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Season企画小説
節分・鬼パーティ・1 (大学生・2020節分)
 結婚式なんかの2次会すんのにも使われるような、広いフロアの宴会場。頭上に並ぶ豪華なシャンデリアの光を受けて、会場の中はキラキラと明るい。
 白をメインにした内装といい、立食形式のビュッフェといい、いかにもなパーティ会場だ。1段高いステージ上からドンドンと大太鼓や小太鼓の音が響いてんのが、少々場違いにも思える。
 取ってつけたように和風の雰囲気を出そうとしてんのは、これが一応、節分イベントだからなんだろうか。
 まあ、和装の参加者も結構多いけど。そう思いつつ、壁にもたれて会場を見回す。
 着流しを着た鬼、振袖の鬼、タキシードの鬼、トラ柄スーツの鬼、鬼、鬼……。会場中にそんな鬼の格好をした連中が溢れてた。
 勿論、本物の鬼じゃねぇ。節分にちなんだコスプレイベントだ。
 かく言うオレ自身も、適当に買って来た鬼のカツラを被ってる。レインボーカラーのアフロヘアに、赤い角がついてる派手なヤツだ。我ながら派手だなと思ったけど、鬼っぽいのがこれしかなかったんだし仕方ねぇ。
 このイベントに誘って来た先輩には「お前、やる気ねーな」って呆れられたけど、やる気ねぇのはホントだし、言い返すまでもなかった。
 つーか、節分豆のおまけに貰えるみてーな、紙のお面にしなかっただけマシだと思って欲しいトコだ。

 なんでそんなやる気のねぇ状態で参加したかっつーと、お世話になった先輩に同行を頼まれたからだ。
「頼む、1人じゃ不安なんだ」
 って。
 まあ確かに、見知らぬ奴らが集まる仮装パーティみてーなイベント、1人じゃ行き辛ぇよな。だったら参加しなきゃいいだろうって話だけど、そこはやっぱ、どうしても興味があったらしい。
 ちょっと変わった合コンみてーな感じなんだろうか。
「トラ柄ビキニの美女鬼とかもいるかも知んねーぞ」
 と、そんな見え透いた誘いに乗った訳じゃねーけど、まあ、興味が皆無だったかっつーと嘘になる。
 コスプレイベントがどんな感じなのかも気になったし、参加費5千円は痛かったけど、1度見てみんのも悪くねぇと思った。

 先輩には呆れられたけど、オレと似たり寄ったりのやる気のねぇ仮装してるヤツもちらほらいた。
 手描きかよ、って感じの紙のお面の鬼もいたし、頭に角の飾り物つけてるだけのヤツもいた。鹿の角着けてるヤツもいたけど、凝ってんだか手抜きなんだか意味が分かんねぇ。
 まあ、オレだけが浮いてるって訳じゃなくて、その点はホッとした。
 会場の中は、やる気のねぇ連中よりも、やる気満々の連中の方が意外と多い。
 さっき見た着流しのヤツは、紙でもプラでもねぇ本物っぽい鬼の面を被ってたし。一緒にいた振袖の女は、まさに鬼女って感じのメイクしてて、すげー凝ってた。
 成程、メイクっつーのはイイ手だよな。
 合コンめいたパーティに鬼女メイクっつーのがどうなのかは分かんねーけど、誰もかれもが出会い目的って訳じゃねーんだろうし。本人がよければいいんだろう。
 黒スーツに鬼の角、口から牙生やしてるヤツなんか、シンプルなのに逆に鬼っぽくて、感心する。
 残念ながら、トラ柄ビキニみてーなヤツはいなかったけど、上半身裸にトラ柄長ズボンっつープロレスラーみてーなヤツはいて、眺めるだけでまあ楽しい。
 ノリノリかっつーとそうでもねーけど、今すぐ帰りてぇって程つまんなくはねーし。参加費5千円分以上、存分に飲み食いしてやろうと思った。

 やがて集合時間が過ぎたのか、フロアに響いてた太鼓の音がいっそうドンドコと激しくなった。さっきまでなかった横笛の音や、拍子木の音まで聞こえて来て、参加者の注目がステージの方に一気に集まる。
 打ち鳴らされる太鼓、ピーヒョロピーヒョロ高く響く笛、曲の最後に拍子木がカンカンと打ち鳴らされて、それを合図にぴたっと楽器の音が止む。
 代わりにステージ上に羽織袴を着た男が現われて、マイクを持って挨拶を始めた。
「本日は節分・鬼祭りにようこそお越しくださいました……」
 司会の男が着けてた赤鬼の面をずらして口上を述べると、会場中にぱちぱちと拍手が起こる。
 パーティの由来がどうとか、コンセプトがどうとかは興味がなかったし、あんま耳には入らなかった。太鼓や笛の演奏者の紹介もあったけど、それにも興味なかったし、周りに合わせて適当に拍手を打ち鳴らす。
「どうぞご歓談ください」
 オレの耳にしっかり残ったのはそんだけで、じゃあっつって遠慮なく中央のビュッフェテーブルにまっすぐ近寄る。
 節分らしく太巻きが山盛りになってる皿もあったけど、普通にテリーヌとかパスタとかサラダもある。肉もある。
 こういうビュッフェで、美味いモンからなくなってくのは常識だ。そして早い者勝ちなのも常識だ。肉だ。
 さっそくトングを掴んで目につく肉や肉や肉をガッツリと取り、白い皿に盛り上げる。野菜が入ってねーけど、まあまだ始まったばっかだし、次に取ればいいだろう。
 戦利品に満足しながら、さて食おうとテーブルから離れると――トシンと誰かにぶつかって、危うく肉を落としかけた。

(続く)

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