Season企画小説
猫のような何か (社会人・同棲・2019猫の日)
今日は猫の日なんだ、って知ったのは、帰りに偶然立ち寄った雑貨屋さんでのことだった。
マグカップを割っちゃったから、代わりのカップを探そうと思ったんだ。そしたら店頭に猫柄のマグカップが幾つか並んでて、目を引いた。
2色遣いのシンプルで格好いいのとか、いっぱい猫が並んでるのとか、ワンポイントのとか。猫の形したカップもあった。そんで、マグカップの周りには他の猫グッズもいっぱいあった。
猫柄の箸とか猫柄のスプーン、猫柄の皿……。食器だけじゃなくて、反対側にはノートや消しゴム、メモ帳なんかも色々と猫柄のモノが並んでる。
よく見ると、そこのコーナー全体が猫グッズであふれてて、そこでようやく「猫の日特集」って看板に気付いた。
2月22日、にゃーにゃーにゃーで、猫の日なんだって。初めて知った。
にゃーにゃーにゃーって、なんだかすごく可愛い。猫は可愛いけど、気まぐれでツンデレなとこもあって、阿部君に似てるなって思う時もある。
これ言うと、みんなに「何言ってんだ」って顔されるんだけど、触ると癒されるトコとか、時々つれないトコとか、似てるなぁって思うんだ。
阿部君に似てる猫、あるかな?
ふひっと笑いつつ、そのコーナーをじっくり見回る。猫柄のエプロンやタオルなんかの向こうには、猫柄のお菓子なんかもあって、面白い。
猫のキャンディとか、猫の形したチョコとか。「クロネコーヒー」ってダジャレみたいなものもある。
その中で特に目立ったのは、猫柄のラベルの可愛いお酒、だ。
カラフルなラベルのもあるし、白猫が舌を出してるラベルのもある。ツンと澄ました黒猫のもある。
明日は土曜だし、お酒もいいかも。ツンと澄ました黒猫は阿部君には似てなかったけど、甘口だっていうし、店員さんに「数量限定ですよ」って言われたから、試しに買ってみることにした。
値段も1000円くらいだし、お手頃、だ。
猫柄の包み紙で包装して貰って、恋人と同棲するマンションに浮き浮きと帰る。
マグカップ買うのすっかり忘れてたって、電車に乗ってから気付いたけど、今更戻る気にもなれないから仕方ない。
マグカップは、今度また阿部君と一緒に探してもいいかなと思った。
マンションに着くと、ちょうど阿部君も仕事帰りだったみたい。玄関の鍵を開けてると、後ろから「よお」って声を掛けられてビックリした。
「お帰、り」
「ただいま。今日は遅かったんだな」
「そう、かな?」
阿部君と会話を交わしつつ、玄関に入って靴を脱ぐ。
思った以上に、あの雑貨屋さんで時間くっちゃってたみたい。言われてみれば、いつもより1時間近く遅い時間で、ちょっと慌てた。
「これ、買ってた」
阿部君に猫柄のラッピングを渡し、コートとスーツの上着を脱いで、代わりにエプロンを身に着ける。
「ああ、猫の日な」
猫柄のラベルのワインを見て、阿部君がふふっと笑ったのが意外だった。
「猫の日、知ってた?」
首をかしげると、「オレも買った」ってニヤッとされる。
一体何を買ったんだろう? 帰り道に、似たような雑貨屋さん、あったのかな?
何を買ったのか気になったけど、「後でな」って阿部君はニヤッと笑うだけで、結局食事が終わるまで教えてくれなかった。
お風呂に入っても、猫ワインを飲み終わっても、買ったモノを教えてくれない阿部君。
「ベッドでな」
再びニヤッと笑われて、甘口ワインに酔った頬がさらにじわじわ熱くなる。
もしかして、ソッチ系? そりゃ、週末だしオレだってエロいこと期待してない訳じゃないけど、阿部君にそんな風にもったいぶられるとイヤな予感しかしない。
猫の……アダルトグッズって、何だろう? 猫耳? それとも、猫しっぽ?
しっぽっていうと、まず思いつくのはお尻に入れるアレだ。アナルプラグとか、ビリビリ来るのもあるらしくて、ちょっと怖い。
「お、お、お尻に着ける、し、しっぽ、とか……?」
恐る恐る訊くと、「はあ?」って意外そうに言われて、予想が外れたのが分かる。
「なんだ、お前ああいうの好きなのか? じゃあ今度」
「い、い、い、い、いらない」
不穏な発言を食い気味に否定すると、「好きなんだろ?」ってニヤッと笑われて赤面する。
「す……」
好きじゃない、って分かり切ったことを言おうとしたけど、残念ながら最後まで言うとこはできなかった。
「さあ」って腕を引かれてベッドまで連れていかれたから、だ。
そうしてようやく見せて貰えたのは、手のひらサイズの猫だった。真っ黒で猫の顔の模様が描かれてるけど、猫にしては耳が長い。
持たされるとずっしり重くて、機械仕掛けなのが分かる。触った感じはすべすべで……シリコンゴム製、っていうの、かな?
「こ、れ何?」
首をかしげてると、「まあまあ」って言いながらパジャマの上を脱がされた。
オレの手の中から猫を取り上げ、どっかをカチッと押す阿部君。同時にブゥンと震動の音が聞こえて、バイブ的なモノだって分かった。
けど、分かったからって、逃れようがない。
「ちょっ、待っ」
焦るオレを「動くな」って押さえつけ、オレの裸の胸に阿部君が猫を押し付ける。なんで耳が妙に長かったのか、乳輪ごとぱくっと挟まれて、ようやく知らされることになった。
「ひゃあああ、やああっ」
びりびり来る有り得ない震動と刺激に、びくんと上半身が跳ねる。
「いーだろ、コレ。尻にも挟めんだぜ」
何やら不穏なセリフが聞こえたけど、頭の中に入らない。
「ああああっ、やっ、にゃあああっ」
「ふっ、猫みてーだな、レン。そんなにイイ?」
嬉しそうに笑ってる気配に、必死でぶんぶん首を振る。
悲鳴を上げても、震動はやまない。胸から全身にびりびりと電流が走り、頭の中が白くなる。
「しっぽも買った方がよかったな……」
阿部君の真面目な呟きに、「いらない」って答えることもできなくて。猫もどきは阿部君だけで十分だって思った。
(終)
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