Season企画小説 ダブルデート・前編 (2012水谷誕・にょた注意・水谷視点) ※三橋が女の子です。苦手な方はご注意下さい! 明けましておめでとう――の後、「練習始まる前に、どこか遊びに行きませんか?」と書かれたメールを元旦にくれたのは、わが西浦高校野球部のマドンナの1人、マネージャーの篠岡だった。 実はオレ、篠岡のコト……かなり可愛いと思ってる。というか、うん、好きだ。 まあ、片想いなんだけどね。 でも……このメール。遊びに行こうって、もしかして2人で!? いやいや、まさかね。どうせ、「みんなで」の4文字、書き忘れただけだよね。っていうか、どうせ、みんなにも同じメール送ってるよね。 期待しちゃいけないのは分かってる。分かってるけど! ついつい、「いつでもいいよー」って即行返信しちゃうくらいは、許して欲しい。 だってさ。同じクラスで同じ部活なのに、学校始まるまで会えないんだよ? 冬休みの内に、会えるもんなら会いたいよ! そんな感じで、ワクワクドキドキから始まった新年。お年玉貰って、お雑煮食べて、それから家族みんなで初詣に行った。 おみくじには、「何よりも先んじて努力すべし。今は叶わぬと思えても、努力すれば相応に良い結果が現れる」って書かれてた。 まあ、正論だよね。 家に帰ってまったりしてたら、篠岡からメールが来た。 ――いつにする? 私は廉ちゃんを誘うから、水谷君は阿部君を誘ってくれる? ―― それを読んで、トーンダウンしちゃったオレを、笑わないで欲しい。 だって、阿部だよ? オレさー、だてにこの半年、片想いしてた訳じゃないよ。篠岡が阿部のコト気にしてたの知ってる! うわー、オレ、当て馬? というか、ワンクッション? いやだー!! でも、ここで断っちゃうのも、男らしくないよね。 はー、何て言うか。正月早々……。 三橋はイヤじゃないのかなー? イヤだと思うよー、そんな数合わせみたいな役割。 三橋、つまり篠岡のいうところの「廉ちゃん」は、同じく我が西浦高校野球部のマドンナの1人。つまり、マネージャー。 篠岡が草刈り・お茶汲み、言われる前に何でもこなすスーパーマネージャーなら、三橋はカーブもシュートも9分割で投げ分けられる、スーパーバッティングピッチャー。 顔や仕草や喋り方なんかは可愛いのに、手は大きく筋張ってて、固い。背も田島と一緒くらいあるし、スラッとしてる。 あんまり自分の意見、ハッキリ言わない感じの子だけど、一緒に行こうって、篠岡に頼まれたのかなぁ? それとも、三橋も阿部のコト好きだったりするのかなぁ? はっ、三橋って、まさかオレのコト……!? いや、まさかね。いくらオレだって、自分がラブの対象になってるかどうかは分かるよ。 うん、三橋はね、オレにラブはないね。ていうか、バッターとしてのオレをナメてるね。バッティングピッチャーは打たせるのが仕事なのに、オレに大きいの打たれると、驚いたみたいな顔するからね! はー、ダブルデートかぁ。 ダブルデート。 でも、ちょっと待って。これってチャンスじゃない? 阿部はああいう奴だから、女の子と長話なんて到底できそうにないし。 「以上、話、終わり」みたいな態度で黙られて、気まず〜い空気になった時、すかさずオレがフォローすれば……オレの株もダダ上がりじゃない? 決まった! 名付けて「阿部こそ当て馬計画」! 何よりも先んじて努力! 努力すれば相応に良い結果! 人生、努力だね!! オレはさっそく、阿部にメールした。 電話だと、すぐに切ろうとするからね、あいつ。 ――篠岡と三橋と遊びに行くんだけど、頼むから一緒に来てくれない? オレ1人じゃ色々と不安でさ。日程は、阿部の都合に合わせるから! ―― こうやって下手に出て、理由も付けて頼みごとして、かつ機嫌が良ければ、阿部はあんまり断らない。 