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Season企画小説
ホワイトクリームの狂夜・後編 (SideA)
 バイトが終わった後、更衣室で着替えてるといきなり後ろから襲われた。
「騒ぐな、動くな」
 一瞬ギョッとしたものの、本気で抵抗しなかったのは、その声が田島のだってすぐ分かったからだ。
 なんで田島がここに?
 そんな疑問がまず先に立っちまって、反応が遅れた。後ろ手に縛られ、さるぐつわを噛まされ、アイマスクみてーなので目隠しされる。
「むむむんむ!?」
 何すんだ、って訊いてもくぐもった声しか出なくて流石に焦った。
 しかも田島は1人じゃなくて、「よし」とか「足も」とか3人分の声が聞こえてくる。
 足も!? って思うと同時に両ヒザにタックルかまされ、床にごろっと転がされる。さすがに暴れたけど、両手を縛られ、目隠しされた状態じゃろくな抵抗になんねぇ。
 つーか、抵抗すんなら最初のあのタイミングだった。
 けど、後悔してももう遅くて――。

「よし、箱広げて」
「せーので行くぞ」
「せーの」
 そんな声を縛られたまま聞かされて、なんか無茶苦茶怖かった。
 全身縛られてんのに聴覚だけが無事なのって、案外怖ぇモンなんだな。
「むむ!」
 おい、と呼びかけたつもりでも言葉になんねぇ。「静かにしろ」って首筋をぽんと叩かれて、ひやっと恐怖が駆け抜ける。
 どっか狭い場所に入れられ、光が遮られたのをアイマスク越しに感じた。
 浜田らしき声が「箱」っつってたのは、これか? やがてその箱ごと3人に持ち上げられ、揺らされながら運ばれる。
「出口注意な」
「ぶつけんなよ」
 そんなことを言いながら、オレをどこかに運んでく3人。

 あとの1人は泉だと、そんくらいしか分かんなくて……何に乗せて運ばれてるのか、これからどこに連れてかれるのか、さっぱり分かんなくて困惑した。

 道中、車のエンジン音を聞かされながら、「自業自得だぞ」とか「三橋を泣かせんな」とか、身に覚えのねぇ説教をされた。
「むむむむむむーむ!」
 泣かせてねーよ、ととっさに文句言ったけど、勿論言葉になんなくて、モヤモヤとイライラがどんどん募る。
 しかも上半身裸のままだし、もう3月も半ばだとはいえ、ちょっと寒い。
 オレの荷物はどうなった!?
 財布は? カバンは? 昼に買っといた物は無事か?
「むむ、むむむむ?」
 荷物をどうしたか訊きてーけど、相変わらず言葉になんねぇ。それどころか「うるせーよ」って箱を殴られ、不覚にもビクッと肩が跳ねた。

「お前、どういうつもりなんだよ? クリスマスもバレンタインもバイトバイトで、最近一緒にメシも食ってねーんだって?」
 責めるように泉に言われ、「むむむーむ!」と反論を返す。
 文句言っても言葉になんなくて、伝わんねーのがもどかしい。言葉にできても、聞く耳持ってなさそうなのにも腹が立つ。
 どういうつもりか、って。なんでコイツらに責められなきゃいけねーんだ? 三橋が頼んだのか?
 一瞬イラッとしたけど、それはねーよな、とも同時に思う
 三橋が簡単に愚痴を漏らせるような性格なら、苦労はねーし心配もしねぇ。きっと、三橋の様子がおかしいか何かで、アイツの兄貴分を自称する3人が勝手にお節介を始めてんだろう。
 それにしても、様子がおかしいっつーのは初耳で、胸の奥がひやっとする。
 確かに最近バイト詰め込んでたし、あんま構ってなかったかも? けど、それは欲しいモンがあったからだし、「なんで?」って訊かれてりゃ答えてた。
 こんな風に拉致される程、マズイ対応した覚えもねぇ。

 モヤモヤを抱えたまま黙りこみ、さるぐつわの中でため息を飲み込む。
 やがて目的地についたらしい。気付けば車の振動が止まってて、代わりにまた「せーの」でゆらっと持ち上げられた。
 目も手も使えねーから確かじゃねーけど、ダンボールっぽくて、箱の強度がちょっと気になる。
 重い荷物も運べるヤツなんかな? それとも底が抜けるとか、何も考えてねーんだろうか?
 不安定な揺れと狭さにビクビクしてると、箱越しに三橋の声が聞こえて来た。
 なんだ、家か。
 無茶苦茶ホッとすると同時に、むかむかと怒りも湧き上がる。つーか、家に帰るだけなら、こんな手の込んだ拉致なんかすんなよな。
 デカい箱用意して、よく分かんねー車で運ばれて。状況も分かんねーし、怖かっただろっつの。

 オレのムカムカをスルーする一方、田島らはふざけた口調で「プレゼント」だとか「ナマモノ」だとか好き放題言い放ってる。
 いちいち感心してる三橋にイラッとする。
 箱が空いた瞬間の、リアクションにもイラッとする。
 裸の上半身に何か塗り付けられたのにもイラッとしたけど、「解いてあげて」って三橋から言われてねーのも地味にショックだ。
「むむむむむ」
 さるぐつわのままで騒いでも、「静かに、ねっ」ってたしなめられるし。意味がワカンネー。何なんだ?
 ふひっと嬉しそうに笑う三橋の息遣いに、恐怖を感じてぞくっとする。
「オレ、イチゴっ!」
 弾んだ声と共に、慣れた気配が胸元に寄せられた。

 その後は、べろりべろりと体中のクリームを舐め取られて――こっちの理性まで、ブチ切れる予感がした。

   (終)

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