Season企画小説
恋人としたい事・13 (R15)
阿部さんが階下に降りちゃって、ひとりになってからまず思ったのは、「どうしよう」ってことだった。
来ちゃった、どうしよう。「好き」って泣いちゃった、どうしよう。キスしちゃった、どうしよう……。
さっき抱き締められた感覚がまだ残ってて、胸がきゅんと切ない。キスの感覚も残ってて、唇を押さえたまま動けない。
「帰れ」とも「なんで来た?」とも言われなかったのは、期待してもいいのかな?
迷惑よりも先に、風邪ひくぞって、オレのこと心配してくれた。
阿部さん、阿部さん。阿部さんが好きだ。
好きで、どうしようもなくて、会えて嬉しくて涙が止まらない。
バスタオルを被ったまま座り込んで泣いてたら、お風呂の方でピーピーと音がした。
『風呂入っとけ』
阿部さんの指示を思い出し、のろのろと立ち上がる。
よそのおうちのお風呂を借りるのなんて経験なくて、それにもどうしようって戸惑った。
恐る恐る靴を脱ぎ、濡れたシャツのボタンを1つ1つ外す。
ぼうっとしてた時間が長かったせいかな? 服を脱ぎ終わる前に阿部さんが戻って来て、飛び上がるくらい驚いた。
「あっ……の……」
言い訳するように口を開きつつ、上半身だけ裸になる。
阿部さんも驚いたみたいに目を見張ってたけど、やがて真面目な顔のまま近付いてきた。
「まだ入ってなかったんか」
静かに言われ、ぽんと頭を撫でられて、ドキッとした。
お風呂の準備ができたのだってついさっきなんだけど……どう説明していいか分かんなくて、言葉がとっさに出て来ない。
黙ってうつむいてると、大きな手のひらでそっと頬を撫でられた。
はっと顔を上げると、阿部さんの格好よく整った顔が間近にある。ひどく優しい目で見つめられてて、またドキッと心臓が跳ねた。
ひくっと嗚咽が漏れそうになったのと、強く抱き寄せられたのは、ほとんど同時のことだ。
「阿部さん……っ」
うわずった声で名前を呼ぶ。
「あっ、会いたかっ、た……っ」
つっかえながら告げると、耳元で「オレも」って言われた。ぬるい吐息がふわっと耳にかかって、久々の感覚にぞくぞくする。
たまんなくなって自分からも抱きつくと、自然に唇が重なった。
さっきみたいな一瞬のじゃない、深くて長いキスを交わす。
甘い唾液、コーヒーの香り。舌を絡める快感も久し振りで、ノドの奥から声が漏れた。
「ん……ん……」
足が震える。嬉しくて気持ち良くて、どうにかなりそう。
広い背中に回した手に、ぎゅっと力を込めてしがみつくと、阿部さんも大きな手で、オレの背中を撫でてくれた。
冷えた裸の肌に、阿部さんの手のひらが温かい。
キスをしたまま背中を撫でられ、腰を撫でられてビクッとする。服越しにお尻を撫でられたときは、ビックリし過ぎて唇を離しちゃった。
「ふあ……っ」
カーッと真っ赤になりながら阿部さんを見上げると、阿部さんからもまっすぐ見つめられる。
「今ならまだ引き返せる。けど、このまま一緒にいてぇって言うなら、もう手加減しねぇ。どうする?」
間近で訊かれた問いの意味が、理解できない程コドモじゃない。
キスの先を知りたいのは、もうずっと前から感じてた。そんでそれは、阿部さんとじゃないと意味がない。
もっと欲しい。阿部さんが欲しい。魂が枯渇して、満たされたくてたまんない。
「引、き返さない。い、一緒に、いたい」
上ずった声できっぱり告げて、ぎゅうっと阿部さんにしがみつく。阿部さんは「そうか……」って呟いて、それからふふっと笑みを漏らした。
「じゃあ、風呂も一緒に入ろうか」
試すような提案に、やっぱりドキッとしたけど――もう同じこと、繰り返したくなかった。覚悟を込めて、こくんとうなずく。
じわじわと熱くなってた顔は、阿部さんが服を脱ぐのを見て、もっともっと熱くなった。
ざっとお湯をかけられた後、「まずは温まれ」って言われて、湯船の中に放り込まれた。
雨に濡れて冷えてたみたい。お湯はすっごく熱く感じた。
洗い場では、その間に阿部さんが体を洗い始めて、目のやり場にすごく困る。
思ってた以上にたくましい体、大きな背中、引き締まった筋肉……高校生のものとは違う、大人、だ。
格好良くてずっと見ていたいって思う反面、すごく照れくさくて恥ずかしくて、直視できない。赤くなりながら目を逸らしてると、「廉君」って名前を呼ばれてビクッとした。
「洗ってやるよ。おいで」
優しく手招きされて、カーッと頭に血が上る。
「いいです」なんて遠慮するような余裕もなくて、ザバッと立ち上がり、促されるまま風呂イスに座ると、頭からシャワーをかけられた。
「ふあっ」
とっさに身を竦め、目を閉じる。
髪を優しく洗われ、背中を洗われ……胸も手も足も洗われた。
背中越しに抱き締められると、肌と肌が触れ合って、気持ちよくて泣きそうになった。
アゴを取られ、振り向かされてキスされる。
肌を這う手のひらが、優しくて気持ちいい。その手はやがて前に伸びて、オレの股間に触れたけど、もう「イヤか?」なんて訊かれなかった。
「あっ……んんっ!」
悲鳴を上げてのけ反ったけど、後ろからしっかりと抱き締められた。背中を預け、全部を預け、与えられる快感に身をゆだねる。
他人に触られたのなんて、勿論初めてだった。
自分の手とは違う感覚に、簡単に追い上げられて息を詰める。
「いーぞ、出せ」
耳元で囁かれ、射精感を素直に受け入れると、もう放出は早かった。
「ああっ」
甘えた嬌声と共にびゅっと出して、それからがくんと後ろの阿部さんにもたれる。
「可愛いな、廉君」
低く色っぽい声で囁かれ、耳元に、肩に、キスがいくつも落とされた。
全身に這わされる、大きな両手。薄っぺらい胸板を撫でられ、乳首をくすぐられてビクッとする。お腹を撫でられ、わき腹を撫でられると、くすぐったいより先に「んんっ」と甘い声が出た。
「あべさん……」
呟くように名前を呼ぶと、唇に軽くキスされる。
けど、それだけじゃ終わらなかった。体ごと振り向かされ、しっかり抱き付いてるよう指示される。言われるまま従うと、お尻を丸く撫でられた。
「力、抜いてろ」
そんな言葉とともに、お尻の谷間に沿わされる長い指。
いつもは丁寧にコーヒーを淹れるその指が、谷間の奥のつぼみに触れる。
男同士の行為で、そこを使うんだってこと、知らない程ウブじゃない。
これから彼が何をしようとしてるのか……それも分かんない程、コドモじゃなかった。
(続く)
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