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Season企画小説
部室に落ちてたゴムの謎 (2018ゴムの日・原作沿い高2・後輩モブ視点)
 昼休みに用事があって部室に行くと、ゴムが1個落ちててギョッとした。
 ゴムといっても輪ゴムとかゴムひもとかじゃない。いわゆる避妊具のアレだ。
 部室は狭くて部員全員分のロッカーもないから、2年の先輩たちだけが使ってる。ここで着替えるのは基本的に2年だけ。ということは、これも……?
 うわーっ、と思って拾い上げると、一緒に来てた2人の同期も、それを覗き込んで「うわーっ」と叫んだ。
「なあなあ、これ、アレ?」
「アレじゃね?」
 ぼそぼそと言い合いながら、3人で回しておっかなびっくり観察する。
 極うす、とか書いてあるのが生々しい。
 ポケットに入れてたみたいに、ビミョーによれてるのも生々しい。

「誰の、これ?」
「先輩らのじゃね?」
「モモカンのだったり?」
「いや監督は部室に来ないだろー」
「じゃあやっぱ、先輩の……?」
 勝手なことをぼそぼそと言いつつ、じわじわと顔が赤くなる。他の2人の顔や耳も赤くて、やっぱ照れるよなと思った。
「オレ、実物見たの初めて」
「オレも」
「箱は見た事あるけど」
 オレの正直な言葉に、2人の仲間が「だよなー」「オレもー」と同意する。
 それくらいオレたちには、コレは遠い存在だった。

 それが部室にぽつんと落ちてる現実に、改めて「うわぁ」と思う。たった1年しか違わないのに、オトナの階段を昇ってる誰かがいるってことだ。
「マネジ……じゃないよな」
「ないと信じたい」
「じゃあ、田島さん?」
「いや、水谷さんとか阿部さんとかじゃねーの?」
「真面目なフリして、案外キャプテンとか」
 誰かの言葉に、ドッと笑う。
 キャプテンの花井さんも、副キャプテンの阿部さんも、どっちもモテそうで有り得そうだ。
「水谷さんとマネジさんはどーなんだ?」
「えっ、何ソレ?」
 そんな噂話すら、興味深くて照れ臭い。誰がコレを使ってるのか想像もできなくて、でもアルミパック越しの感触はリアルで、ドキドキした。

「泉さんとかもモテそうじゃねぇ?」
「沖さんや三橋さんは違うだろー」
「でもエースだぞ」
 誰かの言葉に一瞬考え、やっぱり「ないわー」と首を振る。
 マウンドに立ってる三橋さんは、確かに格好いいトコあるけど、普段の挙動不審ぶりを見てると、モテとは無縁なように見える。
 いや、「可愛い〜」とか言われてちやほやされる可能性はあるかもだけど、そのモテとこのゴムとはちょっと結びつかない。
「三橋さん、これ見ても何か分かんなくて、キョトンとしてそう」
「ああ、有り得そう」
「『お、菓子?』とか言って、無造作に開けそう」
 無邪気な先輩の仕草を想像し、3人一緒に「ぶはっ」と笑う。何より、エースに対して過保護な正捕手の阿部さんが、そういう情報を排除してそうだなと思った。

 部室のドアが、ガチャッと開いたのは、その時だ。
 油断してたから、ドキッとした。
「あれ、ど、どう、したの?」
 たった今噂してた、当の本人に声を掛けられて、それにも飛び上がるくらいビビる。
 キョトンとした顔でオレらを見つめる三橋さんの目は、無邪気で純粋で、ますます気まずい。あまりに気まずくて、手の中のモノをうっかり「これっ」と差し出してしまった。
「これ、落ちてて!」
 両脇にいた同期が「あ」とか「おい」とか言ったけど、ハッと気付いてももう遅い。三橋さんは「こ、れ?」って首をかしげながら、靴を脱いでこっちに近寄って来た。
 10人入ればギチギチの狭い部室、彼との距離は1、2秒で縮まる。
 オレの手の中のゴムを一目みた三橋さんは、球児にあるまじき白い顔をふわっと染めて、「うわっ」と焦ったような声を上げた。

「ごっ、ごめん、オレの、かも」

 差し出したゴムが高速で奪われたことより、彼の言葉の方がショックでリアクションができない。
 オレの? ……今、「オレの」って言った?
 モテとは違うとか、ゴムそのものを知らないだろうとか、さっきあれこれ言ってた予想が、一瞬で覆されて正直戸惑う。
 「ウソでしょ!?」って叫びたい。でもなんか、呼吸の仕方もよく分かんなくなって、ただ生唾を呑み込むしかできなかった。
 同期2人も、どうやらオレと同じらしい。両脇で「うぐ……」と小さなうめき声が聞こえる。
 一方の三橋さんは、オレらの驚愕ぶりをまったく気にしてないようで、赤面しながらゴムのパックをじっと見た。
「あ、これ、違う」
 ぼそっと言われた言葉にも、不甲斐ないことにリアクションできなかった。
「さ、サイズ違う。これ、M、だ」
 って。「ご、めん」って謝りながら返されても困る。
 サイズが違うって何のことか、それすら分かんなくて困る。実物を初めて見たオレらは、ゴムにサイズがあるなんてことも初耳で、どうすればいいかも分かんなかった。

「これ、じゃ、入らない」
 赤い顔で照れ臭そうに言われて、つい彼の股間に目をやってしまったのは仕方のないことだろう。
「お……おっきいんスね、意外と」
 同期の1人がぼそっと漏らした呟きに、思わずドスッとヒジ打ちする。
 けど三橋さんは、後輩のそんな下世話な失言に怒る事なく、照れ臭そうにふひっと笑った。
「う、うん。阿部君、おっきいよ、ね」
「……阿部さん?」
「うん、阿部君」
 オレのささやかなツッコミに、こくりとうなずく三橋さん。

 つまり、Mサイズじゃ入らない程ご立派なのは阿部さんで……でも、Mサイズじゃないらしい、そのゴムは三橋さん曰く「オレの」で……? ってことは、どういうこと?
 意味がよく分からなかった。

   (終)

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