Season企画小説 ぬるま湯にはもう浸かれない・12 (終・R18) いくら望んでたっつっても、準備なんかは当たり前だけど何もしてなかった。 ローションとかゴムとか、そういうのも買ってねぇ。どこに売ってんのか確かめてすらなかった。けど、そんなのはもう、衝動を抑える理由にはなんなかった。 ぐるっと見回して目についたのは、三橋がさっきまで抱えてたオレのカバンだ。 手を伸ばして引き寄せ、中から取り出したハンドクリームで、三橋の体を少しずつ拓く。 三橋は脱がしたシャツを顔に押し当て、恥ずかしそうにしてたけど、従順にオレに任せてくれた。 「挿れるぞ」 告げながら顔を隠してたシャツを奪う。真っ赤な顔の三橋は潤んだ目でオレを見上げて、「んっ」とうなずいて目を閉じた。 「ゆ、夢じゃない……?」 「夢じゃねーよ」 夢にしちゃ感覚がリアルだろ? さっきまで指を埋めてた穴の熱さも。くちくちと鳴ってたいやらしい音も。指に触れた粘膜のひだも。夢じゃねぇ証拠だ。 白い脚を押し開き、ぐっとヒザを腹につける。 緩んだ入り口にオレの肉を押し当てると、三橋が小さく息を呑んだ。 とろけたクリームのぬめりを借りて、ゆっくりと三橋の中に侵入する。オレも十分熱くたぎってんのに、穴の中は更に熱い。 「あっ、んうーっ」 上擦った悲鳴が上がり、白い両腕が縋るように伸ばされる。 体重をかけて奥まで貫き、体を重ねて縋る手に応えると、ぎゅっと首に回された。 狭い。熱い。動いてもねぇのに気持ちイイ。 「んっ、……あべくんっ」 オレの名を呼びながら、三橋がふわっと目を開いた。 引き寄せられるままキスをして、薄い舌に舌を絡める。酔ってんのか? やっぱりキス魔だ。 恐る恐る腰を揺すりながら、三橋の長いキスに応える。 きゅうっと中のひだに絡み付かれ、ぞくぞくと快感が走った。 「……っ、はっ、みはし、痛くねぇ?」 キスの合間に尋ねると、小さく首を振られた。 「ん、あっ、熱い……体、奥……」 小声でとつとつと訴える声。 奥が熱いのはオレも分かる。ずんずんと突き上げる後腔の奥が、とろけるくらいにスゲー熱い。 ハジメテなのに痛みを感じてなさそうなのは、力が程良く抜けてるせいか? 酒のせい? キスのせい? ぎゅうっとオレに縋る腕。耳元に届く、控えめな喘ぎ声。何もかもに煽られつつ、努めてゆっくりと三橋の中を突き上げる。 抜き差しの度に熱い粘膜がきゅうきゅうとオレに絡んで、気持ちよくて仕方ねぇ。 平らな胸にいっぱいのキスを落とし、乳輪を胸筋を愛撫する。 可愛くて愛おしくて衝動のままに奥まで突くと、三橋が「ああっ」と高く啼いた。 その声をもっと聞きたくて、身を起こし細腰を掴む。 衝撃の予測にわななく三橋。そんな反応も誘ってるようにしか見えなくて、抜き差しを強く、速くする。 「あっ、ああっ、んっ、あっ」 三橋の嬌声が跳ね上がった。 いやいやと首を横に振り、脇に突いたオレの腕に軽く縋る。 「あっ、あああっ、あべくん、熱いっ」 太い下がり眉を悩ましげに寄せて、三橋が濡れた唇を開く。ぎゅっと抱き締め深くキスすると、塞いだ唇からうめき声が漏れた。 舌を絡める余力はないらしい。好き放題オレにさせて、緩んだ唇から濃い唾液がつうっと落ちる。 「寒ィよりマシ、だろっ」 いくらエアコン効いてるっつっても、12月に裸で、床の上で抱き合って、「熱い」なんて結構なものだ。 ぬるま湯になんて浸かってらんねぇ。 「オレも熱い」 酒のせい? 三橋のせいか? 息が弾む。汗ばんだ肌と肌をぴったりとくっつけて、三橋の体の深くまで暴く。 「融ける、融けちゃう……っ」 そんな煽り文句と共に、背中に爪を立てられた。 痛いくらいの刺激も気持ちイイって感じんのは、酔いで痛覚が鈍ってるからか? キスをねだられ、求められるまま唇をむさぼる。 