Season企画小説
キラキラの抱負・1 (2019成人の日・プロ阿部←後輩三橋)
「では阿部選手、新成人の抱負をどうぞ」
真横に立つ女子アナウンサーにマイクを突き出され、「そーですね」と正面のカメラに視線を向ける。
「取り敢えずは2軍でまた、優秀選手に選ばれるよう精進します。それと、1軍の試合に出られるチャンスを、もっと増やしていきたいですね」
あらかじめ考えてたセリフを口にして、カメラに向かって作り笑いで1つうなずく。
「頑張ってください!」
アナウンサーの言葉に「はい」と答えて礼をして、カメラに向かって再度礼。
「埼玉リオネスの阿部選手の抱負でした!」
女子アナが弾んだ声でしめくくり、カメラに向かって手を振った。オレもそれに合わせて手を振ってると、カメラの後ろから「オーケーでーす」と声がかかる。
どうやら中継は無事に終わったらしい。向けられてたビデオカメラから緑のランプが消えて、オレらの頭上に掲げられてた集音マイクが下ろされる。
「ご協力ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございます」
アナウンサーや同行AD、他のスタッフたちに頭を下げ、背を向けてゆっくり立ち去る。
撤収まで見届けた方がいいのか、それとも邪魔になるから立ち去った方がいいのか、未だによくワカンネー。
高3の時にドラフト会議を経て、プロの道に進んでから2年。
成人式会場をバックに3年目の抱負をテレビカメラ越しに語って、オレの成人式もようやくこれで終わりになった。
撮影スタッフと別れ、顔なじみの連中を探して歩き出すと、わぁっと歓声が上がり、たくさんの新成人たちに囲まれた。
「阿部くーん!」
「きゃー、阿部くーん」
「応援してるぞー」
甲高い声に混じり、男の声も聞こえてくるのが地味に嬉しい。ホントに応援してくれるかはビミョーだけど、プロっつーのは人気商売なとこもあるし。知名度があるだけ喜ばしいことだった。
とはいえ、知らねぇメンツの中で立ち往生してても仕方ねぇ。立ち止まらず笑顔を絶やさず、「応援サンキュー」とか「ありがとな」とか繰り返しながら、軽く手を振り、足を進める。
そんでも次々囲まれることには変わりなかったけど、お陰で顔見知りには向こうから気付いて貰えたみてーだ。
「阿部、こっち!」
大声で名前を呼ばれて目を向けると、高校時代の野球部の同期が数人、固まってこっちに手を挙げた。
「おー、久し振り!」
ホッとして声を上げ、野次馬の囲いから抜け出して同期に駆け寄る。
花井や水谷、巣山、西広、栄口……高校時代、一緒に活躍した野球部のチームメイトの顔ぶれに、緊張が解けてホッとした。
「すげー人気じゃん、阿部ぇ」
水谷の緩いコメントに、気を抜いて「まーな」と答える。
「あれは中継あったからだろ」
「いやいや中継されるだけスゲーって」
「カメラ目立つよな」
オレの謙遜に、みんなが口々にフォローしてくれんのを甘んじて受けとめながら、仲間っていーよなと思った。
勿論、今のチームメイトだって仲間だとは思ってるけど、同時に競争相手でもあるし、弱音なんて滅多に吐けねぇ。
プロとアマとは違うなって、こんな時はしみじみ思う。
けど、プロになんのを選んだのはオレだし。後悔なんか何もなかった。
野球部の同期が全員揃ったところで、母校に顔を出そうってことになった。
今日は祝日だけど、野球部の練習はあるらしい。当時キャプテンだった花井が、あらかじめ監督に確認したそうだ。
「さっすがキャプテン」
水谷にヒジ打ちされて、花井が「うるせー」とヒジ打ちを返してる。
「よし、裏グラまで競争だ!」
誰かのふざけた提案に、反対意見が飛び交うのもいつものことだ。
「いや、やめよーぜ。この革靴、高かったんだ」
「オレなんか草履だぞ」
わはは、と湧き上がる笑い声。
小突き合い、背中を叩き合い、肩を組み合って、会場から母校までの道を歩く。歩くとやっぱそれなりの距離で、イイ感じに体が温まった。
久々に訪れる裏グラは、何も変わってねぇようで、でも確実に疎外感が漂ってた。
色褪せたベンチが新しくなってて、ボロかったベンチの屋根も変わってる。
グラウンドに散らばってるメンバーを見ても、知らねぇ顔ばっかで、当然だけどなんか寂しい。
無意識に、挙動不審な細っこいヤツを目が探して、それがいねーのに愕然とした。
「あれ、オレらが3年ん時の1年は……?」
思わずぽろっと口にすると、みんなに「何言ってんだ」ってツッコまれた。
「ソイツら、今3年だろ。とっくに引退してるっつの」
「阿部ぇ、抜けてんな〜」
口々にからかわれると、さすがに気恥ずかしい。
「そーだっけ。もうそんなになるんだな」
照れ隠しに苦笑して、錆の目立つフェンスに指を掛ける。フェンスは当たり前だけど冷たくて、錆のせいでざらっとしてた。
「三橋を探してんのか?」
ズバッと指摘され、不意打ちをくらってドキッとする。
反射的に花井を見ると、ちょっと呆れたような顔で「図星かぁ」って苦笑された。
「お前ら仲良かったもんな」
しみじみ言われて動揺しつつ、「そーか?」とグラウンドに目を向ける。
いないって思うと、妙に恋しくなってくるっつーか、顔を見たくなんのはなんでだろう?
『先、輩っ』
ドモリがちな口調で、不器用な笑顔で、オレの後をついて来てた後輩はもういねぇ。
ドラフトん時もそういや名前は聞かなかったから、多分進学するんだろう。
プロアマ規定のこともあったし、自分のことでいっぱいいっぱいだったから、卒業以来全くここに来なかった。別に後悔はしてねーけど、顔を出すくらいならできたんじゃねーかなと思った。
(続く)
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