Season企画小説 Please try again・7 阿部君の動揺は、何て言うか、思った以上だった。 「おまっ」 言葉を詰まらせながら、阿部君がバッと顔を横に背ける。横顔がすごく赤い。耳まで赤い。けど、照れよりも焦りの方が大きいみたい。 「何て格好してんだ!」 阿部君は大声で怒鳴りつけ、「服着ろ!」ってオレに背中を向けた。 焦ったり照れたりして貰えたのは良かったけど、欲しいのはそんな言葉じゃない。怒鳴って欲しくなかった。 「やだ、着、ない」 「な……っ」 オレの精一杯の宣言に、背中を向けたまま絶句する阿部君。 「……何言ってんだ」 しばらくしてから告げられた言葉は、低く震えてて非難に満ちてて、ズキッと胸に痛みが走る。 拒絶される可能性、ちゃんと考えてたつもりだったけど、いざ背中を向けられると、思ったよりもキツかった。 けど、ここで引く訳にはいかない。 言いたいことを口にしろって、オレに言ったのは阿部君、だ。言わなきゃワカンネーぞ、って。だから。 「阿部君、オレ、えっちしたい」 泣きそうになるのをこらえながら、言いたいことをキッパリと告げる。 「誕生日、に、オレを……っ、も、貰ってくだ、さい」 ドモリながらじゃ格好つかないなって思ったけど、オレが情けないのなんて今更だし、どうでもいい。 バスタオルを足元にぱさっと落とし、阿部君に手を伸ばす。 「阿部君は、オレなんかともう、し……したくない、かも、知れない、けど。オレは、したい」 背中越しにぎゅっと抱き着いて、両腕に力を込める。 振り払われても、絶対離れない。そんな覚悟を決めて抱き着いて、自分より広い背中に縋る。 阿部君はしばらく身じろぎもしないで固まってたけど――やがて小さく舌打ちをして、抱き着いたままのオレの右手に、右手を重ねた。 「したくねーとか、思ってる訳ねーだろ」 ぼそりと告げられた言葉に、ドキッとした。 期待がぶわっと膨らみそうになったけど、それを必死で抑え込み、頭の中でさっきの言葉を繰り返す。 したくねーとか思ってない。これって、期待、してもいいのかな? 「阿部君……」 涙の浮かんだ顔を、阿部君の背中に擦り付ける。 「じゃあ、して?」 もっと可愛くおねだりできればいいのに。ねだる声はみっともなく震えてて、ホント、格好つかないなって思う。 必死過ぎて、自分でもおかしい。けど、必死なの否定できない。 「でもな……」 背中を向けたままの阿部君の口から、ぽろっと否定っぽいセリフが飛び出す。それをこれ以上聞きたくなくて、オレは急いで言葉を重ねた。 「ろ、ローション、ちゃんと買ってある、よ。な、中も洗った、よ。じ、自分で準備、はできてない、かも、だけど。で、でも、指、入れても痛く、ない、よっ」 途中から何言ってんだって自分でも思ったけど、止まらない。阿部君の気持ち、翻したい。 「お、オレなんかじゃ魅力ない、かも、だけど。せ、精一杯、が、頑張る、から。だから……えっ、えっち、してくだ、さい」 「頑張るって、何頑張んだよ?」 ぶっ、と吹き出しながら、阿部君が言った。 笑ってる、って気付いてカーッと赤面しながら、「何、でも」って思ったままを口にする。 この3ヶ月、何を頑張るかはちゃんとネットで調べてた。 どうすれば痛くないかも調べたし、フェラの仕方とか、色んな体位とか、そういうのも調べた。 男同士の時は、バックの方がいいんだって。 そんなことを考えながら、阿部君にぎゅっとしがみつく。 阿部君は、オレの手の上から右手をぽんぽんと叩くように重ねて、それから手首をぐっと掴んだ。 手首を掴まれ、前に引かれて、阿部君と正面に向かい合う。 恥ずかしさに耐えながら赤い顔で見上げると、阿部君はちょっと困ったように眉を下げて、でも優しく笑ってた。 「お前にこんなこと言わせてごめんな」 突然謝られ、意味が分かんなくて首を振ると、抱き締められてキスされた。 久し振りの長く深いキスに、たちまち息が上がる。 「ん……っ」 たまらずうめいて阿部君の服に縋りつき、絡められる舌に応える。 何度も重ねられる唇。交わされる吐息。差し込まれた舌に口中を舐められ、その気持ちよさに「んっ」とうめく。 「レン……」 阿部君が大きな手を、オレの髪に差し入れた。 「ホントにいーの?」 耳元で訊かれ、素直にうなずく。 「こんなヘタレだけど、いーの?」 自嘲するような言葉に、ふひっと笑えた。阿部君は格好いいけど、ダメなとこあるのも知ってる。格好いいトコもダメなトコも全部ひっくるめて好きなんだから、そんなの訊かれるまでもない。 それより、「いいの?」ってオレのセリフだ。 オレ、ずっと拒絶が怖くて、なかなか行動に出せなかった。てっきりもうダメかと思って、でも絶望したくなくて、なけなしの勇気を振り絞った。 久々のキスとハグに、胸がときめく。 期待が募って胸の中がパンパンで、もし今「やっぱなし」なんて言われたら、きっと立ち直れない自信、ある。 ねぇ、期待していいんだよ、ね? 「あ、阿部君、こそ。いい、の?」 感情が昂ぶって、声が震える。 1分1秒も待てない気持ちで答えを待ち、上目遣いで見上げると――阿部君はやっぱり苦笑したままだったけど、「分かった」って言ってくれた。 (続く) [*前へ][次へ#] [戻る] |