「んんっ、むうっ」 塞いだ唇から嬌声が漏れて、びりびりと胸が痺れた。 好きなヤツと繋がってる。三橋をこの腕に抱いてる。そんな実感が電流のように脳に走って、嬉しくてたまんなかった。 三橋が吐精して、気絶するように意識を飛ばした後も、なかなか放してやれなかった。 「起きろ」つって声掛けながら、くったりした体を容赦なく揺さぶる。 怖かったのは、また夢だって思われることだ。 半年間、さんざんキスしまくってた時は、勇気が足んなくて言えなかった。いっそバレればいいと思いつつ、自分から敢えてバラそうっていう覚悟もなかった。 好きになった事、キスのこと教えず誤魔化し続けた事、もう一緒には住めねぇって、相談もなく決めた事――何もかも、何度謝っても足りねぇと思う。 「ごめんな」 何の言い訳もなく、耳元でこそりと謝る。 軽くちゅっとキスを落として、繋がったままの体を揺すり上げると、やがて弛緩してた体がびくんと跳ねた。 「ん……はあ……っ」 悩ましげな喘ぎ声。 「起きたか?」 髪や頬を撫で、再び唇を奪う。 「阿部君……んんっ」 目を開けてオレを見た瞬間、三橋の頬がカーッと朱に染まった。 数えきれねぇくらいキスしたくせに。今、もっとこんなエロい事してんのに。そのウブな様子は何なんだ? 新鮮な反応にぞくっとする。 キスするたびに、どんどんコイツに惚れてった。きっとこの先は抱くたびに、どんどん溺れていくんだろう。 「三橋、好きだ」 キッパリと告げて、抱き起こす。 ヒザの上に乗せ上げ、繋がったまま対面座位の形に座ると、三橋がぎゅうっとオレの首に腕を回した。 「んんっ、深い……」 甘えた声が耳元をくすぐる。 張り詰めた背中を撫で上げてやると、きゅうっと中を締められる。 「オレも、好きっ」 囁くような返事と共に、うなじに柔らかな唇が押し当てられた。 肩に、首に、耳元に、額に、いくつも落とされる恩寵。三橋から与えられるキス。 酔いが醒めて来たらしい。恥じらってて震えてて、けど、寄せて来る唇には迷いがなかった。 唇が重なる。吐息が交わる。 もう夢だなんて疑わせねぇ。差し込まれた舌をむさぼりながら、抱き締めた体を突き上げる。 「んあっ、待ってっ」 なんて言われたって、待つ訳がねぇ。 「お、祝い、言って、ないっ」 そう言われて、そういえば誕生日だったなと思い出す。「おめでとう」って言われてなかったっけ? あれ、言ってなかったか? そんな記憶も曖昧なのは、初めて飲んだ酒のせいか? 「どうでもいーよ」 正直な気持ちを口にして、白い首筋に口接ける。 言葉よりもっと嬉しい祝福を貰って、これ以上の幸せはねぇ。 翌朝、首や胸に無数のキスマークをつけた三橋が、鏡を見て悲鳴を上げたり。「阿部君はキス魔、だ」ってお門違いの文句を言ったり。そのことで、またあの女どもに「サイテー」とか言われたりもあったけど。 絶品唐揚げは美味かったし、ケーキもスパークリングワインも三橋も美味かったから、ハジメテの二日酔いの地獄も、甘んじて受け入れることにした。 テーブルの上にあったプレゼントは、いい色のマフラーだった。 この間ヤキモキさせられたダブルデートもどきん時、買って来たヤツらしい。女どもとはそん時意気投合して、色々相談するようになったって。 泉や田島が三橋のにーちゃんなら、女2人はねーちゃんか? ライバルになりそうにねーのは結構だけど、口うるせぇのは鬱陶しい。 けど、そんな風に味方を増やしてくのも、三橋の魅力の1つなんだろう。 「クリスマスには、オレが何か買ってやるよ」 2人で買い物デートしようって誘うと、三橋はぱぁっと顔を赤らめ、「うんっ」ってうなずいて笑った。 やっぱ泣き顔より、笑顔がいい。 1年後も、2年後も、卒業してからもずっと……こうして一緒にいてぇなと思った。 (終) [*前へ][次へ#] [戻る] |