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Season企画小説
ハプニング・カウントダウン・7 (完結・R18) 
 結局ゴルフには行けなかった。プールにも、他の場所にも行けなかった。
 29日の夜からほとんどホテルのツインルームにこもり、抱かれては寝て、食べて、また抱かれて……を繰り返した。
 前日までの健全さが、嘘のようなただれた時間。
 けど、こんな風に何も気にせず抱き合うなんてこと、今までになかったから、オレも「イヤ」とは言えなかった。
 オレの練習も阿部さんの試合も、何もない日々って、すごく貴重だ。
 阿部さんもそう思ったんじゃないのかな?
「たまには、のんびり過ごすのもいーんじゃねぇ?」
 ベッドに伏せったまま起き上がれないでいると、優しく頭を撫でて、キスしてくれた。
「オレも夢中になっちまった。可愛いーよな、お前」
 そんな風に言ってくれると嬉しい。
 どう考えても、溺れてるのはオレの方だろうって思うけど……執着を見せられると、ぞくっとするくらい幸せだった。

 食事はずっとルームサービスをお願いしてた。
 ホテルには日本語の話せるスタッフもいるらしいけど、阿部さんは注文も受け取りもずっと英語でこなしてて、改めてスゴイって感心する。
「お前だって、中学からずっと英語習ってただろ」
 ニヤッと笑ってそう言われたけど、読むことは多少できても、会話なんてできない。
 受験もスポーツ推薦で、今までさんざん楽してきた分、色々頑張らなきゃって思った。
 オレなんて、ルームサービスのメニューすらしっかりとは読めないし。1人じゃ空港からこのホテルにまでたどり着くことも無理そうだ。
 正直にそう言うと、「じゃあ、今度特訓するか」って言われた。
「セックスの最中、英語しか喋っちゃダメってのはどうだ?」
 ニヤニヤ笑いながらそんなこと提案されて、「う、えっ」とうろたえる。
「そっ、そんなっ」
 思いっ切り驚いた顔したら、冗談だったみたいで、大笑いされた。

「ホント、お前、飽きねーな」
 そんなセリフに喜んでいいのかは、正直ビミョーだったけど、愛想尽かされるよりは何倍もイイ。
 いつか投球のことでも、そんな風に思って貰えればいい、な。
 ぐっと肩を抱き寄せられて、たくましい腕に素直に甘える。整った精悍な顔を寄せられ、照れながら目を伏せると、期待通りキスが降りてきた。
 阿部さんとのキスは、いつも甘い。
 強引なキスも、優しいキスも、どっちも甘くて気持ちよくて、オレをトロトロの骨抜きにする。

 南半球のホテルで、恋人と迎える初めての大晦日。
 前日と同じく、朝からダラダラと部屋で過ごして、窓の外はもう暗い。日の入りは午後6時50分頃。初日の出は、4時50分頃だって。
 ホテルの窓は真東を向いてはないんだけど、ビーチビューになってるから、きっと初日の出も見えるだろう。
「カウントダウンは、外に降りてビーチで見るか?」
 シャツのすそから背中に手を這わせながら、阿部さんがこそりと言った。
 オーストラリアのカウントダウンは、海沿いでの花火が有名なんだって。みんな夕方からビーチに繰り出して、お酒飲んで騒ぎながら、新年を花火と共に迎える、って。
 今頃もう、外は人でいっぱいなのかな?
 真冬の日本じゃ考えられない、贅沢なカウントダウンだと思う。
「楽しみ、です」
 シャツを脱がされながらうなずくと、「了解」ってニヤッと笑われた。
 阿部さん、やっぱり機嫌イイ。

 もう何度目か、数えるのさえ不可能なえっち。例のローションを使わないときは、阿部さんもたまに、ゴムをまとわない。
 オレの全身には、阿部さんのつけたキスマークがあちこちに散らされて、当分プールには行けそうになかった。
 代わりに阿部さんの背中にも、オレが夢中になってつけた爪痕がいっぱい残ってて恐縮、だ。
「そんだけ善かったって証拠だろ」
 阿部さんはニヤッと笑ってたけど、オレの方は恥ずかしい。
 違和感と戸惑いの方が大きかった頃と比べて、快感をしっかり感じるようになった今のオレには、アレは前より効くみたい。あられもなく縋りついて、際限なく欲しくなる。
 今は普通のローションだけど、だからって物足りないなんてことはなかった。すっかり緩くなった穴が、たっぷりと濡らされて彼の肉根を受け入れる。
 ぐぷっと恥ずかしい音が鳴ったけど、そんなささやかな羞恥心は強い快感の中に消えて、じきに考えらんなくなった。

