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Season企画小説
手のひらサイズのプレゼント・4
 部活の時間も、やっぱ手乗りレンは可愛かった。西浦のユニフォームを着てるから、練習着の部員の中に混じっても違和感がねぇ。
 オレらが部室で着替えてる間も、デカい目をキラキラさせて喜んでるみてーだった。
 自分が硬球サイズだから硬球を投げることはできねーけど、そもそも今は12月だし、ボールを触る時間がそもそも短くなってるから、それ程ダメージはねーだろう。
 冬季にボールを使うか使わねーかは、指導者によって色々考え方が違うらしい。極端なとこだと、冬の間ボールに一切触らさねーとこもあるんだとか。
 モモカンはそんな極端じゃねーから、ゴロ捕球の練習くらいはするんだけど、それも入念に手指のストレッチをやって怪我しねーように配慮した上でのことだった。
 もし冬の間全くボールに触らさねぇ指導だったら、三橋はどうだっただろうって時々思う。
 隠れて1人で投球練習したりしねーだろうか。そう考えると、やっぱ目が離せねぇ。
 その点手乗りレンは、ずっと連れ歩けんのがイイ。
 オレの見てねぇとこで勝手に無茶して、調子崩したりしそうにねぇ。
 それに、可愛い。

 練習着に着替えて夕暮れの裏グラに集合すると、モモカンがオレら全員を見回して、「あれ?」って顔で首をかしげた。
「三橋君は?」
「ここに」
 不思議そうに問うモモカンの目の前に、手乗りレンをにゅっと差し出す。手乗りレンはオレの手のひらの上に足を延ばしてちょこんと座り、きゅるんとした目でモモカンを見上げた。
 手乗りレンを見て、ぎょっと目を見開くモモカン。「ええっ」とか「何コレ」とか叫ばなかったのは、さすが大人ってことなんだろうか。
「そ、そう……じゃあ、三橋君は今日は見学だね……」
 コホンと咳をして真面目な顔で言いつつ、モモカンはちらちらと手乗りレンに視線を向けた。
 今にも「可愛い〜」とか言って手を伸ばしそうな雰囲気。
 いや、それはマネジも一緒だろうか。

「監督!」
 びゅっと手を挙げて自己主張する篠岡の目線は、もう既に手乗りレンに釘付けだ。
「私、練習中は預ります!」
「はあ?」
 図々しい申し出にじろっと睨んでやったけど、そもそもオレの顔なんか見てねーから、その睨みは通じねぇ。
 目をぎらぎらさせ、口元はよだれ垂れそうに緩んでて、両手をわきわきさせてる様子は、レンじゃなくても結構怖い。
「食う気だろ」
「食べないから!」
 朝にもやった会話を繰り返しつつ、「信用できねぇなぁ」と呟く。
 手乗りレン本人はっつーと、そんな目で見られんのにビビりつつ、かなり慣れて来てるみてーだ。くるんと丸まらず、でも恐る恐るって感じで篠岡を仰ぎ見てて、またこれがスゲー可愛かった。

 とはいえ、さすがに練習中はオレにくっ付けとく訳にもいかねぇ。
 頭に乗せてその上にキャップ被るんでいいだろうと思ったけど、それはモモカンにも花井にもみんなにもぶうぶうと却下された。
「落としたらどうすんだ!」
「落ちたトコ踏まれたらどうすんだ!」
 と、そう言われりゃ確かに怖ぇ。仕方なく練習中は、ベンチに置いとくしかなさそうだった。
「私が見とくから!」
 篠岡にそう嬉しげに言われると逆に不安だけど、まあベンチにいりゃ迷子になるってこともねーだろう。
 手乗りレンに「ほら」ってボールを1個渡すと、レンはぱあっと輝くように笑って、ぎゅっとボールにしがみついた。
 ころんと転がるボールに乗っかり、ご機嫌で遊んでんのが可愛い。
 自分も丸まったらボールサイズなのに、嬉しげに引っ付いてんのも可愛い。こんなのホント、欲しかった。

「天使だな……」
 ぼそりと呟いて、ベンチから離れてストレッチを始める。
 手乗りレンもボールを脇にキープしつつ、短い手足を懸命に伸ばしてストレッチしてんのが可愛かった。

 困ったのは、部活が終わって帰ろうかとなった時だ。
「もっと三橋君と遊びたい」
「ずるいぞ、オレだって遊びてぇ」
「オレもオレも」
「頭に乗せたい」
 みんなが口々にそう言って、なかなか解散しようとしなかったからだ。いつもならおにぎり休憩の後、先に帰る篠岡まで居残ってる。
「三橋君、じゃあね」
 そう言って手乗りレンのぷくぷくの頬をつついただけで、潔く去ってったモモカンはすげー大人だ。
 それに比べて野球部の面々は、すげー図々しい。
「阿部、今日誕生日だろ。ケーキ食いに行こう!」
 しまいにはそんな事も言い出して、結局みんなで近くのファミレスに寄り道していくことになった。

 オレの誕生日のことなんか、朝から誰も1回も触れなかったくせに。こういう時だけ「お祝いしねーと」とか言い出すのにちょっと呆れる。
 わざわざ食いに行かなくても、家に帰りゃケーキくらいあるっつの。多分。
 けど、そう思いつつも一緒にファミレスに行くことにしたのは、「ケーキ」って単語を聞いて手乗りレンがむくっと顔を上げたからだ。
 部活中にひとしきりボールで遊び、遊び疲れてうとうとしてた手乗りレンの、あからさまな覚醒。
 ケーキって単語を聞き逃さねーとこは、いつも通りの三橋らしい。
 うとうとしてたくせに、ぴくんと反応するトコが可愛い。デカい目を見開いてキョドキョドしてるのも可愛い。
「レンもケーキ食いたいよなー?」
 間近から田島に覗き込まれてビクンとしつつ、こくりとうなずく様子もまたイイ。
 はくはくと口をひし形に開け、それでいて何か言うことはなかったけど、にへっと笑う顔は手のひらサイズでもいつもの三橋で、惚れ惚れするくらい可愛かった。

 生クリームに埋もれるレン。ショートケーキより小さいレン。イチゴを得意げに抱えるレン。手のひらに収まる小さなレン。どれもこれもすげー可愛い。
 一体いつまでこの可愛いイキモノは、オレの側にいてくれるんだろう。
 誕生日の奇跡は、やっぱ誕生日だけ有効なんだろうか?
 手のひらサイズじゃないとしても、何となく、ずっと側にいてぇなと思った。

(続く)

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