Season企画小説
失敗のフェードアウト・5 (終・R18)
ギシギシ鳴るベッド。抑えても抑えても口から漏れる喘ぎ声。阿部君が「はっ」と声を漏らすのが聞こえる。
「すげっ」
何がスゴイのか分かんないけど、誉められてるみたいだと思った。
逃げられないよう抑え込まれ、ガンガンに揺さぶられる。痛いのか気持ちイイのか、自分でもよく分かんない。
注がれた液体が胎内でぐちゅぐちゅになって、そこから胎内が融け崩れそう。
酸欠でぼうっとして、はふはふと金魚みたいに息をする。油断してると奥をぐりっとえぐられて、そのたびに脳裏に星が散った。
組み伏せられ、自由を奪われて責められて、阿部君に囚われる。逃げられなのは怖いのに、それを喜んでるの否定できない。
「三橋、気持ちいい?」
阿部君の問いにも、答えられる余裕ない。
胎内の奥深くに埋められた楔が、唐突に引き抜かれた。
途端に喪失感に襲われて、大穴があいた事実に震える。けど、オレが何も言わない内に、再び同じ肉に穿たれて、思わず「ああっ」と悲鳴を上げた。
再び始まる揺さぶり。
「三橋、カワイーよ、三橋……」
息をはずませながら、阿部君が告げる。
何度もキスされて、首とか耳元とかあちこち舐められて、「可愛い」って言われる。
中を穿たれながら、体中を撫で回されて、その感触も気持ちイイ。
体が作り変えられてるみたい。
体の奥から染め変えられて、ニオイすら変わりそう。
「あ、ふあ、あ……」
口から漏れる声に、どんどん力がなくなってく。なのに、口を閉じることもできなくて、いつまでも啼かされた。
「あ、あ、もう……」
首を振るのも億劫になって、目を開ける力もない。
なのに阿部君はまだまだ元気、で。
「オレというオレを、刻み込まねーと」
そんな言葉を口にしながら肉根を引き抜いて、オレの腰をぐっと掴んだ。
力任せにひっくり返され、腰を高く上げさせられる。
大穴の開いた場所がくぱっと弾け、無防備な形を晒される。
後腔の縁からとろっと流れ落ちたのは、何だろう? ぐしょぐしょに濡らされたそこは、頼りなくひくついてて、彼を待ってるみたいで浅ましい。
「欲しーだろ?」
熱いモノをゆるく押し当てられ、そんなことを言われて、ドキッとした。
もう否定できなくて、奥に欲しくて、恥らいながら「んっ」とうなずく。阿部君が満足げに笑うのを聞いて、カッと頬が熱くなる。
けど直後、凶悪なモノに一気に奥まで貫かれて……恥じらいも忘れて、「ああーっ」と叫び声を上げるしかなかった。
いつの間にか眠ってたらしいって気付いたのは、朝、ケータイの音で起きてからのことだった。
いつも設定してるアラームじゃなくて、着信で、ビクッとして覚醒する。
慌ててケータイを探し、起き上がった瞬間、ズキッと痛みが走って悲鳴が漏れた。
腰が痛い。お尻が痛い。お尻の奥の、体の深い部分が痛い。
「うあ……っ」
思わず悲鳴を上げると、その声がいつもより掠れてるのに気付いて、ギョッとする。
ケホンと軽く咳をした時、目の前ににゅっとケータイが差し出されて、阿部君だって気付いて、ドキッとした。
ぼうっとしてた寝起きの頭に、昨日の記憶が一気によみがえって、カーッと顔が熱くなる。
ギクシャクと彼から目を逸らし、ケータイをタップして画面を見ると、野球部の先輩からの電話で、しかも朝練のとうに始まってる時間になってて、飛び上がるくらい驚いた。
慌てて通話ボタンを押し、ケータイを耳に当てる。
「す、すみま、せん。今起き、て」
ドモりながらそう言った後、ケホンとまた咳が出る。それが聞こえたんだろう。『風邪か?』って先輩が、心配そうな声を上げた。
『ヒデー声だぞ。まあ、週明けまで練習休め』
先輩の優しい言葉に、もっかい「す、みません」って掠れ声で謝る。
ホントは風邪なんかじゃないんだけど、「えっちして叫んだせいです」なんてホントの事も言えないし、仕方ない。
腰も背中も、勿論お尻も、あちこちがズキンズキン痛んで、とても練習なんかできない。
素直に先輩のいうことを聞いて、練習を休むしかないみたい、だった。
しょんぼりしながら電話を切ると、横から素早くケータイが奪われた。あっ、と思って顔を上げると、「誰?」って訊かれて、ドキッとする。
「や、野球部の先、輩」
しどろもどろに答えると、「仲いーの?」って笑顔で迫られて、慌ててぶんぶん首を振る。
「今組んでる捕手?」
「ち、違う。キャプ、テン」
「ふー……ん」
阿部君はしばらく疑わしそうにオレの顔を見てたけど、やがて納得したみたい。「まあいーや」って、カバンから何かを取り出した。
チャリっと音がして、何だろうって目をやると、何か黒い金属みたい。
「な、に?」
怯えながら訊くと、「誕プレ」っていい笑顔でにっこりと答えられる。
「誕……」
誕生日にプレゼント貰えるのは、勿論嬉しい。
けど、いきなり足首を掴まれて、ぐいっと持ち上げられた時はビックリした。
「ふわっ」
悲鳴を上げたオレの足に、冷たい金属が押し付けられ、カチッと小さな音を聞かされる。
何かと思ったら、腕輪みたいなモノみたい。足だから、腕輪じゃなくて足輪、かな?
太さ1cmくらいの真っ黒な金属製。小さなダイヤルが10ケタくらいずらっと付いてて、阿部君がそれをカチカチと回していく。
「ペンチとかじゃ切れねーから」
そう言われて、にやっと満足げに笑われて、鳥肌が立たないハズもない。
「GPS機能つきだぜ、嬉しーだろ?」
と、そう言われても、ちょっとさすがにうなずけなかった。
足首だから部活中にも目立たないし、そんな邪魔にもならないと思うけど、外せないのはちょっと困る。
「ホントは、首輪にしたかったんだぜ。感謝しろよ?」
首輪って言われると、足首の方がまだマシな気がするけど、どうなんだろう? 頭が働かない。よく分かんない。
「あと、コレな」
そんな言葉と共に左手を取られ、薬指にするっと指輪をはめられた。
「まだ銀だけど、予約」
ニヤッと笑われ、キスされて、起きたばっかのベッドに押し倒される。
「指輪は外してもいーけど、失くしてもまた買うだけだし、逃げようと思うなよ?」
「に……」
逃げない、とはとっさに口にできなかった。
もうフェードアウトは使えない。GPSを着けられた今、どこに行っても探されそうな気がして、昨日の恐怖がよみがえる。
「誕生日おめでとう、三橋」
低い声で祝われ、べろっと首筋を舐められて、ビクッと肩が跳ねた。
今更だけど、やっぱり一線を越えた今でも怖いモノは怖いままで――「ありがとう」の5文字も、震えながらでしか口にできなかった。
(終)
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