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Season企画小説
「うわぁ」としか言えない (大学生・2020成人式・水谷視点)
 成人式が終わった後、野球部のみんなで集まって一緒に食事しに行くことになった。
 残念ながら県外に行ってるヤツもいるし、会場が違うってヤツもいて、全員参加ってことにはならなかったけど、それでも懐かしいことには変わりない。
 卒業から約2年、何人かとは遊びに行ったり食事に行ったりもしてたけど、2年ぶりだってメンバーもいるし。一度に大勢で集まる機会ってそんなにないから、成人式本番よりも楽しみだった。
 高校の仲間とも久々だけど、中学の仲間とも久々だ。
 「久し振り」とか「今、何してんの?」とか、みんなで尋ね合い、雑多な会話を続けてく。高校のみんなとは2年ぶりだけど、中学のみんなとは5年ぶりで、そりゃ懐かしいなと思った。
 成人式の会場は、スーパーアリーナ。1万人規模の成人式は、とにかく圧倒的で、うわーって盛り上がって終わった感じ。
 スマホの灯りをサイリウムの代わりに、ってのは前から有名だったけど、実際に参加すると気分も違う。
 今頃みんなもどっかにいるのかな……なんて考えるような間もなくて、周りの雰囲気に当てられながらオレも大いに楽しんだ。

 中学時代のクラスメイトや部活仲間からも「この後メシ食いに」って誘われたけど、それは丁重に断って、西浦の方を優先することにした。
 中学の時だってそれなりに真剣だったとは思うけど、高校時代に甲子園目指してやってたのとは重みが違うし、一体感も違うよね。今会いたいのは西浦のみんなの方だから、その辺は仕方ない。
「ええー、水谷君行かないのー?」
 振袖姿の女子たちからも名残惜しそうに言われたけど、「ごめんねー」って謝って遠慮する。
 連絡先の交換も大勢としたし、またその内集まる機会もあるだろう。同窓会だって、連絡あれば参加するし、今日遊べなくても悔いはない。
 っていうか、振袖女子と一緒って、あんまパワフルには遊べないよね。
「またねー」
 って手を振り合って、みんなに背中を向けて立ち去る。
 西浦でも和服着てる子いるのかな? 振袖、いいよねぇ。そんなことを考えながら、西浦のメンバーを捜し歩いてると――。
――けやき広場の2階にいるぞ――
 そんな短い連絡が花井から来て、相変わらずキャプテンだなぁっておかしくなった。

 急いで2階に向かうと、立ち並ぶけやきの木立の中に、見知った顔の集団を見つけた。
「久し振りー」
 声を掛けながら駆け寄って、集まったみんなの顔をぐるりと見回す。
 ほぼ全員がスーツ来てる中、なんでか阿部1人だけが羽織袴で、それがまたすげー似合ってて笑いが収まらなかった。
「阿部、写真撮って写真」
 ケータイを掲げて近寄ると、「高くつくぞ」とか言いながら渋々並んでくれる阿部。
「なんでみんな写真撮りたがるんだ……」
 ってぼやいてるトコ見ると、どうやら中学のみんなからも散々写真をねだられたらしい。同じ中学出身だった栄口も苦笑してたから、それなりの騒ぎだったんだろう。
 会場内には羽織袴のヤツだって他にもいたけど、阿部の似合い方は尋常じゃない。ヤバい。
「そんな格好だからだろ」
 呆れたように苦笑する花井に、「だよねー」と同意する。
「仕方ねーだろ、親がこれしかねーっつーんだから」
 ちっ、と舌打ちしながら阿部がぼやいてて、そんな様子もおかしかった。

 高校の卒業式や、大学の入学式で着たスーツは、ビミョーに小さくて着れなかったんだそうだ。
 言われてみれば阿部は身長も更に伸びてて、もう花井と変わんないくらい。横幅っていうか、体の厚みもすごく増してて、いかにも「捕手」って感じの体つきだ。
「阿部、デカくなったねー……」
 ちょっと距離を取ってしみじみ眺めると、阿部は「まーな」ってニヤッと笑った。
「レンにもよく言われるぜ」
 ニヤリと笑いながらの言葉に、花井が「うわぁ」と顔をしかめる。
 レン、って、三橋? 阿部って三橋と同じ大学だったっけ? それで、なんで「うわぁ」なんだろう?
 不思議に思いつつ首をかしげてると、「そういや三橋は?」って花井が尋ねた。
「まだ来てねーな」
「迷ってんじゃねぇ?」
 みんなが周りを見回しながら、三橋がいないのを確かめる。阿部はっていうとケータイを着物の袂から取り出して、何やら操作を始めてた。

 ケータイを耳に当てる阿部。
「今どこ?」
 って訊く阿部。その態度は相変わらずエラそうで、三橋を委縮させそう。今にも「早く来い!」って怒鳴りつけそうに思えて、他人事ながらヒヤヒヤする。
 けど、オレの予想に反して、阿部は意外にもすげー優しげな笑みを浮かべてて、「仕方ねーな」なんて甘い声で呟いた。
「じゃあ迎えに行ってやるよ。動かずにそこで待ってろ。……ああ。……すぐ行くから。ナンパされんなよ?」
 とろけそうな笑みを浮かべ、電話に向かって告げる阿部。
 そんな顔、できたんだ!? っていうか、相手、誰? 「ナンパされんなよ」って、まるで嫉妬するカレシみたいなセリフだけど、えっ、三橋じゃないの? 三橋のことを話してる時に、恋人と電話するとかどうなの? まあそれでこそ阿部なのかも知れないけど……。
 少々複雑な思いをしながらじとっと阿部を眺めてると、阿部はケータイを再び袂の中にしまって、「迎えに行って来る」ってオレらにくるっと背を向けた。
「え……?」
 とオレが驚く中、疲れたような顔で「おー」と花井が返事する。しっしっと犬でも追い払うように手を振ってて、これもまた不思議だなぁと思った。

 まだ顔を見せない三橋、なぜか恋人を迎えに行った阿部、阿部を追い払う花井の仕草、疲れたような諦めたようなキャプテンの笑み。その謎が解けたのは、阿部と一緒に三橋が合流してからのこと、で。
「た、タカ、君、格好いい、な」
 でれっと赤い顔で阿部に抱き着く三橋と、「お前も可愛いぞ」なんて三橋の頬にキスする阿部を見て、オレもさっきの花井と同じく「うわぁ」と口に出していた。

   (終)

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あきゅろす。
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