[携帯モード] [URL送信]

Season企画小説
覚悟と勇気とクリスマス・4
 阿部君へのプレゼントは、色々迷ったけど黒の高級ボールペンにした。芯の交換が可能で、ずっと長く使えるんだって。
 オレの代わりに、阿部君の側にずっと置いて貰えたらいい。憎み合って別れる訳じゃないから、お願いしたら、きっとそうしてくれるハズ。
 ホントはオレがずっと側にいたいけど……それはきっとムリだから、オレの選んだボールペンだけでも、ずっと持ってて欲しかった。
 通販サイトで買おうかとも思ったけど、どうせなら書き心地のいいのを自分で選びたい。だから、いろんなお店を自分で探してみることにした。
 文具専門店、文具の置いてる大型書店。デパートも行ったし、ハンズも行った。
 バイトのない時間に探したから、思ってたより長くかかったけど、「これ」って思うのが見つかってよかった。
 名前入れるサービスもしてくれるっていうから、お願いしたらクリスマスギリギリの受け取りで、ちょっと焦った。悩んでないで、もっと早く考えればよかった。
 こういうとこ、何年経っても相変わらずで、自分でも鈍くさいなぁと思う。
 そういえば、阿部君にもよく呆れられた。もっと早く動け、って。

 ああ、だったら、今から新しい部屋を探そうとしてるのは、オレにとっては進歩なの、かも?
 クリスマスの準備とは逆に、引越しの準備はあれからちっとも進まない。元々、引越ししたいって訳じゃないから、進まなくて当然、だ。
 もし住むとしたら買い物はここで、コンビニはここで……って、そういう生活を想像できない。楽しい未来が浮かばない。
 今より格段に狭くなる部屋は、間取りの図を見ただけで息苦しそうで、なんだかぎゅーっと押し込められるような気がした。
 来年になってからでも、いい、かな。
 阿部君のこわばった顔を思い出すと、言われる前に部屋を探そうって決心が鈍る。
 じーちゃんにも急げって言われてない、し。阿部君にも、言われてない。
 阿部君に「まだ迷ってんのか」って呆れられるのは怖いけど、引越ししたがってるって誤解されるより、まだマシな気もした。


 クリスマスイブ当日、阿部君は朝から出かけてった。バイトかって訊いたら、「まあ、そんなモン」だって。
 オレも、ボールペン受け取りに行こうと思ってたし、それは丁度いいんだ、けど。
「昼から、どっか出掛けよーぜ」
 家を出る前、頭をぽんと撫でながら言われて、笑みを向けられてドキッとした。
 ムリしてるようなっていうか、どこか緊張してるような笑みだ。高校時代みたいな、お日様のような眩しい笑顔は見られない。
 それは不動産サイトのせいなのか、阿部君も終わりを見据えてるからなのか、別の理由なのか、分かんない。
 せっかく久々のデートなのに。
 ケンカしてる訳じゃないけど、なんとなくぎこちなくて、胸の奥がモヤモヤした。

 ボールペンを買ったのは、2駅向こうのデパートだ。
 開店の10時に合わせて家を出て、きらびやかな店内を抜け、目的の売り場に早足で向かう。
 黒い胴体に筆記体で掘られた「Takaya Abe」の金文字は、すごく格好良くて大人っぽい。さっきまでの憂鬱も吹き飛んで、思わず笑みを浮かべると、お店の人もニコッと笑った。
「プレゼントでよろしいでしょうか?」
「お願い、します」
 こくこくとうなずいて、包んで貰うのを待ちながら、見るともなしに周りの商品に目を向ける。
 男性向けでって探すと、やっぱビジネス用品が多い。黒革の手帳とかも売ってて、それにも名前を入れてくれるみたいで、これもいいなぁってちょっと思った。
 社会人になったら、こういうのオレも使うの、かな?
 今度、買いに来ようかな?

 少し前向きな未来のことを考えながら、値段をチェックしつつ中身を見る。
 どういうのがいいのか今の段階ではチンプンカンプンで、ちょっとすぐには決められない。
「お待たせ致しました」
 店員さんに声を掛けられ、「はいっ」と返事して目を上げる。
 そしたら棚の向こう、遠くの売り場に阿部君っぽい人がいて――、一瞬ドクンと心臓が跳ねた。
 一緒にいる女の人は、デパートの店員さんだろうか?

「あべ、くん……?」
 朝から出掛けたの、バイトじゃなかったの、かな? ああ、でも、バイトだとは言ってなかったっけ?
 人違いかも、って思ったけど、見覚えのあるコートは今朝着てたのと同じで、モヤモヤが募る。あっちは何の売り場だろう?
「お客様?」
 店員さんに声を掛けられ、ギクシャクとレジの方を向く。
 ボールペンはキレイなクリスマスカラーでラッピングされてて、その華やかさと反対に、胸がどよんと重くなった。
 その制服は、阿部君の側にいた人のとは違ってて、直視できない。
 ごにょごにょと礼を言って、もっかい棚の向こうに目を向けたけど、もう阿部君っぽい人はいなくなってて探せなかった。

 本物か、本物そっくりの別人だったのかも、確認できない。
 案内板の見方、よく分かんないけど、宝飾コーナーだったっぽい? アクセサリーなんて、オレにも阿部君にも縁がないから、やっぱ見間違いだった、かな?
 時計売り場の見間違い? 単に道を訊いただけ?
 それでも何だかヤダなって思うのは、遠くない未来に起こることを、連想しちゃったせいかも知れない。

 オレと別れた後――阿部君はやがて、女の人と付き合うんだろう。
 オレはまだ、そんなこと考えらんないし、阿部君以上に誰も好きにはなれそうにない、けど。きっと遠くない未来、そういう知らせを聞くことになる。
 目を逸らしていられる期間は、残り後3ヶ月。
 それを直視する覚悟も、やっぱりオレにはまだなくて。彼へのプレゼントを手に持ったまま、きらびやかなフロアに立ち竦んだ。

(続く)

[*前へ][次へ#]

20/27ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!