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Season企画小説
恋人としたい事・16 (完結)
 いつの間にか寝てたみたい。目が覚めると、夜だった。
 裸じゃなかったのにはホッとしたけど、見覚えのない大きなシャツを着せられてて、彼シャツかなって思うとドキッとした。
「起きたか。よく寝てたな」
 阿部さんがベッドの方まで来て、オレの顔を覗き込み、ふふっと笑った。大きな手でいつものように頭を撫でられて、じわっと顔が熱くなる。
 オレ、この手で――。
 思い出すと、嬉しくて恥ずかしくてぞくぞくした。
「ノド乾いてねーか? 飲んどけ」
 気遣う言葉と共に、冷えたスポドリを渡されて、ノドがカラカラなのに気付く。
「あり、がとう」
 礼を言いながら起き上ろうとして、「ううっ」とうめいた。寝てた時は気にならなかった痛みが、全身に走って息が詰まる。特に下半身に違和感があって、お尻がじわじわと熱い。

「痛むか? ごめんな、手加減したつもりだったけど」
「い、え」
 ふるふると首を振ったけど、息が詰まっちゃうのは誤魔化しようがない。
 手加減、してくれてたんだ? そんな余裕があったのはスゴいなぁって思うけど、手加減なしだとどうなったんだろうって、考えるとちょっと怖い。
「い、痛くない、よ。ちょ、ちょっと違和感ある、けど、辛くない。むしろ……」
 言いながら、どんどん顔が熱くなる。
「むしろ?」
 優しい声で促され、「しあ、わせっ」って言いながら照れ隠しに抱き付くと、阿部さんは快活に笑いながらオレをぎゅっと抱き返してくれた。

 随分寝てた気がするけど、もう夜中の12時過ぎだって言われると、さすがに慌てた。
「う、うそっ、オレっ」
 ガバッと布団を跳ねのけようとして、腰の違和感にうずくまる。
 何時間寝たんだろう? 12時、って。
「先生には連絡したから、心配すんな。今日はここに泊まらせることにしたから」
 ポンと頭を撫でられながらそう言われて、恥ずかしさがこみ上げる。
 連絡してくれたのは嬉しいけど、何て言ったんだろう? えっちしたから、とか、言わないよね?
「う、……え……」
 真っ赤になりながら唸ってると、見透かしたように「大丈夫」ってうなずかれた。
「先生には、『練習の疲れが出たんだろう』っつっといた。お前、玄関で寝てた時もあるんだって?」

 はははっ、と快活に笑う阿部さん。
 最近はそうでもなくなってきたけど、確かにこの前まではそんな感じだった。
 練習に必死になってるときは思い出さずにいられるのに、1人になるといつも、阿部さんのこと思い出して、しんどくて辛かった。
 阿部さんに会いたい、会いたいって、そればっか思ってた。
 今、ようやく会えて、ちゃんと受け入れて貰えて、キスの先も教えて貰えて、すごく気分が満たされてる。
 阿部さんはどうだったんだろう?
「ほら、明日の着替え。先生、わざわざ持って来てくれたんだぞ」
 ビニール袋に入った着替えを見せられて、うわっ、と思う。
「明日は学校行く前に、家に一旦寄ってけよ?」
 そう言われて、「はい」と素直にうなずいた。

 キスのその先、オトナの行為を知った後、そのまま恋人の家にお泊り、って。いきなりのステップアップに、ちょっと戸惑う。
 朝まで、まだ一緒にいられるんだ。そう思うと嬉しいけど、考えてみれば後4時間くらいしか残ってなくて、離れるのがすごく惜しい。
 4時間で、この違和感はマシになるのかな?
 明日はミーティングだけの日で、ホントによかった。
 歩き方とかおかしくて、「どうしたの?」って訊かれたら何て答えていいか分かんない、し。ああ、でも、田島君たちにはバレちゃうだろうか?

 ぐるぐる考えてると、「廉」って呼ばれて、抱き締められた。
「ずっとお前に会いたかった。会いに来てくれてよかった」
 ぼそりと告げられた言葉にドキッとして、それまでぐるぐる考えてた悩みが、一気にぶわっと霧散する。
「後悔してねーか?」
 顔を覗き込まれてうなずくと、そっと顔を寄せられてキスされた。
 まだ少し熱を持ってる体の奥が、ひくんと震えて甘く疼く。
 舌を絡め、快感に素直に身をゆだねると、ますます疼きが強くなって困った。
「ん……う……」
 うめきながら身悶えると、キスがほどかれて「やべぇ」って言われた。
「大事にしてぇのに、無茶苦茶にしたくなる。オレは優しい男じゃねーからな」

 優しい男じゃないって、前にも言われた。
 けど、阿部さんは優しい。優しくて格好良くて、温かく大人だ。
 16になって、大人のドロドロな恋も知って、オレももうコドモじゃないと思うけど……やっぱり彼に比べたら、大人でもないなって思う。
「好き、です。阿部さん。あ、阿部さんに求めて貰えて、オレ、幸せ、だ」
 ぎゅうっと抱き付きながら告げると、阿部さんもぎゅうっと抱き締めてくれた。
「ああ、オレも幸せだ、廉。ずっとこうしてぇって思ってた」
 耳に心地いい阿部さんの声。
 「廉」って呼ばれながら首筋にキスされると、最中のこと思い出しちゃって、照れてどうしようもない。
「名、前……」
 ぼそりと言うと、ふふっと笑われた。

「もう他人じゃねーのに、君呼びはおかしいだろ?」

「たっ」
 他人じゃない、って。
 確かに、その、フウフみたいなことしたのかも、だけど、そういう言い方されると照れ臭い。
「だからオレのことも、隆也って名前で呼んで欲しいんだけど」
 阿部さんはそう言って、オレの顔をじっと見た。
 隆也って呼べって言われるのも、2回目だ。1回目は誕生日よりも前、恋人になったその夜のこと。
 あの時は、どうしても照れ臭くて恥ずかしくて、名前では呼べなくて。でも「マスター」って呼ぶのがおかしいのは理解できたから、何とか「阿部さん」呼びで収まった。
 オトナの関係になった今、もっかい名前呼びを、っていうのは分かるんだけど、いざ呼ぶとなると、とんでもなくハードルが高い。
「た、た、……阿部さん」
 どんなに頑張っても隆也の「た」の字しか言えなくて、そんだけで赤面し過ぎてくらくらになった。無理だ。

 阿部さんにも、今はまだ無理だって分かったんだろう。
「まあ、ゆっくり行くか」
 頭を撫でながら、仕方ないなって風に苦笑された。
「恋人としたいことのリストの中に、名前呼びも追加な」
 「は、い」と赤面したままうなずくと、格好いい顔でニヤッと笑われて、ドキッとする。
「あと、オレからは腕枕とヒザ枕も追加だ。耳かきと爪切りもな」
 そんな言葉の後、ぐいっと抱き寄せられ、そのままベッドに引き倒された。うわっと思って目を向けると、首の下に阿部さんのたくましい腕があって、腕枕だって分かった。
 肌のぬくもり、汗の匂い、男らしい胸元が間近に迫る。これ以上ないってくらいの赤面に、目眩すらしてきて目を閉じる。

 夜明けまで、あと4時間。
 4時間後には、また家に帰り、朝練に行かなきゃいけないけど。唇に軽くキスを受けながら、今だけはこの腕の中で、ゆったり過ごしたいなと思った。

   (終)

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