[携帯モード] [URL送信]

Season企画小説
ハプニング・カウントダウン・1 (2015年末年始・プロ選手阿部×大学生三橋)
※このお話は、ハプニングハプニング・アフター の続編になります。






 雲1つない青い空、ギラギラと眩しい太陽、ビキニのトップスにパーカーを羽織っただけの金髪美女や、派手な柄のTシャツを着た筋骨隆々のお兄さんが、当たり前のようにあちこちの通りを歩いてる。
「サングラスしてろよ」
 キャップ越しにオレの頭をポンと叩いて、真横に立つ阿部さんが言った。
「紫外線強ぇからな。日本と一緒だと思うなよ」
 ふふっと笑われて、「はい」とうなずく。
 日本と一緒だなんて、思えなかった。クリスマスの直後だっていうのに、オーストラリアは夏で。これから10日間、彼と一緒にいられるんだと思うと、それだけで気分がハイになった。


 球団と正式に契約を交わし、オレが無事、プロ選手の1員になることが決まったのは、11月の末のことだった。
 年明けの1月中旬には、チームの新人全員が参加予定の、合同自主トレが始まる。
 トレーニング中にゆっくりと仕上げていくことになるらしいから、投球については初日の集合時までに8割くらいの仕上がり具合でいいんだって。
「でも、やっぱ最初が肝心だからな。年末から一緒に自主トレしてやるよ」
 チームの正捕手で、尊敬する恋人でもある阿部さんに誘われた時は、勿論「はい!」と返事した。
 憧れの大選手と同じチームだって、それだけでも嬉しいのに、自主トレまで誘って貰えるなんて夢みたいだ。
 オレなんてまだまだ新人だし、プロでいきなり通用するかもなんて、大それたことは思ってない。日本でも1、2を争う実力派捕手の阿部さんと、バッテリーを組むなんて夢のまた夢だ。
 でも、自主トレの期間なら、ちょっとだけでもオレのボール、捕って貰えたりできるかも知れない。
 ブルペンで向かい合うことはできなくても……キャッチボールくらいはどうだろう?

 阿部さんは有名人だから、今までは会うのも大変だった。
 オレたちが初めて会った、あの会員制の秘密クラブを利用したり。高級ホテルなら、時間差でチェックインしたり。
 オレもドラフト1位指名貰って、「大穴だ」とか「期待の新人」とか色々報道されて、ちょっと名前も売れてたから、余計に気を遣わなきゃいけなかった。
 デートだって無理だし、キャッチボールだって無理。どこで誰が見てるか分かんないし、慎重にしなきゃいけなかった。
「お前が早く日本一の投手になりゃいーんだよ」
 って、そうしたらマスコミも世間も何も言わなくなるって、阿部さんは簡単に言う。
「オレがついてんだぜ、できねーハズねーだろ」
 って。
 阿部さんに自信たっぷりに言って貰えると、ホントにいつかできそうな気がするから不思議だ。
 勿論、相当の努力は必要だし、簡単にできることじゃないけど――でも、「無理だ」なんて最初から諦める気にはならなかった。

 そうしてご一緒することになった、自主トレーニング。あまりに簡単に誘われたから、てっきり沖縄とか鹿児島みたいな国内でやるのかと思ったら、オーストラリアだって言われてビックリした。
『パスポート、持ってるよな?』
 電話口で当たり前のように言われて、ギクシャクとうなずく。
 チケットも、現地での宿泊場所も、全部用意してるんだって。
『身一つで来い、と言いてぇとこだけど、用具忘れんなよ?』
 そう言って、はははと快活に笑う阿部さん。いつも余裕だけど、特に機嫌いいみたい。
 トレーニングに行くんだから、シューズやスパイク、グローブや練習着が必要になるのは当たり前だ。
 着替えは夏物を用意するようにって言われて、そういや南半球なんだなぁと思った。

「ど、どうしてオーストラリア、なんです、か?」
 不思議に思って訊くと、グアムやハワイは日本人が多いからって言われた。
『マスコミも多いし、落ち着かねーだろ』
 って。確かに、阿部さんみたいな有名選手になると、取材とか大変そう、だ。
『手ぇ繋いでデートしよーぜ』
 くくっと楽しそうに笑われて、じわっと顔が熱くなる。
 電話越しに、あの大きな手で髪を撫でられてる感じ。好きだなぁと思う。
 まだ両手で数えられるくらいしか会えてないけど、そんだけで、オレが彼に溺れるには十分だった。
 ホントは多分、オーストラリアでも、手を繋いでデートなんて真似はできないんだろうなぁと思う。もしかしてサングラスかけたり、変装したりすれば大丈夫なの、かな?

 滞在費や渡航費も、甘えっぱなしで申し訳ない。
 オレだって、契約金と1年目の年俸とで1億貰えたし、払えるんだけど……そう言うと、「ひよっこが生意気」って軽く怒られて終わりだった。
『いーんだよ、カラダで払って貰うから』
 そんなセリフを耳元で聞かされて、電話越しなのにドキッとする。
 か、カラダ、って。
 意味深なセリフにカーッと赤くなってると、『いい球投げろよ』って言われて、更に顔が熱くなった。
 カラダでって、投球のこと? 確かに、遊びに行くんじゃないんだし、野球しに行くんだし、当たり前、か?
 変な風に想像したのが、自分でも恥ずかしい。
「が、頑張り、ます!」
 元気よく返事すると、またくくっと笑われたけど、それはいつものこと、だし。もっと恥ずかしい顔だって見られてる訳だから、今更なのかも知れなかった。


 そうして到着したオーストラリア。
 成田出発は、12月25日の夜だった。9時間のフライトで、到着は26日の早朝。時差は1時間だって。
 ハワイだと時差は19時間だっていうから、随分違う。1時間っていうと、グアムもそうらしいんだけど、やっぱり日本人やマスコミの数は、特にお正月の時期って多そうだ。
「時差が少ねぇと、楽でいーよな」
 成田空港で待ち合わせした阿部さんは、そう言って機嫌良さそうに笑ってた。普通に寝てりゃ着くだろ、って。さすが、移動には慣れてるって感じだ。
 オレは緊張で寝られるか心配だったけど、阿部さんおすすめのワインを2、3杯飲んだお陰で、何も気にせずぐっすりと寝られた。
 シドニーで乗り替えして、更に飛行機で移動するって聞くと、やっぱりオーストラリアって大きいんだなぁと思う。
 北は熱帯雨林気候、南は温帯性気候……と、国土が4つの気候帯に分かれるんだって。オレ達が滞在するのは、1年中晴れ間が多い、亜熱帯性気候の地域だ。
「迷子になんなよ」
 子供扱いされると複雑だけど、約束通り左手を「ほら」と差し伸べて貰うと、嬉しくて幸せで、ゾクゾクした。

(続く)

[*前へ][次へ#]

26/32ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!