の金貨と残った山とを見比べてると、誰かにくすっと笑われた。振り向くと黒髪の見知らぬ少年がいて、微笑まし気に見られてる。
 同い年くらいかな? 互いに私服だし、どこの学校か分かんないけど、オレよりちょっと背が高い。
 高校生にもなってUFOキャッチャー失敗してるの、おかしかったかな? ガッカリの後だっただけに、ちょっと恥ずかしい。
 じわじわ赤面しながらうつむいてると、「ちょっといい?」ってその人に言われた。
「こういうの、コツがあるんだよ」
 そう言いながら、同じゲーム機に100円玉を投入する少年。ちょっと目尻の垂れた目が、真剣に金貨の山を見つめてる。

「無理だって」
「取れねーよ」
 ゆう君たちがぼやく中、彼は真剣な顔で矢印ボタンを操作して――見事に金貨の山を崩した。
 鳴り響く軽快な音楽。
 「おおおー」とオレたちから上がる歓声。
「すっ、すごいいい」
 思わずぱちぱち拍手すると、少年は整った顔を照れ臭そうに赤らめて、「別に……」って言いながら取り出し口の前にしゃがんだ。
「山に突っ込むんじゃなくて、押し出す感じにすりゃ崩れっから」
 そんな解説と共に、山盛りの金貨をビニール袋にわさっと入れる少年。オレのやり方がダメだったのは分かるけど、押し出す感じって言われても、やっぱ同じようにできるような気はしない。
「で、で、でも、スゴイ」
 尊敬のまなざしを向けて誉めると、少年は金貨を取り終えて、まっすぐオレの前に立った。

 少しだけ高い目線から間近で見つめられて、ドキッとした。
「はい、どーぞ」
 金貨を大量に入れたビニール袋を渡されて、訳が分かんなくなって混乱する。
「うえっ?」
 どーぞ、って? くれるって、こと?
 戸惑ったまま受け取れないで固まってたら、「欲しかったんだろ?」って言われた。
「オレは別にチョコいらねーし。取れて満足したから、貰ってくれると逆に助かんだけど」
 そんな言葉と共に、さらにビニール袋をぐいっと差し出してくる少年。
 オレは金貨に魅せられたクチだけど、そういえば確かにUFOキャッチャーって、取るのが面白いからやるって人もいるらしい。
 彼もそうなのかな?
 射的とか金魚すくいとかと同じ感覚?
 オレ、いっぱいの金魚のおすそ分けは困るけど、いっぱいのチョコは好きだ。キラキラの金貨も、取ってくれた気持ちも嬉しい。

「う、あっ、ありが、とうっ」
 真っ赤になりつつ受け取って、深々と頭を下げる。
 少年はそっぽ向いて「いーけど」なんて言ってたけど、真正面にあるその顔はやっぱほんのり照れ臭そうで、胸の奥がほかっとした。
「おおーレン、よかったな!」
「サンキュー。けどホントによかったのか?」
 ゆう君とコースケ君が、オレらをわあっと取り囲み、一緒にお礼を言ってくれる。
 少年は塾があるとかで、その後すぐに立ち去っちゃったけど、オレはしばらくゲーセンの前にいて、小さな感動を分け合った。
 金貨の山も、分け合った。
 3人で分けてもいっぱいで嬉しい。金の包み紙をはがすと中には黒々としたチョコが出て来て、「これぞ金メッキ」なんて冗談言って、チョコを食べ合って楽しかった。

(続く)

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