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Season企画小説
ぬるま湯にはもう浸かれない・6
 初めての合コンで緊張してガチガチだったせいか、三橋は甘え癖を出さなかった。
 真っ赤な顔して、にへらーっと愛想笑いしながら女子の話にうなずいて、1次会終了と同時に酔い潰れた。
 こてん、と擬音が聞こえるくらいのあっけなさで、床に寝転がる三橋。
 女どもから「可愛い〜」と声が上がったのを苦々しく聞きながら、周囲を蹴散らすように側に寄る。
「三橋、起きろ」
 肩を揺すっても起きねーのは、とうに知ってる。
「ダメだ、完全に寝てんな」
「まあ、キス魔になるよりゃいーけどな」
 みんなが苦笑する中、オレは同期に手伝って貰って、酔い潰れた三橋を背負った。

「ワリー、連れて帰るわ」
 済まなそうな顔を装って言うと、幸いにも反対意見は出なかった。
「おー、気を付けてな」
「阿部君、またね」
 男女ともに他人事みてーな挨拶をくれる中、愛おしい重みに口元を緩める。
 1次会だけで帰りたかったし、ちょうどイイ。
 会場が近所でよかった。
 三橋が寝てくれたのもよかった。
 マンションの三橋のベッドにドサッと下ろすと、三橋はかすかに「ん……」とうめいて、でもやっぱ目を覚まさなかった。
「三橋、家に着いたぞ」
 囁いても起きねぇ。多分、キスしても。

「三橋……」
 柔らかな髪を撫で付けながら、酒気を吐く口に顔を寄せる。薄く開いた唇を奪い、舌をねじ込むと、三橋がかすかに「ん……」とうめいた。
 起きるか、と思ってドキッとする。
 覆い被さり唇を奪った――キス魔でもねぇ三橋にオレからキスしてる状態で、もし目を覚ましたらどうする?
 オレを拒絶するか? 突き飛ばして「いやっ」と叫ぶか? それともキョドって青ざめるだろうか? 理由を知りたがったりすんのかな?
 唇を離すと、三橋はぽかんと口を開けたまま、すうっと穏やかな寝息を立てた。
 ホッとしたような気もするし、残念って気もする。複雑だ。
「……好きだ」
 囁くように呟いても、三橋はぴくりとも動かねぇ。その耳に、何も残ってねぇのは疑いようもなかった。

 そのままじっと三橋の部屋に居座ったのは、前に先輩から目ぇ放すなって言われたからだ。寝てる時に吐いたらどうこう、って。
 けど、ホントはそれは言い訳で、単に側にいたかったってのが正しい。
 吐く心配がなくても。三橋に意識がなくても。記憶がなくても、望みがなくても。このままずっと三橋の側にいたかった。

 ふいに、ポケットに入れっぱなしだったケータイがムームーと鳴った。
 ほぼ同時に三橋のケータイも鳴ってたから、一斉送信なのかも知れねぇ。パッと見ると、登録してねぇアドレスだ。
 不審に思いつつメールを開くと、今日のコンパに参加した女の1人だったらしい。
――今日は楽しかったね。ありがとう。また一緒に遊びたいな――
 同時にLINEへの招待メールも届いて、ウゼェな、と思う。勿論無視してケータイ自体をしまったけど、モヤモヤはますます強まった。
 誰がオレのアドレス教えたんだ? 三橋のも教えたのか?
 普通、許可なく誰かのアドレスを他人に教えたりしねーよな。犯人はっつーと一緒に参加した同期の連中の誰かには間違いなくて、知り合いだけにムカついた。
 三橋のアドレス教えたのもムカついた。

 LINEなんか、誘われても登録すんなってキツく言っとかねーと。三橋のことだ、断りきれずに登録したら、軽いノリでどんどん誘われて、深みにはめられちまうかも知んねぇ。
 オレの知らねぇ飲み会に誘われて、そこで甘え癖が出ちまったらどうなる? キス魔になっちまったら? 考えただけでゾッとする。
 三橋のベッドを振り返り、すやすや眠ってる姿をじっと見る。
 穏やかな寝息。あどけない寝顔。どっちも愛おしくて、好きで、胸の奥が熱くなる。
 今はオレだけのものだ。
 ずっとコイツの側にいてぇ。オレの望みはそんだけだった。


 三橋があん時の女どもとLINEを始めたって知ったのは、12月になってからだった。
 登録したのは、勧誘メールが来てすぐだったらしい。ずっと何かケータイにかかりっきりだなと思ってたけど、まさか女と連絡取り合ってるとは思ってなかったからビックリした。
「オレ、登録すんなって言ったよな?」
 ちょっとキツめに文句言ったけど、どうやら誰に訊いても反対してんのはオレだけだったみてーだ。
「田島君も、泉君、も、みんなやってる、って。や、野球部のみんなも、そうだって」
 新旧のチームメイトの名前をとつとつと上げられ、多数決だとか言われたら反論できねぇ。
 オレが登録しねーのは面倒臭ぇからだったけど、三橋にはその面倒さも新鮮で楽しいみてーだ。意味ワカンネー。

 しかも、そうやって連絡を取り合う内に、女どもと仲良くなったらしい。
「つ、次の土曜、オレ出掛ける、から」
 恥ずかしそうに頬を染め、三橋からメシ作れねぇって聞かされて、一瞬返事ができなかった。
「で……」
 デートか? と、訊きかけて口を閉じる。「うん」って迷いなくうなずかれたら、ダメージ大き過ぎて立ち直れねーかも知んねぇ。
 幸い2人きりじゃなかったみてーだけど。

「あ、阿部君、は、留守番してて、ねっ?」
 念を押すように頼まれて、不安な思いは募るばかりだった。

(続く)

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