元日だし、お正月だし、お年玉貰ってごちそう食べて、のんびり野球のビデオでも見てたよね? 機嫌なんて、いいに決まってるよね? 案の定、1分もしない内に、阿部からOKの返事来た! オレに当て馬にされるとも知らないで! ――1月4日ならいーぜ。どこ行く? バッセン? ―― バッセンてあのね。三橋なら喜ぶかも知れないけど、篠岡が可哀想でしょ。普通はまず映画でしょ。それか、遊園地。 まあ、寒いから映画かな。年末にやってた野球の実話のヤツ、あれ、評判良かったらしいし、どこかで再演とかやってんじゃないの? この際だし遠出もいいじゃん。 いやいや、それより、阿部、グッジョブ! 1月4日、グッジョブ!! オレの誕生日ぃーっ!! 篠岡、部員全員の誕生日知ってるって言ってたもんね。オレの誕生日も知ってるよね。 プレゼントなんて期待してないけど! もしかして、「お誕生日おめでとう」とか、顔見てすぐに言って貰えたりとか、するかもだよね!! ――阿部、4日なら空いてるって。ちょっと遠出するけど、映画とかどう? ―― オレは、さっそく篠岡にメールした。 こうして、オレの16歳の誕生日、ダブルデートが始まった。 3が日で近場だったらお着物もあったのかも知れないけど、残念ながら女の子2人とも洋服だった。でも、学校で見かける格好じゃなくて、すっごい気合入ってて、可愛い。 あ、阿部もぽかんとしてる。 そうだよね、可愛いよね。普段ジャージ見慣れてるから、ミニスカート珍しいよね! 「2人とも、すっごい……」 可愛いね、と褒めようとしたオレの言葉を遮って、阿部が大声で言った。 「てっめぇ、バカか!? んな格好して、冷えんだろうが!!」 「あ……う……」 怒鳴られた三橋は、可哀想に真っ青になって、うつむいて小さく「ごめんなさい」って呟いてる。 ゆる長のニットから、ちらっと覗いてるウールのプリーツスカート、可愛いと思うけどね。背が高いから足も長いし、色白いし。ミニスカにロングブーツ、いいじゃん、可愛いじゃん。 全く阿部って、女心分かってないよね。減点1。さすが当て馬。 「痴漢にあったらどうすんだ、てめー」 「ご、めんな、さい」 阿部はまだまだ説教モードだけど、その辺にしといてもらわないと、三橋が「帰る」とか泣いたら、篠岡も間違いなく帰っちゃうし、そんなこと言わせる訳にいかない。 「痴漢が心配なら、阿部が側でしっかり守ってあげてればいいじゃん」 オレがそうフォローしたら、阿部も「あー、成程な」って、バカみたいに素直にうなずいた。 そして、「ほら」って三橋に手を差し出した! うわーっ、マジ? 手つなぎとか、そんなナチュラルにやっちゃう? 手を差し出された三橋は、当然だけどすごいキョドって、オレ達と阿部の顔と、阿部の手とを忙しく見てる。 そしたら阿部が! 三橋の手をグイッと握ったーっ! 「行くぞ」 短く言って、強引に駅に向かって歩き出す。当然、三橋は耳まで真っ赤だ。 けど、10歩くらい言ったところで、阿部はいきなり立ち止まった。そして、振り向いて大声で言った。 「水谷、来ねぇのか? 篠岡も」 ハッとして、思わず篠岡と顔を見合わせちゃったよ。あまりにも阿部がナチュラルに強引で、うっかり見送ろうとしてた。 オレ達も手ぇ繋ぐ? とか、訊いてみる? でも、それで「まさかー、あははー」とか笑われたら、立ち直れないかも知れないし。やめとく? やっぱ訊く? それとも誰かさんを見習って、強引に手ぇ繋いじゃう? 繋いじゃおうっか? えい、と気合入れて伸ばした手は、残念ながら空振った。 篠岡はオレなんてもう見てなくて、「待ってぇ」って可愛く2人を追いかけてる。 そうだよね、そうなるよね。大体篠岡は阿部のコト……。 あー。努力! 新年のおみくじの言葉の意味が、今、しみじみと分かった気がした。 (続く) [次へ#] [戻る] |