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Season企画小説
覚悟と勇気とクリスマス・1 (2017クリスマス・大学生・同棲)
『本当にそこを引き払うのか、廉? 就職先に通うのも不便じゃないだろう?』
 電話の向こうのじーちゃんの声に、オレは「うん、でも」と返事した。
「よ、4年だけの約束、だった、し。こ、ここ、1人じゃ広過ぎる、から」
 オレの返事に、じーちゃんが『そうか』と呟く。
 大学4年の12月。4年間だけって約束で借りたマンションから、そろそろ引っ越しを考えなきゃいけない時期に来た。
 借りたっていっても、普通に不動産屋を通して借りてる訳じゃない。都内に幾つかじーちゃんが持ってる、じーちゃん名義のマンションの1つだ。
 一応家賃は払ってるけど、多分破格の値段なんだろう。
 大学に通いやすい、都心近くの2LDK。
 ここを借りたのは、恋人の阿部君と同棲生活を送るためで――その恋人関係も、元々4年間だけの約束だった。

「オレが合格したら、一緒に住まねぇ?」
 阿部君からそう言われたのは、高3の今頃のことだった。オレは推薦で進学先を早くに決め、その大学を阿部君は一般入試で目指してた。
 A方式とかB方式とか、推薦を早々に決められたオレにはさっぱり分かんなかったけど、阿部君とこれからも一緒にいられるだろうってことは分かった。
「い、一緒、に……」
「合格したら、4年だけな」
 牽制するように言われたけど、嬉しかったの覚えてる。
「こうしてお前と一緒にいられんのも、学生の間だけだ。なら、4年間めいっぱい幸せになろーぜ」
「な、なる!」
 無邪気に喜んでた当時のオレは、「4年だけ」っていう言葉の意味を、あんま深刻に受け止めなかった。だって、まだ大学生活は始まってもないし。学生生活が終わる先のことなんて、想像すらできなかった。
 子供だったなぁと思う。
 今だってまだ大人とは呼べないかも知れないけど、この先、恋人関係を続けるのが難しいってことくらいは分かってるつもりだ。

 男同士では結婚できない。
 周りに、奇妙な目で見られる。それどころか、もっとキツイ差別を受けるかも知れない。そしたら、幸せじゃいられないかも。
 それが分かってて、「別れたくない」なんて言えるハズもなかった。

『まあ、ゆっくり考えなさい。それから、次に住む場所の候補も、早めに教えるんだぞ』
 気遣わしげに言うじーちゃんに、「分かっ、た」と答える。
 どうやら次の引越し先も、世話をしてくれるつもりみたいだ。甘えて悪いなって思うけど、本音を言うと素直に有難い。学生2人じゃこんな部屋、借りれなかったと思う。
 阿部君が言うには、両親の駆け落ちのアレとか、オレのイジメに気付かなかったソレとか、じーちゃんなりにずっと気にしてたんじゃないかって。
 ささやかな罪滅ぼしのつもりかもだから、甘えて受け取る方がいいだろう、って。
 それは阿部君の考えであって、じーちゃんのホントの気持ちは分かんない。けど、今もこうして頼っていいぞって言ってくれるのは、安心するし嬉しかった。
 もしかしたら、阿部君とのことも、ただのルームシェアじゃないって気付いてるの、かも。
『自分で勝手に決めてしまうんじゃないぞ』
 心配そうなお説教に、ふひっと頬を緩める。

「あの、阿部君、が、終わりだって言ってる、から。オレだけの意見、じゃ、ないんだ、よ」
 オレの返事に、じーちゃんはちょっと黙って、また『そうか……』って呟いた。

 じーちゃんとの電話を終えた後、近くのスーパーに買い物に出かけることにした。
 コートを羽織ってマフラーを巻き、財布とケータイをポケットに突っ込む。エレベーターを降りて外に出ると、びゅうっと風が吹いて、寒さに震えた。
 マンション前で立ち止まり、慌ててコートのボタンを締める。
 吐く息が白い。もう冬だ。そういえば、来週はクリスマスだっけ。阿部君と一緒に迎えるクリスマスも、もう今年で最後、だな。
 ボタンを留め終えて顔を上げると、歩道の並木道がずらっとライトアップされてて、ちょっと眩しい。
 青と白の明かりの列は、キレイだけどちょっと冷たい色にも思えて、やっぱ冬だなぁと思った。
 振り向いてマンションを見上げると、ライトアップされてるベランダがあるのが、ちらほら見える。あれ見るといいなぁって思うけど、結局思うだけで、やらなかった。
 クリスマスツリーも、そういえば買わないままだった、な。
 ケーキとチキンとピザを用意するだけの、ささやかな2人だけのクリスマス。今年はどうしよう?
 車通りも少なくない住宅街。何人もとすれ違いながら、時々吹く横風に身を竦める。

 阿部君は、今日もバイト、遅いんだろうか?
 晩ご飯、どうしよう?
 クリスマスケーキの予約、しなくちゃ。
 プレゼント、何買おう?
 新しい部屋、は……。
 就職も決まり、卒業までに必要な単位ももうほとんど取得した。後は卒業を待つだけで、考えなきゃいけないことは、もうそんなに多くない。
 なのにどうにも不安なのは、独り立ちする勇気がまだないから、かな?

 とりとめもないことを考えながら歩くうちに、大型スーパーに辿りついた。自動ドアを入った先に大きなツリーがあるのが見えて、ぽつんとそこで立ち止まる。
 晩ご飯、ケーキの予約、プレゼントの物色……阿部、君。
 やらなきゃいけないことがぐるぐると頭をめぐって、何から先にするべきか、よく考えなきゃ分かんなくなった。

(続く)

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