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Season企画小説
リスタート・2
 田島の運転する車に乗せられて、どこ行くのかと思ったら、着いた先は羽田だった。
「こんなとこに何しに行くんだよ?」
 不機嫌な口調でちくっと言いつつ、三橋がらみだろうっつーのは言われなくても分かってた。
 ロンドン直行便に乗るなら、成田より羽田の方が便利らしい。そんなことは、3年前にとうに調べてたことだ。結局オレは、見送りに行かなかったけど――。
「お前も三橋に会いてーだろ?」
 見透かしたような田島の問いに、答えねぇまま後部座席のシートにもたれる。
 会いてぇのか会いたくねーのか、自分じゃもうよく分かんねぇ。
 会った方がいーのか、会わねー方がいーのか、それもやっぱ、自分じゃ判断できなかった。今更会ったって仕方ねぇとも思うし、ちゃんと話さねーと終わんねぇとも思う。
 駐車場までが複雑らしくて、空港が見えてからも延々周りを走らされてる。それにも余計、苛立った。

「……まだ着かねーの? 腹減った」
 窓の外を睨みながらぼそっと告げると、「相変わらずだねぇ」って、水谷に言われた。
「うるせーな、さっきまで寝てたつの。昨日の晩から食ってねーんだよ」
「もう3時だよ〜?」
 呆れたようなツッコミに、ふんと鼻を鳴らして応える。時間の感覚がイマイチなくて、そんな時間かと驚いた。
「電車の方が速かったんじゃねーの?」
 そんな嫌味に応えたのは、ハンドルを握る田島だ。
「電車だと阿部、逃げるだろ?」
 って。見透かしたような断言に、また一瞬ドキッとする。逃げる訳ねーだろ、と、鼻で笑うことはできそうになかった。

 国際線ターミナルは、連休だからか年末だからか、思ったよりも混雑してた。デカいトランクを引きずった旅行者たちが、足早にフロアを歩いてく。
 高い天井、真っ白な床、時折聞こえるアナウンス……どれもオレには馴染みがなくて、アウェーだって気がして居心地悪ぃ。
 2階の到着ロビーもまた人がいっぱいで、待合のイスも空いてねぇ。
「まだちょっと時間あんなぁ」
 田島がぼやきながら、到着便を知らせるモニターの前に立つ。オレはそれに目を向けることもできねーで、代わりにフロアマップを凝視した。
 落ち着かなくてイライラすんのは、空腹だからかも知んねぇ。
「時間あんだろ? 何か食って来る」
 言い捨てて、4階に行くべくエスカレーターに向かって歩き出すと、「待てよ」って声を掛けられた。
 後ろから肩を掴まれて、ムカッとしながら振り返る。
「何だよ? 逃げねーよ」
「誰もそんなこと言ってないだろ? オレも行くよ」
 宥めるように言う水谷にムカチンときたけど、こんな場所で怒鳴りつける程ガキじゃねーし。別にケンカしてぇ訳でもなかったから、「好きにしろ」って背を向けた。

 フロアマップじゃよく分かんなかったけど、メシ屋の並んでる4階はちょっとしたテーマパークみてーな感じになってて、どこもすげー人だった。
「どこ行く? プラネタリウムのカフェもあるよ〜」
 水谷に楽しそうに教えられたけど、意味ワカンネー。
「なんでてめーと星なんか見なきゃいけねーんだよ」
「ひどっ」
 間髪入れずにツッコミ入れられて、相変わらずの調子にふっと笑えた。
「じゃあ誰とならいいんだよ〜?」
 拗ねたような文句を聞き、薄茶色の髪が脳裏に一瞬ひらめいた。その残像を、首を振って追い払い、答えねぇまま歩き出す。
「牛丼かラーメンでいーや」
「ええーっ」

 水谷は「もったいない」とか「ムードがない」とか文句言ってたけど、男同士でメシ食うのに、ムードも何もねぇっつの。
 そもそも三橋とだって、6年半付き合ってた中で、ムードがどうとか意識したことはなかった。
「三橋と合流したら、ツリー見に行かない?」
 第1ターミナルがどうとか、展望デッキがどうとか。水谷の説明を聞き流しながら、ラーメン屋の行列に並ぶ。
 高3の時、ツリーを見上げて笑ってた姿を思い出す。
 付き合いだしてからは特に、クリスマスに出掛けた記憶なんてほとんどねぇ。三橋だって、ツリーやイルミネーションより、ケーキにチキンの方が多分好きで――。
 恋人同士のクリスマスっつったら、やりてぇことは1つしかなかった。


 ラーメンを食い終わった頃は、そのまま2階の到着ロビーに降りた。
 水谷には「ぶらつこうよ〜」って言われたけど、人が多くて落ち着かねぇ。ひとりでぶらつくならともかく、なんでコイツと仲良く散策しなきゃいけねーのか、意味が分かんなかった。
「だったら展望デッキ行く?」
 そんな誘いも、意味がワカンネー。12月の末に、屋外のデッキで飛行機見て喜ぶのはガキだけだ。
「あー、オレもお前と2人きりはちょっとな〜」
 田島が茶化すように笑い、水谷が「ええーっ」って文句を言う。
「ひどっ、いいよ、三橋誘うから」
 拗ねたような水谷の言葉、「三橋」って名前にドキッとした。けど、そんな動揺を無理矢理胸の奥に抑え込み、気にしてねぇって顔を貫き通す。

 アイツの名前に動揺すんのは、もういい加減終わりにしてぇ。
 終わりにしてぇと思いつつ、キッパリ区切りがつけらんねぇのは、きちんと終わってねーからだろうか?
『待たなくて、いい』
 3年前に突き付けられた言葉が頭をよぎり、そん時の気持ちも思い出した。
「待ってねーよ」
 ぼそりと呟いて、混雑したフロアを見回す。
「あ、もう来るんじゃねぇ」
 田島の声に、つられるようにゲートの方に目をやると、入国審査を終えたヤツらがぞろぞろと並んで歩いて来た。

 入国手続きとか税関とか、三橋は手続きトロそうだよな。
 デカい目を見開いて、髪の毛逆立てて、キョドってあちこち見回してる姿をふと思い浮かべた時――。
「来た! 三橋!」
 田島が隣で大声あげたんで、ドキッとした。
 反射的に目を向けて、また別の意味で心臓が跳ね上がる。

 三橋の隣には金髪美女が並んでて。
 親しげに会話しながら歩いてる姿を、それ以上見てらんなかった。

(続く)

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