「こんな、夢中にさせられたんは初めてだ」
 オレを深く貫きながら、阿部さんが言った。
「もう手放さねぇ。覚悟しろ」
 強引なセリフ。見放されたくないのはオレも同じで、必死に食らいついてくしかない。
 秘密の恋人としても、新人投手としても、阿部さんの横に立つにはまだまだ力不足なの、分かってる。けど、それでも、溺れてるんだからしょうがない。
「んっ、オレ、だって……っ」
 喘ぎ声に混じって言葉を返すと、嬉しそうな笑みと共に、深いキスが降ってきた。
 同時に強く揺らされて、塞がれた口から悲鳴を漏らす。
「んっ、んっ、う、んんっ!」
 必死に背中にしがみ付き、強い快感に浸って溺れる。爪痕が……なんて配慮は頭から飛び去って、頭の中が白くなる。

 コンコンコン、と誰かがドアをノックしたけど、今更中断なんかできない。
 阿部さんは返事もしないで、さらに激しくオレを揺すった。
「ドアよりオレを見ろ」
 って。阿部さんだって一瞬、ドアの方見たくせに。
 けど、そんな嫉妬や執着を見せて貰えるのも嬉しくて、「は、い」って返事するしかなかった。
 カウントダウンのお誘いかも知れない。
 2人のあの先輩たちか、それとも後で合流するって言ってた、残り2人だったのか、それも確認できなかった。
 何の音も聞こえないくらい喘がされ、存分に中に注がれる。

「あっ、あ、あああーっ!」
 びくびくと全身で震えながら達すると、ご褒美みたいに甘いキスが繋がったままで与えられた。
 肉厚の舌に舌を絡め合い、濃い唾液を交わし合う。
 そのうち、オレの中にあった阿部さんのモノが再び硬さを増して来て、また果てしない揺さぶりが再開された。
「阿部さんっ」
 名前を呼んで縋りつくと、「三橋」と響きのいい声で返される。
「愛してる」
 こそりと囁かれた言葉に、どすんと心臓を射抜かれれば、後は快感に酔うしかなかった。
 容赦ない攻めも、愛情表現だから嬉しい。
 無茶苦茶にされたいって、いつも心から願ってる。

 だから――。
 ソレが終わった後に疲れ果て、しっかり立ってらんなくなっても、文句なんかあるハズなかった。

「わりー、ヤリ過ぎた」
 ちっとも悪いと思ってなさそうな口調で、大好きな恋人が形だけの謝罪をする。
 ふらつくオレの腰を支え、手を繋ぐよりも密着して、一緒にビーチに降りてくれた阿部さん。一応サングラスはしてたけど、誰かに声を掛けられることはなかった。
 10分前。5分前。
 ビーチでは賑やかな音楽と共に、みんなが夜空を眺めてる。花火と共に年が明ける瞬間を、今か今かと待っている。
 2分前。1分前。
 やがて、カウントを知らせるアナウンスが、マイク越しに陽気に響く。
『Last 10 counts! 8、7、6、5、……』
 ビーチにいるみんなが、一緒に大声でカウントする。
 オレも、阿部さんの横で声を合わせた。
『Three、two、one、Fire!』

 ドドドドドドン、と発射音が響き、直後、無数の打ち上げ花火がビーチ上の夜空に咲いた。
 わあ、きゃあ、と歓声が上がる。
 ぴゅーぴゅーなる指笛、拍手。あちこちで交わされる乾杯の音頭。
 オーストラリアの新年は、夏らしくて陽気で賑やかだ。みんなが肩組んで笑って花火を見てて、オレ達がそうしても目立たない。
「今年はしょっぱなから、ガツンとヤルぞ!」
 阿部さんが肩を抱き寄せ、耳元で言った。
「うえっ……?」
 ガツンと? しょっぱなから、何をやる、って?
 自信たっぷりに笑われたけど、言葉の意味を図りかねて、オレは返事もできなかった。

   (終)

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