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Season企画小説
バレンタインDOLL・3 (終)
 廉にチョコを用意する前に、まずはリサーチだと思ってレンに訊いた。
「廉の好きなモンって何だ?」
 そしたら「阿部、くんっ」って即答されて、ちょっと笑えた。
 そりゃお前の好きなモンだろ、って思ったけど、まあ、レンも可愛いし。好きって言われりゃ悪い気はしねぇ。
「デカい方の廉は?」
 そう訊くと、レンは「阿部君?」って、こてんと首をかしげてた。
 疑問形かよ、と思いつつ苦笑する。
 まったく参考にならなかったけど、体全体で斜めになりながら首をかしげるレンが可愛い。
 人差し指で頭をそっと撫でてやると、レンは「きゃあ」って笑い声を上げて、その指にしがみついた。

 結局リサーチの甲斐もなく、廉が何に喜ぶかは謎のままだ。コートのポケットの中には、コンビニで買った無難なチョコが1つ。
 買った時は「これでいーや」って思ったけど、いざ渡すと思うと何だかありきたりで、逆に場違いな気もした。
 特に他意はねーんだって感じで、さっさと渡しちまった方がいーんだろうか?
 そう思って「あのさ」と声をかけようとした時――。
「あの、さ」
 同時に廉にそう言われ、出かかった言葉が引っ込んだ。
「何?」
 気まずさに少々赤面しつつ廉を見ると、廉の顔も赤い。「あ、あの、さ」って更にドモリながら、視線をあちこちに向けてキョドってる。

 慌ててるヤツが目の前にいると、逆に冷静になるもんなんだな。さっきまでの緊張が霧散して、廉の顔をまっすぐ見れる。
「何だよ?」
 苦笑しながら訊くと、廉はパッと席を立ち、パッとどっかから何かを持って戻って来た。
 落ち着きがねーのはレンで慣れてるけど、成長しても一緒なんだなって、ちょっと笑える。
「あ、の、これっ」
 真っ赤になりながら何かの包みを差し出す様子も、レンそっくりで可愛い。自分で包装したのか、ちょっとぐちゃっとなってる包みを受け取って、その場で開ける。
 激しくキョドってる廉に、レンのような天真爛漫さはねぇ。けど、その中身を見た瞬間、オレのせっかくの冷静さが吹き飛んだ。

 出て来たのは、市販の歯磨きDOLLと同じ、中身の見えるプラパッケージ。けど、中に入ってんのは本物の歯磨きDOLLじゃなくて、歯磨きDOLLサイズのチョコだった。
「レン……」
 レンそっくりの、等身大チョコに絶句する。
「えっ、まさかシリコンで型取りしたのか!?」
 ビックリして訊くと、「しり、こん?」ってキョトンと首をかしげられた。
 首のかしげ方がレンそっくりだと思いつつ、「違うのか?」って訊き返す。シリコンって何だ、って訊かれたんで説明すると、「うええっ」って逆に驚かれた。
「そ、そ、そんなことしない、よっ」
 青い顔でぶんぶんと首を振られ、「だよな」とうなずく。自分がちらっと考えたってことは内緒だ。

「じゃあどうやって作ったんだ?」
 訊きながら、チョコDOLLを手の中でくるりくるりと引っくり返す。よく見ると、レンよりもちょっとデカいし、大人びた顔してる。
 まるで、オレが作ったタカみてーだ。
 そう思ってると、廉がまたじわじわと赤面しながら、「応用、で」ってオレの手を掴んだ。
「あ、あまりジロジロ見ないでくだ、さい」
「なんで?」
 素で訊きながら、パッケージの下からチョコDOLLを覗き込む。そしたら廉が「もうっ」って言いながら、火が出んじゃねーかってくらい真っ赤になった。
 DOLLの裸なんか見たってつんつるてんに決まってんのに、うちの母親といい、廉といい、文句言うのは何でだろう?
 ぎゅうっと握られた手首が、結構痛ぇ。
 やっぱレンとは違うなと思いつつ、「ワリー」って謝ると、廉はパッとオレから手を放して、はあーっと熱い息を吐いた。

 一体何の「応用」なのかと思ったら、どうやらDOLL製作の応用だったみてーだ。
 DOLLの原材料になる特殊樹脂の代わりに、チョコで作ったって。天才か? いや、天才なのは知ってたけど、んなことできると思ってなかったから、ビックリした。
「は? チョコでどうやって?」
 真顔で訊くと、「普通、に」って言われて、ますます意味がワカンネー。
「た、魂、は、入ってない、よっ」
 って。当たり前だっつの。もしDOLLと同じく魂が入ってたら、逆に怖ぇ。食えねぇ。ぎゃあぎゃあ言われそう。つーか、いや、チョコだから固まって動けねーんじゃねーのか?
 いやその前に、そもそも魂は定着するんだろうか?
 理系の血を騒がされ、思考の海に沈み込む。けど、次の廉の言葉に、そんな気分じゃなくなった。
「阿部君、に、オレ、食べて貰おうと思って」
 って。好きなヤツにそう言われ、別の意味に聞こえて理性が揺れる。

「お前……っ」
 絶句してると、「阿部君、のも、食べたい」って言われて、更に心臓が跳ね上がった。
 自分で作るって考えると、その特別さがちょっと分かる。
 DOLL作りは、自分の分身を作る行為だ。魂を樹脂のカタマリに注ぎ込み、姿も意識も自分そっくりに作り上げる。
 そうして作られたチョコDOLLは、魂が入ってなくても廉の分身も同様で――。下から覗き込まれて、照れる気分もちょっと分かった。
 胸が熱い。
 好きだと思う。
 この天才、ホントどうしてやろう?
「てめぇ、覚悟しろよ」
 ぼそっと呟いて、コートのポケットに手を入れ、市販のチョコを握り締める。

「分かった、オレのチョコDOLLも作ってやるよ。けどその前に、これを食え」
 コンビニに売られてたままの赤い包装のチョコを手渡し、「好きだ」って耳元で囁くと、廉は「ふえっ」と目を見開いて、そのままピシッと固まった。

 結局、チョコでDOLLを作んのは特殊樹脂使うより難しくて、雪だるまみてーなカタマリを量産したに過ぎなかったけど。
 目が合うたび赤面する廉はすげー可愛かったから、今は取り敢えず満足しておくことにした。

   (終)

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