[携帯モード] [URL送信]

Season企画小説
8月1、2日の攻防 (2018おっぱいの日、ぱんつの日・社会人・プロ阿部)
 阿部君の試合が終わるのを阿部君のマンションで待ってると、10時を過ぎた頃に阿部君が疲れた様子で帰って来た。
「お疲れー」
 玄関まで出迎えて、スポーツバッグを受け取る。
 試合はTV中継されるので、結果は見て知ってるから聞かない。
 阿部君は1軍とはいえまだまだ控えで、今日の試合にも代打でしか出てなかったから、勝敗に直接関わってたとは言えないけど……やっぱり負け試合の後だと、話題にはちょっと出しにくい。
 阿部君もそうなんだろう。帰った時、ちょっとこわばってた顔が、テーブルの上に並んだ晩ご飯を見て、ようやく緩んだ感じだった。
「あー、疲れた。美味そう」
 阿部君がそう言って、オレをぎゅっと抱き締める。
 高校時代、数センチしか違わなかった身長は、今や十数センチにも差ができた。体重はもっと差が開いて、オレを包み込んでしまえるくらい大きい。
 えいっ、って体当たりしても、難なく受け止められてしまう。

「今日は、パイナップルの日、だから、パインチキン、だよ」
 でっかい背中をぽんぽん叩いてそう言うと、阿部君が「美味そう」って言いながら、オレの首筋をべろっと舐めた。
「ちょっ、もおっ!」
 怒って見せると、ははっと快活に笑われる。
「0801なら、パインよりおっぱいだろ」
 って。笑顔を見るとホッとするけど、シモネタはちょっと恥ずかしい。この後ベッドで、胸ばっかり攻められそうな気がする。
 じわっと赤面しながらご飯をよそい、具だくさんの味噌汁をよそって阿部君の前に「どーぞ」って置くと、阿部君はまた破顔して、「美味そう!」って手を合わせた。

 一般人よりも遅い晩餐。一般人よりもたくさんの食事。タンパク質多めにして、栄養素考えて……。現役アスリートのためのメニューは、結構頭使うけど、任せて貰えるのは嬉しい。
「うわ、肉柔らけぇ」
「パインは、酵素、あるから、ね」
 そんな他愛もないことを喋りつつ、阿部君と一緒に食事する。
 試合のことに触れないのは、オレが密かに決めたルールだ。部外者が口出ししたって何もいいことない、し、オレなんかの考えることくらい、阿部君もきっと考えてるだろう。
 どんどん減ってく大盛りご飯をにこにこと眺めつつ、自分の作った味噌汁をすする。
 夏はやっぱり、酸っぱいものとしょっぱいモノが美味しい。
 缶詰のパインは酸っぱさ控え目だったけど、甘ったるい感じでもなくて、美味しかった。

 食休みがてら洗い物をして、スポーツバッグの中のタオルやTシャツを、洗濯機の中に放り込む。
 そしたら、バッグの底に球団のロゴの入ったビニール袋が1個あって、あれ、と思った。
 封をされたままだから、多分新品なんだろう。
 球団カラーの布っぽい、けど、Tシャツか何か買ったのかな?
「阿部君、これ、どーするの?」
 空っぽのスポーツバッグと共に、阿部君にビニール袋を見せると、「ああ」ってニヤッと笑われた。
「それ、お前にお土産」
「お、オレ、に?」
 今までケーキとかお酒とか、遠征先の特産品とか、お土産に貰う事はあったけど、球団カラーの何かを貰うのは初めてで、ドキッとする。
 Tシャツ、かな? もしかして、阿部君の名前入り?

 阿部君の名前の入ったグッズは確か、まだ出てない。もしかして、新作で出たのかな?
「あ、開けて、いい?」
「おー。着てみてよ」
 着てみて、って。そんな言葉にドキドキしながらビニール袋を開け、中身を取り出す。そしたら、「21、阿部隆也」って名前が見えて――。
 ……でも、TシャツじゃなくてトランクスMサイズで、一瞬意味が分かんなかった。
 えっ、これ、喜ぶべきなのかな?
 プロ選手として、名前と背番号の入ったグッズが出るのは、喜ばしいこと、だよ、ね? でも普通こういうのって、タオルとかTシャツとか、ユニフォームのレプリカとか、じゃないの、かな?
 パッケージに印刷された写真の中の阿部君は、すごくいい笑顔で、なんだか余計に残念だ。

 パンツを広げたまま固まってると、いつの間にか阿部君がオレの真後ろに来てたみたい。
「ほら、着て見せろ、って」
 後ろからぎゅっと抱き締められ、首筋にキスされて、一気に顔が熱くなった。
 大きな手のひらでシャツの上から胸を撫でられ、「ちょっ」って思わず身をよじる。
 プロのアスリートの手は、大きくて分厚い。
 シャツのすそからその厚い手を差し込まれ、お腹や胸を撫で回される。
 整えられた太い指先で乳首を揉まれると、あっという間に腰が砕けた。それをしっかりと片手で支えてくれる阿部君は、力強くて格好いい。けど。
 ロマンチックな場面なのに、「おっぱいの日」とか囁かれて、すごく残念なの、なんでだろう?
「明日はぱんつの日だぞ」
 とか。

 なし崩しにベッドへと連れ込まれながら、「ぱん、つ?」って訊くと、ニヤッと笑い返される。
 0802は、ぱんつの日、らしくて。
 オレの手にはまだ、阿部君の球団ぱんつが握られたまま、で。
「明日の勝利のお守りに、コレ、持ってくから。交換な」
 そんな横暴な宣言と共に、はいてたトランクスが引き下ろされて、オレは思わず「ばかっ」って叫んだ。
 負け試合を引きずってなさそうなのは安心だけど、そういう問題じゃない。
 慰めとか癒しとか、そういう存在になれるなら嬉しいけど、そういう問題でもなかった。
 球団ぱんつをはくのはともかく――脱いだぱんつを持ってかれるのは、断固阻止しなきゃって思った。

   (終)

[*前へ][次へ#]

12/45ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!