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Season企画小説
リスタート・4
 空港でぐずぐずしてる間に、もう日暮れになってたみてーだ。窓の外は暗くなってて、広い空がオレンジから紫に染まりつつあった。
 薄暗い車内より、窓の外の方が明るく見える。
 せっかくの3連休、1日を無駄にしたような気分だ。早く帰りてぇ。早くこっから抜け出してぇ。
 けど、じりじりしてんのはオレだけらしい。田島は急ぐ様子もなく、余裕の顔でハンドルを操ってる。水谷に至っては、のんびり口調で喋ってて、その能天気さにムカついた。
「いつまで日本にいんの〜?」
 助手席からぐいっと身を乗り出して、水谷が三橋に話しかける。
 どうでもいーけど危ねーだろ。つーか話してぇなら、てめーが後ろに座れっつの。ウゼェ。
「み、3日、まで」
 ぼそぼそと応える三橋もウゼェ。聞きたくねぇのに2人の会話を拾っちまう、自分の耳もウザかった。

「一緒にいた人って誰ぇ?」
 何気ない口調で訊く水谷に、ドキッとした。
 聞きたくねぇ。つーか、オレのいねーとこで話せよな。デリカシーのなさに腹を立てつつ、耳を塞ぎたくなんのを我慢する。
 無意識に息を詰め、ショックに備えたオレの耳に、三橋のとつとつとした説明が届いた。
「ジェ……Ms.Jessica Watson、ら、来年から三星で、英語の特別講師をする、人、だよ」
「へぇ〜」
 興味深々な水谷の相槌。
「仲イイの?」
「なっ、わっ、悪くはない、と思う。き、らわれてはない、かな?」
 三橋の応えに水谷はまた「へぇ〜」と緩い相槌を打って、それからいきなりこっちを向いた。
「だってさ、阿部」
 って。意味ワカンネー。

 思いっきり無視してやったけど、水谷はちっとも気にしてねーようだ。
「三橋を嫌うヤツなんていないよ〜。ねぇ、阿部」
 懲りずにまたオレに話を向け、返事も聞かねーまま、また三橋と喋り出す。
 「向こうで恋人できた?」から始まる、水谷のムカつく質問攻勢は、それからしばらく延々続いた。
 聞きたくもねーのに、どうしても耳が会話を拾っちまう。ガキみてーに「うるせぇ」って喚く気にもなんなくて、不本意ながら2人の会話を、オレも延々聞かされた。
 そっから分かったのは、さっきの金髪美女がホントに仕事関係の知り合いだってことと、勉強と生活とで精一杯で、恋愛どころじゃなかったってことだ。
「へぇ〜、じゃあ今、恋人いないんだ?」
 妙に嬉しそうな水谷の声が、すげー気に障る。
「オレもいないんだよね〜」
「オレもオレも」
 水谷と田島の、どうでもいい申告。「そ……」って言葉を詰まらせてる三橋は、さすがにリアクションに困ってるみてーだ。

「阿部もだろ?」
 唐突に話を向けられ、「ふん」と鼻を鳴らして応える。
 「よかったね〜」なんて、意味の分かんねぇことを口走る水谷を睨み、それからもっかい窓の外に目を向けて――見覚えのねぇ景色に、どこ走ってんのか分かんなくてギョッとした。
 ここ、どこだ!?
 水谷のバカ話に気を取られて、景色を見てたようで見てなかった。
 目印になるような看板も表示も何も見えなくて、マジで現在地が分かんねぇ。
「おい、田島」
 顔をこわばらせて呼びかけると、「なにー?」と間の抜けたような声で訊かれる。
 どうやら迷子になってる訳じゃねーみてーだけど、どう考えてもオレんちに向かってるようには見えねぇ。
 三橋をどこに送ろうと知ったことじゃねーけど、オレが今住んでんのは都内だ。ハッとして時計を見ると、もう6時少し前で、1時間も走ってたのかって愕然とした。

「おい、オレんち都内なんだけど」
 低い声で文句を言うと、「いいじゃん、いいじゃん」って。よくねぇっつの。けど、さすがにオレだって、運転中に騒ぐのが危ねぇって、そんくらいは分かってる。
「ちょっと買い物あるんだよ。寄り道してくけどいーよな」
「いい訳ねーだろ!」
 デカい声出してもケラケラと笑われるだけで、どうやら拒否権はねぇらしい。
 悪びれもしねぇ田島の様子に、わざとか、と悟ってももう遅い。さすがに高速走ってる状態で、「降ろせ」なんて暴れらんなかった。
 ちっ、と舌打ちを1つして、ドスンとシートにふんぞり返る。
 目の前のシートの背中を蹴りつけたけど、水谷の情けねぇ悲鳴を聞いても、苛立ちは大して紛れなかった。

 やがてオレらを乗せた車は、見覚えのあるだだっ広い駐車場に到着した。
 埼玉の郊外にある、アウトレットモールだ。小規模ながらクリスマス仕様になってるみてーで、青ベースのイルミネーションが光ってる。
 ここに来んのは何年ぶりだろう?
 あれから何年経ったんだっけ?
 昔と何も変わってねぇような気がして、ぎゅうっと胸が引き絞られた。
「三橋はここ、来たことあるんだっけ〜?」
 緩く尋ねる水谷の声に、「う、うん……」って三橋の歯切れ悪い返事が続く。
「こ、高3の時に1度、だけ。車じゃなく、て、電車とバスだった、けど……」
「ええーっ、電車とバスでって、遠くない?」

 水谷の言葉を聞きながら、三橋の方をちらっと見る。
 電車とバスで来るには、確かに遠い。けどそれはあの当時、何の障害にも感じなかった。むしろ、誰とも会わなそうな、中途半端な不便さがよかった。
 高3の時のクリスマス、ここにオレは三橋を誘って――。
『好きだ』
 ささやかなイルミネーションを眺めながら、そんな愚直な告白をした。

(続く)

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