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Season企画小説
神主さんに愛される秘訣・前編 (2017七夕・社会人・司書×神主)
※この話は、愛されたい神主さん笑わなかった図書館司書さん の続編になります。






 近くの神社で催される、毎年恒例の七夕祭り。1ヶ月前から職場の掲示板に貼ってあった、そのポスターを認識したのは、その祭りの前日だった。
「明日、お祭りなので、よかったら」
 そう言って、その神社の神主から、青い短冊を貰ったからだ。
 地方公務員の司書として勤める、市立図書館。その貸し出しカウンターに、いつものように「お願い、します」つって本と貸出カードを出した青年、三橋廉。
 今日は普段着で来てるけど、この間は狩衣に烏帽子っつー神主スタイルで来館したから、ビックリした。
 意識し始めたのは、そっからだ。
 貸出履歴をちら見すると、マンガを読んでんのが多そうだけど、たまにちょっと小難しい評論文とか、エッセイとか、民話なんかも借りていく。
 最近ハマってんのは探し物絵本みてーで、そういうとこ神主っぽくなくて、可愛いなと思った。
 1人でじーっと絵本眺めて、絵の中に隠れてるモン探してる姿を想像すると、すげー和む。隣に座って、一緒に探してやりたくなる。

 差し出された短冊を「どーも」つって受け取りながら、貸出カードと探し物絵本のバーコードをピッと読み込む。
「返却は2週間後です。七夕には、図書館でも読み聞かせの会やるんスよ」
 私語は厳禁だが、こんくらいは案内の範囲だろう。
 こそりと告げると、三橋は「ふええ」とデカい目を剥いて、ふわっと笑みを浮かべた。
「よっ、読み聞かせ。お兄さん、も、するんです、か?」
「阿部です」
 すかさずアピールしながら、「まさか」とキッパリ否定する。オレが読み聞かせ、って。あり得ねぇ。子供が泣くっつの。
 ふふっと笑うと、目の前で三橋がビクッと硬直した。
 やっぱ、オレの笑顔って怖いんかな? その割に、人懐っこく話しかけてきたりするから、怖がられてはねぇと思うけど、複雑だ。

「読み聞かせは、女性司書がしますよ」
 隣のブースの先輩に、ちらりと視線を向ける。にこりともしねーで、淡々と返却作業をしてる彼女は、読み聞かせの時だけは愛想がいい。
 三橋は「へ、え」と先輩をちらりと見て、それからオレに視線を戻した。
「お、オレなら、お兄さんに読んで貰う方、が、嬉しい、けどな」
 照れ臭そうに言われると、こっちまで照れる。
「阿部です」
 もっかいアピールしたけど、三橋が言い直してくれることはなく、そのまま借りた絵本を持って、すすっとカウンターから去ってった。
 名残惜しいけど、1人にだけ構ってる訳にはいかねぇ。
「返却お願いしまーす」
 次の利用客に数冊の本を差し出され、「はい」と静かに返事して、バーコードに淡々と通す。
 短冊は、忘れねぇうちにしまっとこうと思った。

 七夕だろうと土日だろうと、図書館はいつも通りの時間に開く。
 小学生以下を対象にした読み聞かせの会の会場は、図書館2階の談話室。1階のメインフロアでは、いつも通りの作業がオレを待っている。
 近所で祭りがあろうと業務内容は同じだし、閉館時間も同じだ。
 ただ、来館客に浴衣姿の男女がちらほらいて、ああ、祭りなんだなぁと思った。
 夏祭り程は盛大じゃねぇハズだけど、そこそこ賑わってはいるんだろうか?
 昨日「よかったら」つって渡された短冊は、何も書かねぇままポケットの中だ。
 大勢の参拝客が来る中、オレが行こうがどうしようが三橋には気付かれねぇと思うけど……もし待ってくれてたら、と思うと、ちょっと気が逸る。
 閉館時間はいつも通りの午後7時。
 祭りは、何時までやってんだろう? ポスターに書いてたかな? そう思いつつ、まさかふらっとカウンターを出て見に行く訳にもいかねーし、うずうずした。

「阿部君、2階の準備手伝って」
 先輩に言われ、素直に「はい」つって立ち上がる。
 こんな風に「手伝って」って言われる場合は、十中八九力仕事だ。案の定、「これ、運んでね」って絵本の山を持たされた。
 『ほしのまつり』、『天の川伝説』、『レンレンのねがいごと』……。今回は、どれも七夕や星に関する絵本だ。
 七夕やハロウィン、クリスマス。年に数回のイベントのたび、膨大な数の絵本から読み聞かせ用にセレクトすんのも、オレたち司書の役割だった。
 オレにはまず、読み手なんて係は回って来ねぇと思うけど、少なくとも先輩は楽しそうだ。
 読み聞かせ会場に絵本を運び、窓を開けて換気する。
 談話室の机やいすを隅に運ぶのも、一応は手分けするけど、力仕事はほとんどオレの担当だ。あと、高いトコの作業もな。
 先輩はその間、ホワイトボードに飾りつけを始めてて、2人で黙々と作業する。

 今日の読み聞かせには、何人の子供たちが来るんだろう?
 三橋の務める神社には、何人の参拝客が来るんだろう?
 子供向けの読み聞かせを「いいなぁ」と羨んだ、近所の神社の神主さん。いや、神主じゃなくて、「神職」っつーんだっけ? こだわりのポイントがよくワカンネー。巡査のことを「お巡りさん」って呼ぶのと一緒か?
 今頃は、また烏帽子に淡い色の狩衣姿で、榊を手にして働いてんだろうか?
 窓の外を眺めても、そこから三橋の神社は見えねぇ。祭りの様子も分かんなくて、ただ、雨が降らなくてよかったなと思った。

「阿部君、戻っていいよ」
 先輩に声を掛けられて、窓の外から視線を戻す。
「なぁに、窓の外眺めて、ぼうっとして。七夕前夜の彦星みたい」
「なんスか、それ」
 先輩の軽口を軽く流すと、追い払うように右手を振られた。
「働かざる者、恋するべからずってコト。ほら、行った行った」
 そう言われれば、さっさと1階に戻るしかねぇ。恋に溺れ、仕事をほったらかした彦星みたいだと、言われたくはなかった。
 オレが彦星なら、織姫は――?
 つーか、それ以前に。これは恋なのか?

 カウンターに戻る直前、掲示板をちらりと見て、祭りの時間を確認する。
 祭りが終わるのは午後8時で、図書館の閉館は午後7時。
 間に合うかも知んねぇと思った途端、会いてぇって気持ちがぶわっと胸の中で膨らんだ。

(続く)

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