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Season企画小説
悪霊祓いとカボチャランタン・4 (R18)
 準備がある、と2人の男たちに告げ、廉は1度自宅に戻った。
「潔斎、を」
 準備とは何かと訊かれてそう答えたが、実際に行うのは恐らく、「潔斎」という言葉から想像されるものとは真逆に当たる行為である。
 けれど、どちらにせよ「神事」であることには変わりない。
 神に身を任せ、神の力を身に宿す行為。それが廉たちにとっては少し普通と違うだけだ。

 自宅に戻った廉は、階段を上がってまず2階の自室に向かった。
 シャワーを浴びるべく着替えを用意しようとするが、見えない手によって手首を掴まれ、阻まれる。
「うえっ? さ、先にシャワー、を」
『後だ』
 ささやかな抵抗も、神の意志の前では何の意味も持たない。
 不可視の手が、廉の羽織るデニムシャツを脱がせ落とし、柔らかな髪をぐっと掴む。
 上を向かされ、不可視の相手に唇を塞がれて、体温のない舌をねじ込まれる。黒髪の少年神の手にも唇にも体温はなかったが、その唾液は精液と同じく、力を含んでいて熱かった。
「う、あ……」
 口からわずかに流し込まれた神気に、廉が思わずうめき声を漏らす。
 たちまち立っていられなくなり、手足から力が抜け始める。それを待っていたかのように、ふっと耳元で神が笑った。

『無駄な抵抗すんな。脱げ』
 響のいい低い声で命じられ、悦びにぞくぞくと背筋が震える。
 無駄な抵抗、まさにそうだ。素直にその指示に従い、廉は1枚1枚着ている服を脱ぎ落した。
 不可視の神の手が、廉の素肌に這わされる。
 さっきわずかに味わった神気の名残が、しなやかな体を熱くする。
 ふらふらと導かれるままベッドに向かい、廉はその上に横たわった。間もなく実態も影も重みもない存在が、廉の上に覆いかぶさる。
 全身に這わされる手、時折落とされる唇……。その心地よさにとろりと意識が融ける頃、廉の両脚が押し広げられて、あらぬ格好をさせられる。
 ふっと羞恥に駆られるのはこんな時だ。
 こんな姿を同居する両親に見られたら――?

 けれど、廉の両親は共働きかつ留守がちで、平日のこんな日暮れ時に家に帰ることもない。
 また、もし急な帰宅をすることがあったとしても、少年守護神の結界に覆われ、部屋に立ち入ることはできないだろう。
『廉……』
 耳元に囁かれる名前に、応じるように目を伏せる。
 体温のない神の肉が、慎ましいつぼみに押し当てられ、遠慮なくそこを貫いた。
「あああっ」
 悦び混じりの声を上げ、廉が神を受け入れる。
 最奥を穿たれる衝撃。間もなく容赦なく始まる抜き差し。不可視の手が廉の手首を掴み、布団に強く縫い付けた。

 キシキシと鳴るベッド。
 神の律動に合わせ、ゆらゆら揺らされる白い脚。
 廉の呼吸がどんどん荒くなり、必死に抑えた声が漏れる。
「あっ、んっ、……っ、ああっ」
 嬌声を上げながら、蕩けかけた顔で首を振ると、ふふっと神が笑うのが聞こえた。
『気持ちイイか?』
「……っ、イイっ」
 意地悪な問いに素直に応え、廉は彼に身をゆだねる。
 目を開けなくても、他人には見えなくても、自分を穿つ少年神のひどく整った顔が見える。彼が満足そうに目を細め、形の良い唇に笑みを浮かべる様子も、廉にはハッキリ見えていた。

『もっと欲しいか?』
「欲し、いっ」
 さらけ出された望み通り、神の肉が激しく強く廉の体腔を擦り上げる。
「はっ、あ、あああああっ」
 高く上擦った悲鳴と共に、廉が生ぬるい白濁を散らした。
 きゅうっと締る後腔の奥を、更に深く貫く神根。体温のないソレから力に満ちた精が放たれ、熱と共に廉を染める。
「はっ、―――っ!」
 声にならない悲鳴を上げ、廉はたまらず背中を逸らした。ぎゅっと閉じた目の奥が、金の光で塗りつぶされる。
 その光と熱は廉の全身を駆け廻り、若き悪霊祓い師に恩寵を与える。

 これは神事だ。
 快感を伴い、淫猥な手段を経ていても、守護神の力を仰ぐことに変わりない。

 荒くさせられた呼吸をゆっくりと鎮め、力の抜けた手足をのろのろと動かす。
 気だるげにベッドに起き上がった廉の周りには、いつもより輝きを増した琥珀の光が浮かんでいて、廉を護るように美しいらせんを描いていた。
 神の力を身に宿した「琥珀鬼」に、恐れるものは何もない。
『さあ、狩りの時間だ』
 楽しげな守護神に、物言いたげな視線をちらりと向け、廉が全裸でベッドを降りる。
 シャワーを浴びる時間は、残念ながらなさそうだ。
 新しい下着を身に着け、さっきとは別の服を身にまとう。けれど、着替えたところでその格好は特に変わらず、どこにでもいる私服の高校生にしか見えなかった。

 自宅から1歩踏み出すと、既に日は暮れて、街灯が秋の夜道を照らしていた。
 街路灯に混じって、オレンジ色のカボチャランタンも灯っている。
 提灯行列の廃止された街に、提灯の火は灯らない。代わりにオレンジ色のカボチャで作られたランタンが、あちらこちらに飾られて――。
 廉が目を向けると、それらが一斉に夜道にふわりと浮かび上がった。

 10月31日、ハロウィンの夜。
 あの世とこの世との境界線が交わるとも言われるが、それは欧米での言い伝えであって、日本の「その日」には当たらない。
 ランタンをぷかりと浮かばせるのは、迎えるべき先祖の霊ではなく、消し去るのに躊躇すべき相手でもなかった。
「邪魔、だ」
 ぼそりと告げながら、廉は例の石造りの鳥居を目指す。
 廉がゆっくりと歩くたび、その身にまとう琥珀のらせんが雑多な霊を斬り祓い、宙に浮かんでいたカボチャを、ぼたぼたと道路の上に落とした。

(続く)

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