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Season企画小説
バレンタインDOLL・2
 レンが行き倒れになるまで頑張って作ってくれたトリュフは、オレと弟と両親の4人に分けられ、1個だけ残された。
 弟らはともかく、親父には会社のロゴチョコがあるんだからいらねーだろうと思ったけど、そういう問題じゃねーらしい。
 「おいさんも欲しいよ」って泣き真似する親父はウザかったが、「おとーさん、にも、はいっ」ってチョコを渡しに行くレンは、無邪気でピュアで、すげー可愛かった。
 最後の1個のチョコは、「廉に」ってのがレンの希望だ。
 レンはガキの頃の廉に魂をコピーされたDOLLだが、製作者の廉のことが好きらしい。
 魂のコピーだから同一人物みてーなモンじゃねーかと思うが、そういう感じでもねぇようだ。
 オレも、去年1体だけ歯磨きDOLLの製作に成功したけど、確かにあのDOLLタカも、オレと同じ存在には思えなかった。
 DOLL製作は奥が深ぇ。
 廉から製作のコツを学び、研究所のラボに通うようにはなったけど、知れば知るほど奥深さを感じる。
 樹脂のカタマリに魂を吹き込む、天才技術者廉の理論は、本人が口下手なのも相まって謎が多い。オレもまだまだ、修行と学習が足んなかった。

 バレンタイン当日、さっそく学校が終わってから、廉のいる研究所へと電車で向かった。
 レンはオレのマフラーのヒダの間に潜り込み、ぬくぬくと外の景色を楽しんでる。廉に渡すっつー手作りトリュフは、オレのコートのポケットの中だ。
 一緒にポケットに入ってりゃいーと思うけど、レンにとっては暗くて狭いし、外が見えなくて不満らしい。
 むっふっふーん、と相変わらず調子っぱずれな鼻歌を耳の側で聴きながら、夕暮れの車窓をレンと眺める。2月だし、外はすぐに真っ暗になったけど、それはそれでレンも楽しそうだった。
 すっかり顔パスになったラボに入ると、もう就業時間が近いせいか、のんびりした空気が漂ってた。
 廉と、廉の従姉妹の瑠里に至っては、真ん中のテーブルでお茶を飲んで休憩してる。そのテーブルの上には、レンと同じ歯磨きDOLLのレンレンとタカもいて、オレらを見て喜んでた。
「阿部君、だっ!」
 テーブルの上でぴんぴん跳ねて、全身で喜ぶレンレンが可愛い。
 マフラーの中で、「きゃあ」って歓声を上げてるレンも可愛い。
 テーブルの上で寝そべって、「よー」って声を上げるだけのタカは可愛くねーが、オレの魂が入り込んでると思うと、あんま文句も言えなかった。

「廉、これレンからお前に」
 ポケットからアルミホイルに包んだトリュフを取り出して、ちらっと見せてからレンに手渡す。
 テーブルの上に下ろしてやると、レンはうんしょうんしょと銀の大玉を転がして、廉の元に運んでった。
「チョコ、どーぞ」
 全身で「どーぞ」っつってるレンが可愛い。
 あらかじめ写メを送ってあったからか、廉の方も「これ、かっ」って嬉しそうに受け取ってる。
「えー、廉にだけー?」
 横で瑠里がぼそっと文句を言ってたから、「ほら」って例のロゴ入りチョコを渡したら、すげービミョーな顔された。
 まあ、オレだってビミョーだと思うんだから、その点には異論はねぇ。
 それより廉だ。

 ポケットに片手を突っ込み、イスに座る廉を見下ろす。
「ふふっ、ありが、とー」
 レンを手のひらに乗せ、嬉しそうに礼を言ってる様子は、同い年の男とは思えねぇほど無邪気で可愛い。
 天才なのに……いや、天才だからか?
 さっそくトリュフを食べる廉に、レンとレンレンとタカが群がる。
「チョコの後は歯磨きだぞ」
 って、小生意気な顔で言ってるタカ。レンと同じこと言ってんのに、この可愛げのレベルの低さは何だろう?
 モヤッとするのは、オレの分身だからなのか、それともオレの分身の癖に、廉と一緒に暮らしてんのが羨ましーからか?
「お前からオレにチョコはねーのかよ?」
 ひょいっとタカをつまみ上げ、尋問すると、タカは「ねーよっ」って言いながら両手両足をじたばたさせた。

「あってもお前には食わさねー」
 って。オレの分身DOLLの癖に生意気で、ムカつく。
 テーブルの上にぽいっと放り投げると、ぎゃーぎゃー喚きながら駆けてった。それをレンとレンレンがきゃあきゃあ言いながら追いかけて、あっという間に追いかけっこが始まる。
 幼児タイプのレンたちと同レベルって、自分でもちょっと情けねぇけど、見てる分には微笑ましいと言えなくもねぇ。
「転ぶなよ」
 DOLLたちに声をかけ、空いてるイスにドカッと座る。
「転ぶ訳ねーだろ」
「お前の心配はしてねーよ」
 タカに言い返し、はあ、とため息をつくと、両脇で廉と瑠里がくすくす笑った。

「阿部君が来る、と、賑やかでいー、な」
 ぼそっと呟かれる廉の言葉に、じわっと胸が温まる。
「もうじき授業もなくなるし、もっと早く来てやるよ」
 ぼそっと呟き返し、レンそっくりな柔らかな髪をポンと撫でると、「ん……」と廉がうなずいた。

 パタパタパタ、とDOLLらが走る音が小さく響く。
 きゃっきゃと笑う3人の声。
 「きゃうっ」と誰かが転び、瑠里のティーカップがカチャンと揺れる。
「こら、もう。もっと広いトコでやりなさいっ」
 瑠里がそう言って立ち上がり、DOLLたちをつまみ上げる。図らずも、テーブルにはオレと廉だけが残されて――いきなりのチャンスに、柄にもなく緊張した。

(続く)

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