Season企画小説 ぬるま湯にはもう浸かれない・5 野球部の同期から合コンに誘われたのは、11月の下旬だった。 「ワリーけど、そういうの興味ねーから」 そう言って一旦断ったけど、「いるだけでいいから」って頼まれた。 「お前は何も喋んなくていい。端っこで飲んでていいから」 飲んでりゃいいっつったって、オレはまだ誕生日来てねーし。ジュースやウーロン茶飲んで、何が楽しいんだっつの。 合コンなんかに興味ねぇ。そもそも、女に興味ねぇ。 くだらねぇ連中相手に機嫌とって、そう美味くもねぇメシ食って、面白くもねぇ話聞いて、どんな苦行だって感じだ。 「冗談じゃねーよ、面倒臭ぇ」 三橋のことだけで手一杯なのに、余計な面倒増やしたくねぇ。やっぱキッパリ断ろう。そう思った時――。 「なあ三橋、お前は行くよな、合コン!」 同期のヤツが三橋にも声かけんのを聞いて、ドキッとした。 ハッと振り向くと、三橋は話についていけてねぇみてーで、でかい目でパチパチまばたきしてる。 「合コンだよ、合コン! 可愛い子いるからさ」 「おい……」 可愛い子、って。ふざけんな。 たしなめるように声をかけたけど、同期は勧誘をやめねぇ。三橋の肩にぐいっと手ぇ回して、そんだけでもムカッとしたのに、更に余計なセリフを言った。 「お前だって、そろそろカノジョ欲しいだろ?」 「かっ!? ふえっ?」 奇声を上げて、カーッと赤面する三橋。けど。 「キスの相手が阿部しかいねぇのは空しいぞ〜?」 からかうように言われて、赤かった顔から瞬時にざあっと血の気が引いた。 やっぱ三橋にとって、オレとのキスは青ざめるくらいイヤなのか? ぐさっと来たのを隠しつつ、平然としたフリで立ってると、三橋が「行く……」ってぼそぼそ答えてんのが聞こえてくる。 「おい、やめとけよ。何かあったらどうすんだ?」 慌てて口を挟むと、「何かって、キスか?」と笑われた。ムカッとしたけど、その通りだったし、反論もできねぇ。 「大丈夫だって。合コンなんか、そういうの想定済みだろ」 って。んな訳ねーだろっつの。無責任なセリフに更にムカつく。 「心配なら、お前も来いよ」 そう言われたら、もう断るって選択肢はなかった。 くそっ、と思う。もしかして、それが狙いか? 人数合わせ? ホントに楽しいモンなら、勧誘するまでもなく、参加希望者が簡単に集まるハズじゃねーの? こんな強引な手口使う時点で、くだらねぇの決定だ。 オレの苛立ちをスルーして、誘って来た同期の男はのほほんと笑ってる。 「もうクリスマス近いし、そろそろ独り身だと寂しいよな」 その呑気な言い分にも、納得はできなかった。 クリスマスって、要はキリストの誕生日だろ。お祝いするとか、敬虔に過ごすとかなら分かるけど、恋人と過ごすってのはどうかと思う。 さらに言えば、クリスマスを一緒に過ごすために、恋人を作るってのもどうなんだ。 「童貞卒業してぇ〜」とか「阿部以外とキスしてぇ〜」とかバカなこと喚いてる同期をよそに、三橋の腕をぐいっと掴む。 「……お前は酒飲むなよ?」 不機嫌を隠しもしねーで命令すると、三橋は青ざめた顔のまま、黙ってこくりとうなずいた。 先輩らによると、逆に、こんな時期にカノジョなんか作るもんじゃねぇらしい。 「付き合ってデート1回して、2回目のデートで、クリスマスに値の張るプレゼントねだられて、年明けにポイ捨てされるコースだぞ」 そんなコースがあんのかどうかは知らねーけど、ヤケに実感がこもってる。 「ぐいぐい来る女は要注意だぞ」 と、そこまで言われると私怨かって感じだけど、あながち間違いだとも思えなかった。 オレよりも、注意して欲しいのは三橋だ。 「酒抜きのコンパにしてくれよ」 誘って来た同期に提案したけど、それはあっさり却下された。 合コンの参加者は、オレら含めて男5人と女5人だった。男は全員野球部員で、女の方はよく知らねぇけど、同学年の女子らしい。 会場は、カラオケ付きの居酒屋の個室。 自己紹介で、名前と学部と出身地、ポジションと血液型まで言うように言われ、渋々ながら順番に従う。 名前やら学部やらは分かるけど、血液型なんかいらねーだろ、っつの。 「阿部隆也、経済学部、埼玉出身。O型、ポジションは捕手」 淡々と言って、ぱらぱらと拍手を貰う。聞いてんのか聞いてねーのか曖昧な反応だったけど、オレだって女どもの自己紹介なんか、聞く耳持ってねぇからオアイコだ。 「みっ、三橋廉、です。体育学部、埼っ玉、出身……」 三橋は緊張しまくって、そんだけ言うのにさんざんドモってた。そんなガチガチになってまで、くだんねぇ集まりに参加しなくてもいーのに。 ポジションが投手だって言うと、女どもが一斉に「へぇ〜」って食いついて、それもなんかムカついた。 三橋のことが気になって仕方なかったけど、自己紹介の後で強引に席替えさせられて、男、女、男、女の順番になるよう座らされて最悪だった。 三橋が遠い。 両脇に座る女どもが臭い。 ビールやらカクテルやらで乾杯してるヤツらが多い中、黙ってウーロン茶を飲み、ガツガツと食う。 「阿部君、部活ない日は何して過ごしてるの?」 「その唐揚げ、美味しい?」 時々くだんねぇ質問をぶつけられたけど、面倒にしか思えなかった。 テーブルの反対側に座る三橋は、両脇の女に絡まれつつ、真っ赤な顔で中ジョッキをあおってる。 酒飲むなっつったのに。なんでオレの言うことがきけねーんだ? ハラハラしてムカムカして、コンパどころじゃなかった。 (続く) [*前へ][次へ#] [戻る] |