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Season企画小説
草野球 (社会人・2018草野球の日)
あなたは『これで最後にするから、と笑う』三橋廉のことを妄想してみてください。
https://shindanmaker.com/450823 より




 雨上がりの休日、同棲する恋人と散歩に行ったら、河川敷近くの公園で野球やってんのが目に入った。
 練習着は勿論、色違いのビブスすら着てねぇトコを見ると、野球っつーより草野球っつった方が正しいだろう。
 勝敗より楽しさを追求すんのが目的みてーで、和気あいあいと楽しそうだ。ブンッとバッターが空振りしても、味方ベンチから楽しげな笑い声があがってる。
「そういや、今日は草野球の日だっけ」
 いや、明日だったか? まあ、1日2日の違いなんかはどうでもいい。三橋も気にしてねぇみてーだ。
「草野球、かあ。いい、なぁ……」
 ぼそっとそんなことを呟きながら、フェンスに手を掛けてグラウンドを覗いてる。
 手入れもろくにされてねぇらしいグラウンドは、草ぼうぼうで、これこそ草野球って感じだった。
 雑草のせいでボールがイレギュラーに跳ねて、あーあーと思う。けど、それすらみんな楽しいみてーで、野手も「うわ、ちくしょー」とか言いつつ笑ってた。

 こういう野球もいいな、と思う。でも甲子園を目指した元・高校球児のオレらだと、ムキになっちまうかな、とも思う。
 そういや随分野球やってねぇ。
「たまにはバッセンでも行くか?」
 フェンスに齧りついて見てる三橋に、苦笑しつつ声を掛けると、こっちを振り向きもしねーで「いい、ねー」って言われた。
 見てるだけで面白いんだろうか? いや、確かにボールはあっちこっち飛ぶし、ファール判定も曖昧だし、色々無茶苦茶で面白くはあるけどな。
「バッセン、近くにあったかな?」
 苦笑しながらケータイを取り出し、グラウンドから目を放す。
 検索すると川の向こうに1件見つけて、「じゃあ、行くか」と顔を上げた時――。
「一緒にやりませんか?」
 グラウンドの中から、突然声を掛けられた。

「うおっ、いいんです、かっ?」
 オレが何か言うより早く、三橋が嬉しそうな声を上げる。
「どうぞどうぞ、人数足りてないんで」
 まさか、と思ったけど、言われてよく見回してみると、グラウンドの中には確かに18人しかいねぇ。
 審判も合わせて18人。どうやら審判も交代でやってるみてーで、ホント、無茶苦茶だなって笑えた。
 草野球って、どこもこんな感じなんだろうか? それとも、こいつらが特別自由なのか?
「助っ人連れて来たー!」
 オレらを誘ってくれたオッサンが、仲間に大声で申告する。
 試合中だっつーのに、「おおー」と湧く両ベンチ。なんでか審判も「おおー」って言ってて、ちょっと呆れた。

「おお、若い」
「お兄さんら、ルールは分かる?」
 口々に言いながら、オレらをぐるっと取り囲むオッサンの集団。中には中高生らしき若いヤツも混じってて、誰かの息子なんかな、とぼんやり思う。
「オレ、ピッチャー! やってまし、たっ」
 にこやかに自己申告する三橋に、またしても「おおー」と湧くオッサン。
「阿部君は、捕手、です」
 って。そんなことまで言わなくていいっつの。
「経験者かぁ、貴重な戦力だ」
「じゃあ一人ずつ」
 そんなことを勝手にどんどん相談され、誰がどっちのチームかも分かんねーまま、それぞれのベンチに連れられる。

 三橋はいつの間にかグローブを借りてマウンドに立ってて、一瞬目を疑った。
 チームメイトになったらしい、オッサンらに囲まれて、にこにこしながら説明を受けてる。
 じゃあ、こっちのチームは攻撃側か。
「お兄さん、キャッチャーする?」
「いや、何でもいーっスよ。外野でもいーし、内野でもいーし」
 適当に受け答えしながら、マウンド上の三橋を見ると、三橋は懐かしいフォームで振りかぶり、緩いストレートをひゅっと投げた。
 スパーン、とイイ音を響かせて、捕手が三橋の球を受ける。
「うわっ、コントロールよくねぇ!?」
「さすが経験者」
 敵チームのピッチャーにだっつーのに、「すげー、すげー」ってこっちのベンチで無邪気に誉めてて、緩くて曖昧でいいなと思った。

「ナイピッチー」
 相手の捕手が、笑顔で三橋に返球する。
 サインも何も出てなさそうなのに、勝手にシュートを投げる三橋。その球をバッターが空振りして、またパシーンと音がする。
 「おおー」と湧くオッサンらは、バッターを応援してんのか、それとも三橋を応援してんだろうか?
「次行け、次!」
 ネクストサークルすらないベンチから、「よし!」って気合入れながら、オッサンがバットを持って出て行った。
 ヘルメットも色とりどりで、バラバラで、中古の持ち寄りなんだなと分かる。
 苦笑しつつ、再びマウンドの方に目をやると、ちょうど振りかぶって1球目を投げるとこだった。

 投げたのは緩いストレート。バットを構えたオッサンが、ランナーもいねーのになんでかいきなりバントの構えで、初球をコツンと打ち当てる。
「打ったー!」
「おおーっ」
 と湧くベンチ。打てば何でもいいんだろうか? 楽しむのがメインだから、これでいいのか?
 三橋がてててっと走って打球を捕り、1塁に送球。あっさりアウトになっちまって、今度は「ああーっ」と声が上がる。
 オッサンらは楽しそう。三橋も楽しそう。
 イマイチついて行けねーなと思ってると、いきなり肩を叩かれた。
「兄ちゃん、行け!」
「打って来い!」
 促されるまま立ち上がると、誰のかも知れねぇヘルメットと、短いバットを渡された。

 バッターボックスに向かう間、敵も味方も大騒ぎだ。
 ひゅーひゅーと指笛の音も聞こえて、どうやら選手・審判だけじゃなく、野次馬もみんなで兼ねてるらしい。
 無茶苦茶だ。でも自由で楽しそうだ。
「打ち取れー!」
 オレの味方のハズのベンチから、そんな大声が聞こえてくる。もしかして、「打ち崩せ」の間違いか?
 首をかしげるオレをよそに、一方の三橋はボールを持った右手を掲げ、両方のベンチにアピールしてる。
 こんなノリノリの三橋を見たのは久々で、何やってんだ、と苦笑が漏れた。

「これで最後にする、から」
 満面の笑みで、ビシッと白球を突き付けられ、「おお!」とオレも三橋にバットを突き付ける。
 両側のベンチが、またしても湧いて――。
 楽しげな笑みを浮かべた三橋が、懐かしいフォームで振りかぶった。

   (終)

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