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Season企画小説
リスタート・7
 三橋を埼玉の実家で下ろした後、改めて田島の車で、東京のマンションまで送って貰うことになった。とんだ遠回りだけど、文句言っても仕方ねぇ。
「ちゃんと話せたか?」
 田島の意味深な問いに、「ああ……」と短く返事する。
 どうやら、そんだけで満足したらしい。「そうか」って言われた。
「あそこで何買ったんだよ?」
 ぼそっと訊くと、「さあね」って。きっと最初から、買い物なんかなかったんだろう。オレらを2人だけにすんのが目的だったみてーで、あからさまで、くそっと思う。
 何もかも仕組まれてたかと思うと面白くはねーけど、無理矢理こうして会わせらんなきゃ、多分ずっとあのままだった。それ考えると、感謝くらいはしないでもねぇ。
「これからどうすんの〜?」
「さーな」
 緩い口調で訊く水谷は、相変わらず助手席に座ってる。
 オレも懲りずにヤツの真後ろに座って、固いシートに背中を預けた。

 これからどうすんのか、どうしてぇのか、自分でもよく分かんねぇ。ただ決まってんのは、目を逸らすのをやめるってことと、三橋の帰国まで待つってことだ。
 三橋がロンドン行きを決めるまで、うまくいってると思ってた。時々ケンカもするけど、すぐ仲直りしたし。このままずっと、平穏に付き合っていけるって、当時のオレは疑ってもなかった。
 けど、三橋が悩んでるなんてちっとも気付いてなかったし……もしかしたら知らねぇ間に、他にも我慢させたことがあったんだろうか?
 言ってくれりゃいーのにとは思うけど、何とかひとりで頑張ろうってしちまう、三橋のそういう性格も好きだったんだから、仕方ねぇ。
「取り敢えず3日は、見送りに行く」
 ぼそりと告げると、「いいんじゃねぇ」とか「そりゃそうだよね〜」とか、口々に言われた。
 大体予想はしてたけど、コイツらには何もかも知られてるみてーだ。いつから知ってたか、どこまで知ってんのか、気にはなるけど訊くのが怖い。
 2人とも、オレの味方っつーより、どっちかっつーと三橋の味方なんだろう。
 ただそれでも、気分が楽になったのは確かだった。

 翌日のクリスマスイブもクリスマス当日も、去年や一昨年同様、特に何のイベントもなく終わった。
 旧友からのピンポン攻撃もなくて、ケーキともチキンともシャンパンとも縁のねぇ、年末の3連休を存分に寝て過ごす。
 連休明けは相変わらず忙しくて、29日の仕事納めを目指し、ひたすら無心に働いた。30日は今年最後のゴミ出しの日で、さすがにちょっとだけ掃除もしたけど、そんだけだ。
 いつでも帰れると思うと、年末年始だからって、いちいち帰省もしなくなる。年越しそばはインスタントを買って、面倒だから餅はスルー。お節も勿論スルーして、31日を迎えた。
 来年の大みそかも、こんな感じなんだろうか?
 三橋がロンドンに行ってから3年。アイツは後どんくらい向こうにいるんだろう? いつ帰国できんだろう?
 自信なくて怖くて、「待ってて」って言えなかったっつー三橋は、結局オレにどうして欲しーんだ?

 ツリーの下で握った、三橋の右手を思い出す。投球ダコがなくなった分、大きく骨っぽいオトナの男の手になってた。あの手を握んのは、やっぱオレだけであって欲しい。
 ため息をつき、ゆっくりと腰を上げる。
 ひとりで考えてたって仕方ねぇ。顔を洗ってヒゲを剃り、財布とケータイをポケットに、大みそかの街へと1歩出る。
 まずは、オレ自身の気持ちを形にすんのが先だと思った。


 10日ぶりの羽田空港は、相変わらず人でいっぱいだった。
 駐車場も満車だっつって、オレと三橋の2人だけ、ターミナルビルからちょっと離れた、一般車降り場で降ろされた。
「三橋ィ、元気でな〜」 
「風邪ひくなよ」
 水谷や田島の別れの挨拶を聞きながら、車の後ろのトランクからキャリーバッグを出してやる。
 ホントに満車だったのかは知らねぇ。気ィ遣われただけの可能性もある。別れ際、田島に手招きされて、「後悔すんなよ」とだけは言われた。
「分かってんよ」
 ぼそりと告げて、コートのポケットに手を入れる。
 3年間、ずっと考えてた。忘れらんなかった。思い切れなかった。腹立てて、「もう知るか」とも思ったけど、結局ずっと囚われてた。
 オレの結論は、もう出てる。

 時刻は9時少し前。フライトは11時半で、2時間半もありゃ余裕かと思ったけど、案外そうでもねーらしい。国内線と国際線じゃ、やっぱ感覚が違うんだな。
「あれ、ちょっと早ぇか?」
 時計を見ながらぼやいたオレに、三橋は「こんなもん、だよ」って小さく笑った。確かに、チェックインカウンターもすげぇ行列で、荷物預け終わるのに30分だ。
 この分じゃ、出国手続きにも時間かかるんだろう。そう考えると、迷ってる暇はなさそうだ。
「ちょっとだけ外出ねぇ?」
 三橋を誘い、エスカレーターで5階に上がる。
 三橋は黙ってついて来たけど、これから何か話するんだろうってのは、なんとなく察してるみてーだ。白い顔がこわばってて、緊張してんのが伝わった。

(続く)

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