[携帯モード] [URL送信]

Season企画小説
鍋の誘い・前編 (大学生・阿←←三・アベモブ注意)
※デートしかしてない設定ですが、阿部モブ前提になりますので、苦手な方はご注意ください。







「阿部君、今日、うちで鍋、しない?」
 三橋にそう誘われたのは、11月に入って間もなくのことだった。
「鍋? なんで?」
 いきなりの誘いに理由を訊くと、「もう立冬だ、から」って。意味ワカンネー。土用にウナギってのと同じで、立冬には鍋食おうってのがあるらしいって、初めて知った。
「鳥肉と、白菜、とねっ」
 今にもよだれ垂らしそうな緩んだ顔で、鍋について語り出す三橋は、相変わらず食い意地張ってて微笑ましい。
 カレー作り過ぎたとか、カニを大量に貰ったとか。三橋は前から、なんだかんだ理由つけて、オレをメシに誘ってくれた。
 知り合ったばっかの高1の時に比べると、それは随分な進歩で、いいことだと思う。
 同じ大学の野球部でバッテリーを組む相手として、今のこの気安い関係は、オレとしても歓迎だった。
 けど――。

「ワリーな、先約がある」
 オレは三橋の誘いを断りながら、丁度いいなと口を開いた。
「最近、カノジョできたんだ」
 先約の内訳を、正直に告げる。初デートだ、って。
 わざわざ自慢することでもなかったけど、黙ってて何か、不都合があるかも知んねーし。伝えんなら早ぇ方がいいだろうと思ってた。

 三橋は、何を言われたか一瞬分かんなかったみてーで、「ふえ?」と間が抜けた声を上げた。
「カ、ノジョ?」
「おー。同じ学科の子でさ、実習の時によく組むことがあって……」
 照れ隠し半分、カノジョについて説明すると、三橋の顔からみるみる笑みが消えていく。
 まるでショック受けたみてーな反応されると、さすがにちょっと気まずいけど、事実なんだから仕方ねぇ。
 ……そういやコイツ、初恋もまだだとか言ってたっけ? オレに先にカノジョできたのが、そんなにショックかよ?
 けど、オレだって多分、三橋に先越されたらショックだったと思うし、この反応は怒れねぇ。
「まあ、お前も頑張れよ」
 ニカッと笑って、しょげたような肩を叩き、一応励ましとくことにした。

「ってことで、ごめんな。誰か他のヤツ誘えよ」
 オレの言葉に、三橋はぎくしゃくとうつむいて、こくりと力なく頭を下げた。
「な……、なんか、寂しい、な」
 ぽつりと漏らされた言葉が、あまりに意外でドキッとする。
 こわばった顔に、あからさまな作り笑いでにへっと笑われて、そんな様子にもドキッとした。
 言葉を詰まらせた一瞬の間に、三橋が「じゃあ」ってぼそっと残して、ダッとどっかに去って行く。
「あ……っ」
 待てよ、と追いかけようとしたけど、追いかけてどうすんのか自分でも分かんなくて、小さくなる三橋の背中を、呆然と見送るしかできなかった。

 それ以来、三橋からのメシの誘いはぱったり途絶えた。
 ついでに言うと、メールもLINEも何もかも途絶えた。オレがそれに気付いたときは、もう11月も末になっててビックリした。
 部活に行きゃ顔を合わすし、もう練習そのものも基礎練重視になってたから、気付くのが遅れた。
 オレ自身、初めての恋愛に浮かれてたってのもあるだろう。
 部活のねぇ日にはデートして、小洒落た店で外食して帰る。まだ互いに未成年だし、酒飲んでハメ外して……みてーなことにはなんねーし、健全そのものだけど、それなりに楽しかった。
 告白されるまで、まったく意識してなかった相手だけど、実習の手際の良さは知ってたし、面と向かって「好き」って言われると悪い気はしねぇ。
 野球もやって、勉強もして、カノジョもできて――そんだけで満足できると思ってた。

 三橋の不在に気付いたのは、カノジョにメシに誘われたからだ。
「今日、うちにご飯、食べに来ない?」
 付き合って1ヶ月になるカノジョの、独り暮らしの家にメシに誘われる。それが意味するコトに、正直に言うとドキッとした。
 けどその直後、三橋の顔がバッと浮かんで、甘い予感が吹き飛んだ。
『寂しい、な……』
 ぽつりと呟かれた言葉、そん時見た作り笑いを思い出して、胸の奥がちくっと痛む。
 そういや、三橋と随分喋ってねぇ。
 ふと思ってケータイの履歴チェックして、連絡が途絶えてんのにようやく気付いた。

「ねぇ、来るの、来ないの?」
 カノジョに甘い声で誘われ、「ああ……」と気のねぇ返事をする。
「何食べたい?」
 そんな問いに「鍋……」って答えたのは、三橋のことを考えてたからだ。
『鳥肉と、白菜と、ねっ』
 締りのねぇ顔で、食材を語る三橋。緩んだ笑顔が一瞬で凍って、頭ん中で下手くそな作り笑いに変わる。
 ぼうっと回想してたオレを現実に戻したのは、「ええーっ」っつー甲高い声だ。
「鍋、持ってないよー。カセットコンロとかもないし。大体、鍋って何食べるの?」
「そりゃ……色々あるだろ。白菜鍋とか、キムチ鍋とか……」

 呆然とカノジョの顔を見つめながら、思いつくまま口にする。三橋ならきっと、何でも「美味そう」って言うだろう。
「えっ、キムチ鍋とか絶対やだ。お部屋に臭いついちゃうじゃーん」
 顔をしかめてそんなことも言わねーだろう。
 比べるモンじゃねーし、カノジョの言うことも一理あるけど、三橋ならって考え始めると止まらねぇ。
「息、臭くなるし。ねぇ……ハンバーグとかじゃダメなの?」
 甘い声での誘導。組んだ腕に、ぎゅっと押し付けられる柔らかい感触。
 実習でいつも手際のいいカノジョは、きっと手際よく美味いハンバーグを作るんだろう。
 大ざっぱに野菜を切ったりもしねーし、包丁の使い方にハラハラすることもねーんだろう。
 けど、そうじゃなくて――。

「ごめん。……今日はちょっと」
 カノジョの誘いを断りながら、三橋のことを考える。
 途絶えた連絡、メシの誘い。今、アイツは誰とどこで何してるんだろう?
 オレの代わりに、誰を鍋に誘ったんだろう?
 今まで気にもしなかったくせに、今更焦ったって遅いかも知んねぇ。けど、今確かめねーと、一生後悔するかも知んねぇ。
 腕に絡まる柔らかさを振り払い、ふらふらと三橋を探しに歩き出す。
 昼休み、大学周辺にメシ食う場所はいっぱいあって、どこに行きゃ顔見れんのか見当もつかねぇ。
――今、どこ?――
 1ヶ月ぶりに短いメールを送ったけど、10分待っても20分待っても、三橋からの返信はなかった。

(続く)

[次へ#]

1/18ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!