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Season企画小説
ぬるま湯にはもう浸かれない・1 (2015阿部誕・大学生・無自覚・同居)
 三橋と同じ大学に入学が決まり、同時に大学近くのマンションで同居することが決まった。
 2LDKで家賃は半分ずつ。互いの頼りなさを補おうと、両方の親が意気投合して勝手に決めた同居だった。
 冗談じゃねーと思ったけど、周りの連中は賛成してたみてーだ。「破れ鍋にとじ蓋」とか言われたけど、同じレベルで語るなっつの。
 でも、正直「面倒」の一言だったけど、助かった面もあった。特にメシ。鍵っ子で、料理にある程度慣れてる三橋は、オレに比べて断然料理が上手かった。
 煮物を作りすぎた時だって、コロッケやオムレツにリメイクしてくれたし。
 先輩や同期との付き合いで、急きょメシが食えなくなっても、「分かった」の一言で許してくれた。
 三橋が料理と洗濯、オレが週1で掃除全般。自然にそんな感じで役割分担ができてって、何とかうまくやれそうだった。
 同居をする前に、幾つか約束事も決めた。

 1、何でも相談すること。
 2、女を連れ込まねぇこと。
 3、冷蔵庫のおやつには名前を書くこと。
 些細なことだけど、特に2番は重要だ。キスしたりそれ以上したりしてるとこ見られたくねーし、逆に三橋のも見たくねぇ。
 まあ、当分そんな心配はいらねーみてぇだったけど、恋人できんのなんか突然だもんな。先にキッチリ決めとくのは大事だと思った。

 1年目は順調だった。
 同じ大学で同じ野球部で、同じ一般教養で。勿論、講義で離れることはあったけど、そんなのは当たり前だし。特に問題なく日々が過ぎてった。
 バッテリーとして、三橋の生活面を管理することができたのも良かった。
 勝手な投げ込みをしねぇよう見張ることもできたし、2人いれば風呂上りのストレッチも楽でイイ。
 早朝や夜に、一緒にロードワークすることもできる。
 特にミーティングの時間を取らなくても、投球の組み立てを相談することもできたし、試合のビデオだって一緒に見れた。
 野球と大学だけの毎日で、バイトする暇もねぇし女を作る暇もねぇ。
 エロ本の貸し借りをする程、打ち解けた訳じゃなかったけど、三橋のオカズなんかに興味ねぇし。個室があるから、処理に困ることもなかった。

 オレらの部屋に入り込むヤツも、田島や泉や水谷くらいしかいなかった。3人とも違う大学だけど、まあ近いと言えば近い。
 入り浸りっつー訳じゃねーけど、月1くらいの頻度では来てて、好き勝手にだべってく。
「三橋ぃ、阿部にいじめられてねーか?」
 3人が3人とも同じこと言うのはムカついたけど、そのたびに三橋が庇ってくれた。
「阿部君は、優しいよ! 頼りがい、あるし、一緒にいて、楽しい」
 ガキみてーに顔を赤くして、田島らに話してんのを見ると、スゲー和んだ。
 出会った当初はムカつくしイラつくし、仲良くなるなんて絶対無理だと思ったけど、そういう訳でもねーんだな。
 女の影なんかちっともねぇけど、特に不自由は感じなかった。
 馴染みの相棒との共同生活。そこに共通の旧友が押しかけてきて、遠慮のねぇ会話してだらだら過ごす。
 こんなぬるま湯みてーな生活が、卒業までずっと続くと思ってた。


 それが崩れ始めたのは、2年目の5月。三橋の誕生日直後の週末だった。
「さあ、三橋。20歳の誕生日おめでとう」
 祝いの言葉と共に、3年4年の先輩に囲まれ、三橋が強引に飲み会に連れて行かれた。
 ホントはどうかは知らねーけど、野球部の伝統行事として「20歳になった部員に酒の飲み方を教える会」ってのがあるらしい。
 オレが20歳になんのは半年先だ。当然ついて行くのは許されず、マンションで留守番する事になった。
 勿論、すげー心配した。
 急性アルコール中毒になんねぇか、酔って転んでケガしたりしねぇか、酔漢とトラブルになったりしねぇか……?
 「過保護か」「オカンか」ってみんなには笑われたけど、とても安心はできなかった。
 だって、一応、三橋の親からも面倒見るよう頼まれてたことだし。……大事な相棒だし。同居人だし。心配しねぇ方がおかしいだろう。

 4月に誕生日を迎えた同期が言うには、ホントにただの飲み会だったみてーだ。
「美味い酒おごって貰えるだけだぜ。実質はただの飲み会。先輩らがオレらにかこつけて、みんなで飲みてぇだけなんじゃねーの?」
 そう言われりゃ確かに、警戒の必要はねーのかも。
 1年2年の内は、野球部の飲み会っつったら裏方ばっかで、落ち着いてメシ食うどころじゃねーもんな。それ抜きで飲むっつったら、そういう機会も必要なのか。

 三橋の方も、色々不安だったんだろう。
「じゃ、じゃあ、阿部君、行ってくる、ねっ」
 先輩らに左右を固められ、オレの方を振り返り振り返り連れられてく様子に、有名な唱歌の牛が重なった。
 三橋の帰りを待ちながら食うメシは、なんか妙に味気なかった。
 不安でどうにも落ち着かなくて、2LDKのマンションの中を、熊みてーにうろうろした。
 気晴らしに課題のレポートでも……と思うけど、全くはかどらねぇ。集中なんかできなかった。
 一体何が不安なんだろう? 三橋の身の安全? 三橋と引き離されたこと? それとも三橋の貞操か?
 バカなことを、と思いつつ、その可能性にドキッとした。
 貞操、って。相手は男か? 女か?

 それは、虫の知らせみてーなモンだったのかも知んねぇ。
 ぬるま湯だった心地いい関係が、少しずつ崩れてく予感。なあなあのまま過ごしてきた共同空間に、おしまいの影が差す。

 三橋が数人の先輩とともに、背負われて帰ってきたのは、夜中の1時過ぎだった。
 一体どんだけ飲まされたんだろう? 酔っぱらった三橋は真っ赤な顔でによによ笑って、先輩の背中に甘えてた。

(続く)

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