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Season企画小説
節分・鬼パーティ・2
 「おい」と文句言おうとして振り向いた瞬間、相手の姿が目に飛び込んで来てドキッとした。
 乳首を隠すギリギリの高さから細いウェストまでを、ギュッと縛る漆黒のコルセット。尻が半分こぼれそうな浅さの黒いショートパンツ。
 ヒザ上までのロングブーツも、手首を覆う幅広のブレスレットも、細い首を飾る首輪も、何もかもが黒革で出来てて白い痩身を飾ってる。こういうの、ボンデージっつーんだっけ?
 これがもし女なら下品過ぎて顔しかめたと思うけど、幸いにも男で、逆に清楚な色気を感じさせた。
 倒錯的っつーか、背徳感あるっつーか、やべーくらい魅力的で目が離せねぇ。皿に山盛りにした肉のことすら一瞬頭から吹き飛んで、ついまじまじと見てしまう。こんな鬼もアリなのかと思った。

 そんな扇情的な格好してるくせに、性格は随分違うみてーだ。
「ふおっ、ごっ、ごめんっ」
 わたわたと焦ってぺこっと頭を下げられ、押されるように「ああ……」とうなずく。
 ぺこっと下げた、ふわふわの薄茶色の頭には角の飾りがつけられてて、それもまた真っ黒だ。なんでか牛っぽい耳も一緒についてんのが、妙に似合ってておかしい。
 おずおずとデカい目に見上げられ、じわっと頬が熱くなる。
 よく見りゃ童顔で、それがまたボンデージと不似合いで魅力的だった。
「すげー格好だな」
 ふっと笑いながら言うと、目の前の白い顔がぼんっと弾けるように赤くなる。
「こっ、こっ、これ、は、イトコに着せられ……っ」
 肌が白いから、赤面するとホントに真っ赤になるんだな。鬼の角つけてるから、まさに赤鬼。こんな可愛い赤鬼も初めて見た。アリかナシかっつーと、アリ寄りのアリだ。

「いいじゃん、似合ってる」
「にっ、似合っ!?」
 オレの誉め言葉にガーンとショックを受けてるみてーな、可愛い赤鬼をにやにやと眺めてると、赤鬼はさらにじわじわ耳や首まで赤くして、「オレっ、料理っ」っつって逃げてった。
 以外と逃げ足早ぇのも、鬼っぽくてイイ。
 こういう出会いもあるんなら、仮装パーティも悪くねぇ。トラ柄ビキニにはあんま興味なかったけど、白肌に食い込むボンデージは嫌いじゃなかった。
 いや、アイツなら案外、トラ柄ビキニも似合うかも。
 赤鬼の去ってった方向をちらっと見て、ふっと笑いつつオレもフロアを移動する。
 鬼がいなくなりゃ、肉だ。5千円の元を取るべく山盛りの肉料理を平らげながら、次は何を食うかなってビュッフェテーブルの方を眺める。
 ローストビーフも美味いし、サイコロステーキも美味い。まあ、全部食ってみてーと評価は下せねーけど、他の料理も美味そうだ。
 実際、料理目当ての参加者もちらほらいるみてーで、オレだけがガッついてる訳でもなさそうだった。

 皿に料理を大盛りにして、隅のテーブルでガツガツ食ってる連中の中には、あのさっきの赤鬼もいた。
 白肌にボンデージっつーのは、やっぱ目立つ。どうしても視線がソイツに釘付けになって、気になって仕方ねぇ。
 ビュッフェテーブルには山盛りの料理があるっつーのに、料理も美味そうだけどアイツも美味そうだよなとか思っちまう。
 ボンデージが黒革なのが悪ぃのか、肌が白くてキレイ過ぎなのが悪ぃのか。胸がねぇのが悪ぃんだろうか。見えそうで見えなそうな、ギリギリの高さのコルセットの胸元を、ぐいっと覗いて見たくなる。
 尻がこぼれそうな、あの黒革のショートパンツも罪深い。
 細っこいくせして大食いで、デカい口開けてもしゃもしゃ食ってる様子は色気なかったけど、それが逆に可愛いと思った。
 目が離せなくてついつい視線を向けちまう。
 そんなオレの様子に気付いたんだろうか。いつの間にか近くにいた先輩が、「気に入った子いたか?」ってオレの肩をぽんと叩いた。

「まあ……そうっスね」
 正直に言うのは少々照れ臭くて合間にうなずく。やる気なかったのバレバレだった分、今更なのが気恥ずかしい。
「いいだろ、コスプレ」
「悪くないっスね」
 つい真顔でうなずくと、「な!」って機嫌よく笑われた。
 先輩には、この前の後期試験のレポートですげー世話になったから、あんま機嫌損ねたくなかったし。頼まれて断りきれずに参加したパーティだったけど、今では来てよかったと思える。
「料理も美味いし」
 オレの言葉に、「そんだけかぁ?」とかニヤ付きつつヒジ打ちしてくる先輩。そうされんのは正直ウゼェけど、今のオレは機嫌いいから気にならねぇ。
「この後、ゲーム大会とかもあるらしーぜ。楽しんでくれよな」
「はい、先輩も」
 ゲーム大会はどうでもいいけど、あの赤鬼とはもうちょっと話してぇ。幸い、まだまだ時間はたっぷりあるし、近付くチャンスはあるだろう。

 先輩は先輩で、赤いチャイナドレスの鬼とか緑のロリータ服の鬼とか、色々気になってるヤツがいるようだ。
「阿部は?」
「オレはボンデージっスね」
 キリッと答えると「うわ、エロ」って言われたけど、エロいのはあの格好であってオレじゃねぇ。
 白い肌に食い込むコルセットとか、ない胸を隠してる胸元とか、ちら見えしてるへそとか、こぼれそうな尻とか、ブーツからはみ出た太もももヤベェとか……そんなことをわざわざ語る気はねーけど。
 まだまだ続く鬼パーティ、オレもそれなりに楽しもうと思った。

(続く)

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あきゅろす。
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